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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(198)
「……わた、私がこの国に居る事を知って……」
「姉上、お気を確かに。姉上のことは、このコンラッドがお守りします!」
恐慌状態に陥ったリュサイ様を気遣うように、コンラッド殿下が声を掛ける。
「決して、決して好色王の恣にはさせません!」
「嫌……ああ、どうしたら」
しかしその声が聞こえていないかのように、リュサイ様は頭を抱えてしまった。
「はっ、その言葉どこまで信じられるものやら。命を狙われ、この国に単身落ち伸びて来て。具体的に、如何にして?」
騎士ドナルドが嘲笑交じりに異を唱える。僕もそこは疑問に思っていた。
コンラッド殿下は一瞬顔を歪めたものの、その直後には何かを決意したような表情で騎士ドナルドに顔を向けた。
「……場合によっては、懐に潜り込んで刺し違えてでも。私ならば、父もそう警戒はすまい」
「ほう、親殺しも厭わぬと? それを信用しろとでも? アルビオン人の手を借りるまでもない、これはかの好色王の息の根を止める好機ですよ、我が女王! 一声お命じ下されば、我ら高地の騎士は直ぐにでも彼奴の首級を取りに参りましょうぞ!」
頭を抱えるリュサイ様に騎士の礼を取り決断を迫る騎士ドナルド。
――いや、それは駄目だ!
僕と同じことを思ったのだろう。カレル様が、慌てたように腰を浮かせた。
「待て、ドナルド卿! トラス貴族としてそれは看過できない。我が国を国際問題に巻き込むつもりか!?」
トラス王国内でアルビオン王がカレドニアの騎士に討たれたとなれば。アルビオン王国は事実がどうであろうとも、トラス王国がカレドニア王国に加担したと見做すだろう。
そうなると、間違いなく戦争になる。
「ご安心召されよカレル卿。その時はトラス王国にご迷惑が掛からぬよう、我らの命を以って責任を取る所存。好色王を討ち果たせるのであれば、我らの命など喜んで差し出しましょう!」
「……それでアルビオン側が納得するほど単純であれば良いな。私としては貴殿らの軽挙妄動は看過できない」
「邪魔をなさるおつもりか?」
騎士ドナルドとカレル様が睨み合い、室内が緊迫状態になった。
両者とも、無意識なのか腰の剣に手を置いている。
何とかしなければ、と思ったその時。隣から、パンパンと手を叩く音が響いた。
「まあ、お待ちなさいなドナルド卿。アルビオン王がやってくるまでまだ時間はありますわ。そう血気に逸り、あたら命を粗末にするものではありません」
マリーの穏やかな言葉に僕も頷く。
「マリーの言う通りです。そうだ、ダージリン伯爵領……いえ、いっそ聖地に向かわれますか? 今すぐ発てばアルビオン王が王都に着く前に逃れられると思います。聖地まで行かれるのであれば、そのように手配しますが」
少なくとも、その方がアルビオン王を闇討ちしに行かれるよりはずっといい。何なら、その旅費を全額出しても構わない。
「分かりました……決められるのは我が女王です。どうなさいますか?」
「 待って……様子がおかしいわ。リュシー様?」
リュサイ様は頭を抱えたまま返答しなかった。小刻みに震え続けている。異変に気付いた僕達は顔を見合わせた。
マリーがじっとリュサイ様を見つめる。
「……リュシー様は最悪の未来を想像してしまって、恐怖と混乱でぐちゃぐちゃになっているわ。カレル兄、お願い」
マリーの指名にカレル様は頷くと、リュサイ様の隣に寄り添うように座った。
震えるリュサイ様の背を軽く叩きながら「大丈夫ですか?」と顔を覗き込むと、リュサイ様は小さく何事かを呟くなりカレル様の胸に縋り付く。
「……部屋に戻られた方が良いようですね。お立ちになれますか?」
リュサイ様は答えない。カレル様は小さく溜息を吐くと、「失礼致します」と言ってそのままリュサイ様を横抱きにして立ち上がった。
喫茶室を出て行くカレル様を、騎士ドナルドとリュサイ様付きの侍女(確かララという名だった)が慌てて追っていく。
扉が閉じられ、喫茶室の中に静けさが訪れた。
「カール」
サリーナが咎めるように名を呼ぶと、カールは「申し訳ありません、配慮不足でしたー、まさかあそこまでの反応をされるとは思ってなくてー」ときまり悪そうに頬を掻く。
「仕方ないよ、リュサイ様の反応は僕達も予想外だったから」
僕がそう言うと、マリーが紅茶を一口啜って息を吐いた。
「そうね……リュサイ様が人事不省に陥った以上、この面子である程度好色王への対策を考えるしかないわ」
「姉上、お気を確かに。姉上のことは、このコンラッドがお守りします!」
恐慌状態に陥ったリュサイ様を気遣うように、コンラッド殿下が声を掛ける。
「決して、決して好色王の恣にはさせません!」
「嫌……ああ、どうしたら」
しかしその声が聞こえていないかのように、リュサイ様は頭を抱えてしまった。
「はっ、その言葉どこまで信じられるものやら。命を狙われ、この国に単身落ち伸びて来て。具体的に、如何にして?」
騎士ドナルドが嘲笑交じりに異を唱える。僕もそこは疑問に思っていた。
コンラッド殿下は一瞬顔を歪めたものの、その直後には何かを決意したような表情で騎士ドナルドに顔を向けた。
「……場合によっては、懐に潜り込んで刺し違えてでも。私ならば、父もそう警戒はすまい」
「ほう、親殺しも厭わぬと? それを信用しろとでも? アルビオン人の手を借りるまでもない、これはかの好色王の息の根を止める好機ですよ、我が女王! 一声お命じ下されば、我ら高地の騎士は直ぐにでも彼奴の首級を取りに参りましょうぞ!」
頭を抱えるリュサイ様に騎士の礼を取り決断を迫る騎士ドナルド。
――いや、それは駄目だ!
僕と同じことを思ったのだろう。カレル様が、慌てたように腰を浮かせた。
「待て、ドナルド卿! トラス貴族としてそれは看過できない。我が国を国際問題に巻き込むつもりか!?」
トラス王国内でアルビオン王がカレドニアの騎士に討たれたとなれば。アルビオン王国は事実がどうであろうとも、トラス王国がカレドニア王国に加担したと見做すだろう。
そうなると、間違いなく戦争になる。
「ご安心召されよカレル卿。その時はトラス王国にご迷惑が掛からぬよう、我らの命を以って責任を取る所存。好色王を討ち果たせるのであれば、我らの命など喜んで差し出しましょう!」
「……それでアルビオン側が納得するほど単純であれば良いな。私としては貴殿らの軽挙妄動は看過できない」
「邪魔をなさるおつもりか?」
騎士ドナルドとカレル様が睨み合い、室内が緊迫状態になった。
両者とも、無意識なのか腰の剣に手を置いている。
何とかしなければ、と思ったその時。隣から、パンパンと手を叩く音が響いた。
「まあ、お待ちなさいなドナルド卿。アルビオン王がやってくるまでまだ時間はありますわ。そう血気に逸り、あたら命を粗末にするものではありません」
マリーの穏やかな言葉に僕も頷く。
「マリーの言う通りです。そうだ、ダージリン伯爵領……いえ、いっそ聖地に向かわれますか? 今すぐ発てばアルビオン王が王都に着く前に逃れられると思います。聖地まで行かれるのであれば、そのように手配しますが」
少なくとも、その方がアルビオン王を闇討ちしに行かれるよりはずっといい。何なら、その旅費を全額出しても構わない。
「分かりました……決められるのは我が女王です。どうなさいますか?」
「 待って……様子がおかしいわ。リュシー様?」
リュサイ様は頭を抱えたまま返答しなかった。小刻みに震え続けている。異変に気付いた僕達は顔を見合わせた。
マリーがじっとリュサイ様を見つめる。
「……リュシー様は最悪の未来を想像してしまって、恐怖と混乱でぐちゃぐちゃになっているわ。カレル兄、お願い」
マリーの指名にカレル様は頷くと、リュサイ様の隣に寄り添うように座った。
震えるリュサイ様の背を軽く叩きながら「大丈夫ですか?」と顔を覗き込むと、リュサイ様は小さく何事かを呟くなりカレル様の胸に縋り付く。
「……部屋に戻られた方が良いようですね。お立ちになれますか?」
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喫茶室を出て行くカレル様を、騎士ドナルドとリュサイ様付きの侍女(確かララという名だった)が慌てて追っていく。
扉が閉じられ、喫茶室の中に静けさが訪れた。
「カール」
サリーナが咎めるように名を呼ぶと、カールは「申し訳ありません、配慮不足でしたー、まさかあそこまでの反応をされるとは思ってなくてー」ときまり悪そうに頬を掻く。
「仕方ないよ、リュサイ様の反応は僕達も予想外だったから」
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