貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(189)

 ダージリン伯爵領の領政を担う彼らに思いを馳せていると、ふと昨日アールが言っていた事が脳裏に蘇った。

 「そういえば、アール。昨日何やら小難しい話があるんじゃなかったっけ? 後回しにするって言ってた……」

 アールは「ああ、これはマリーにも聞いて欲しい事なんですが――」とちらりとマリーの方を見、そして僕に顔を向けた。

 「――銀行券のことさ。ダージリン伯爵領とナヴィガポールは勿論、キャンディ伯爵領、リプトン伯爵領ではほとんど行き渡っていると考えて良い。国外ではガリア王国のコスタポリ周辺が時間の問題だろうな」

 「まあ、コスタポリでも?」

 首を傾げるマリー。アナベラ様が、「コスタポリに関してはちょっとした妨害事件があったのだけど、予定が少し早まっただけよ」と微笑み、アールと視線を合わせて頷く。

 「銀行のコスタポリ支店から報告が来ましてね。金とルビー鉱山の話が広まるにつれ、仕事を求めてガリア中から人間が集まってきて――更にその人間を相手に商売する者達がやってきて非常に賑わっているとありました」

 そう言えば、僕は伯爵領と商会で手一杯だったからそこまで気を回していられなかった。
 コスタポリでの商品券の件はほぼアール案件だ。

 「それは良い事だね。だけど、妨害事件って?」

 「ガリア王家さ」

 アールが手に持った羽ペンをくるくると回した。

 「商品券と相殺する資金を教会が用立てる代わりに、採掘された金を以って返済としていく――そういう話になっていた事をどこかで調べ上げたのだろうな。
 段階的にガリア通貨で商品券を買い上げていく――それが順調だったと思いきや、べリザリオ枢機卿から銀行にご相談があったと連絡が来た。
 曰く、『ガリア王家が密かに王都の貴族や商人といった金持ちに教会への寄付をするなと圧力をかけている。このままでは教会の資金が厳しくなる』とね」

 「な、何ですってぇぇ~~!!?」

 「ガリア王を処す? 燃やす? それとも緑の方を人質に――丁度来てるものね!」等と物騒な事を呟きながらいきり立つマリーに、アールはくすくすと笑う。

 「ああ、既に手を売ってあるから大丈夫ですよ、マリー。銀行券を用立ててべリザリオ枢機卿に貸付けることで、商品券と相殺する形に切り替えましたから――商品券は銀行券に置き換わり、教会は今後採掘された金を銀行に返済していく――このような流れとなりました。名目上の金鉱山所有管理は教会のままです」

 「えっ、そうなの?」

 「成程。だから予定が少し早まった、時間の問題だ、と……」

 コスタポリで働く者は全て、銀行券で給与が支払われ、買い物もまたそれが使われる。
 それをガリア王国通貨に替えようとするならば、手数料により額面よりも少なくなるだろう。
 自然、外から交易に来た商人や労働者達は損を嫌ってコスタポリで仕入れや買い物して出て行く事になる。
 コスタポリが生産能力を取り戻すまでは、その対象はトラス王国製品を扱うキーマン商会うち以外にはない。
 結果、キーマン商会うちは独占的に儲かり、コスタポリに居を構える他の商会も銀行券での取引を受け入れざるを得なくなる。
 ガリア王家は教会の金鉱山所有を妨害したつもりだろうが、結果的に金鉱山を一層遠ざけコスタポリの経済支配が一足飛びに進んだ結果となった、と。

 「まあ、アールお義兄様大正解よ! 素晴らしいわ、今後コスタポリとの交易も一層盛んになるわね! 銀行券が流通しているならコスタポリにも工場を作っても良いかも知れない!」

 トマト加工工場に綿織物工場、と胸の前で手を組んで輝かんばかりの笑顔のマリー。「トマトと綿花の栽培は上手く行ったそうだから、今年は作付けを増やすようですよ」とアールが請け負った。

 僕もまた、ある種の高揚感を覚えていた。
 銀行券が通貨に取って代わった地域という意味ではキャンディ伯爵家、リプトン伯爵家、ダージリン伯爵家、ナヴィガポール、コスタポリを切り取ってまとめた国が新たに出来たということ。
 そして、銀行券を管理するのは銀行――アール。

 「どう、アール様もなかなかやるでしょう?」

 アナベラ様が得意気に艶やかな微笑みを浮かべると、アールは恥ずかしそうに頭を掻いた。
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