貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(191)

 アールとアナベラ様に見送られ、僕とマリーが乗った馬車が動き出す。
 目の前のマリーは、鼻歌を歌いながら車窓に広がる景色を楽しんでいた。

 彼女が上機嫌なのは、理由がある。
 キーマン商会コスタポリ支店の報告書を読んで、更に聖女の能力を使って直接復興の様子を知ったからだ。

 僕もそのおこぼれに与って見せて貰ったけれど、コスタポリはかつて見た惨状が嘘のように活気に満ちていた。
 ナヴィガポールもまた、代官レイモン・モンティレの手で港拡張工事が行われたと聞いている。
 銀行券の件で、特にコスタポリとの交易が栄えることだろうと思う。

 「あ!」

 何か忘れていたことを思い出したかのように、マリーがこちらを見た。「どうしたの?」と訊ねると、実は…と話し出す。

 「グレイが出掛けた後のことなんだけど、ルーシ帝国の総主教が一人で訪ねて来たわ。
 色々教会について論じたり、総主教の問いに応えたりしたけれど……帰り際に気になる事を言ったのよ。
 東方教会にも初代聖女にまつわると考えられている古い記録があるんですって」

 「へぇ……そういう記録があるのは不思議じゃないけど、それってマリーを取り込む為の餌なんじゃないの?」

 聖地で見た、初代聖女の日記。あんな感じで僕達には解読不能な文字で書かれている記録なのだとすれば、マリーは間違いなく興味を持つだろうから。
 そう言うと、マリーは「確かに総主教に多少その下心はあったわ」と肩を竦める。

 「でも、どちらかと言えば純粋に解読したいという気持ちの方が大部分を占めていたわね」

 「総主教とは、どういうことを話したの?」

 「何故西方教会なのかとか、東方教会の今後の信仰の心配とか色々訊かれたけれど……争い分裂したのは神々ではなく人間の問題であること、加えて私の次の聖女なり賢者なりが神の采配によって東方教会や月女神信仰の地に現れる可能性もあること、私としては東方教会の事は否定しないし相違点ではなく共通点を探って融和を図っていくつもりだということは伝えたわね」

 まあ忙しさが落ち着いて、気が向いたら能力で探ってみるつもりよ、とマリーは微笑んだ。

 『争い分裂したのは神々ではなく、人間の問題』……か。総主教はさぞかし耳に痛かっただろうなぁ。

 それからとりとめのない話をした後、僕はふとある事が気になった。

 「そう言えば、マリー。捕まったティヴリー子爵はあれからどうなったか知っている?」

 「そうねぇ……」

 マリーはしばし宙に視線を彷徨わせた。

 「今は、余計な事を考えないように聖典を繰り返し朗読させられているわね」

 「え?」

 聖典を? どういうことだろう。

 「メイソンの時は効果があり過ぎて変な方向に失敗したけど、今回は別の方法を実験的にやって貰っているのよ……ああでも、堕ちるのも時間の問題ね。
 全てが終わった時、子爵はきっと、心を改めてくマインドコントロールされて、私達の仲間になってくオルグされてくれると思うわ」

 マリーの言葉に、僕の脳裏に人格が変わってしまった当初のメイソンの姿が思い浮かぶ。

 「心を改めて仲間にって……何だか別の意味に聞こえたような」

 それも、不穏な響きだ。

 「うふふ、気のせい気のせい。メイソンの時みたいに身体にどうこう、というようなことはしていないから大丈夫よ?」

 マリーが人差し指を下唇の下に当て、三日月のように笑った。
 その笑みに、心なしか背筋が薄ら寒いような。
 おかしいな、結構着込んでいるんだけど。というか、メイソンの時はやってたんだ……。

 うん……僕の直感が警告している。深く考えないようにしよう。


***


 その後、僕達が帰宅すると。
 出迎えてくれた執事から、リュサイ様からの伝言を伝えられた。
 ラドさん――アルビオン王国第二王子コンラッド殿下との面会は二日後でお願いします、と。
 やれやれ、使いを出さないとな……と思っていると、既に執事が手配してくれたそうだ。
 僕とマリーが礼を言うと、執事は当然でございますからと首を横に振る。

 「それよりも、王宮から先触れがございまして」

 何でも、明日……サリューン・フォワ枢機卿猊下と外務大臣がやってくるらしい。何の用事で、とマリーが訊くと、複数の小国が聖女の庇護に入る事を宣言した事についてなのだそうだ。

 「うわあああん、明日はのんびり寝て過ごそうと思ったのにぃ~!」

 マリーはその場に崩れ落ちた。
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