貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(200)

 (※梟雄:残忍で強く荒々しい人。悪者などの首領にもいう。三国志の董卓みたいな人間に使われます。)

 ――あの男を連れて来なくて正解だったな。

 アンタークとは一度別れ、安宿で待機してもらっている。彼は王一行を見つけた時に、心配して自分も行こうかと申し出てくれたが、自分の正体の露見や恩人を巻き添えにする結果になることだけは避けたいと断った。
 代わりに、『自分が本日中に戻らなければ、申し訳ないがそのまま一人で旅をして欲しい』と伝え、これまでの謝礼も含めてまとまった金子を渡してある。
 もっとも、ドレイクとて最悪な事態に陥ったとしてもただで死んでやるつもりはないが。

 護身の為に携帯している武器や小袋を意識しつつ、周囲に悟られぬように目玉だけを動かして前方を睨みつける。

 「何故そなたがここにいるのだ。船に乗っておるのではなかったか」

 いぶかし気に問われた言葉にドレイクは内心勢いづいた。好色王は未だ自分の敗戦の事は知らない――ならば、やりようはある。
 ドレイクは顔を上げた。

 「ははっ。補給の為にたまたまこの国の港町に立ち寄ったのですが、陛下がこの国にいらっしゃると小耳に挟みまして――お役に立てることがあるかと考え、急ぎ罷り越しました。どうか私めもお供に――」

 刹那。

 周囲から一斉に響く金属音、そして女達の悲鳴。
 お加え下さい、という言葉は途中で途切れることになった。ドレイクは王の供の男達――恐らく近衛騎士だろう――全員に、剣先を突き付けられていたからだ。
 ドレイクの背筋を冷や汗が伝う。

 「へ、陛下……これは」

「所詮は海賊風情か。戯言を紡ぐ口は良く回ることだ。余が何も知らぬと思うてか。エスパーニャとの戦で大敗し、船をことごとく失って落ち延びて来たのであろう?」

 「……」

 一言一言が氷の楔となって、心臓に突き立てられるような感覚。正直、ドレイクはどこか甘く見ていたのだ――ぶくぶくと肥え太った怠惰な色狂いの王だと。それがどうだ。実際は『梟雄※』と呼ばれ得る化け物のような存在ではないか!

 「余をたばかるとはな――こ奴を処断せよ!」

 毒竜は脂汗を浮かべながら、小袋を手に握りしめる。中には目潰しになり得る唐辛子の粉が詰まっている。それをぶちまけてドアの方向に身を転がそうと構えた、その時。

 「お待ちください、陛下! 毒竜は卑賎の身といえども、優秀な船乗りにございます。この者の代わりがそう見つかるとも思えませぬ。これまでの働きに免じて慈悲をお与えになれば、この者はこれまでより一層陛下に尽くすでしょう」

 前に進み出てきたのは大主教だった。アルビオン王国内において国王に次ぐ権威を持ち、国王の代理として国内を纏め上げている聖職者である。

 「それに、聖女様にお会いしに行こうという目出度き旅路で、血を見る事は不吉にございますれば……」

 深々と頭を垂れる大主教の言葉に、アルビオン王ゴードリクは一理あるとでも思ったのか押し黙ってしまった。値踏みする眼差しが落ちて来る。ドレイクの処遇をどうするべきか考えているのだろう。王は、迷っている。
 抜け目ない毒竜は、この好機を逃すまいと口を開いた。

 「卑賎の身ながら……陛下は聖女様にお会いなされるおつもりかとご推察しております。ここで私の命を救い、お供する事をお許し下されば、そのご恩に報いる為、何かと役に立ってご覧に入れましょう!」

 ドレイクの言葉に、好色王の目がぎらりと光ったように見えた。

 「ほう、それは例えば――これまでの働きのような、と理解したが」

 これまでの働き、とは殺しや略奪等の汚れ仕事――海賊働きの事を指している。勿論、王好みの美男美女を何人も提供してきた。
 ドレイクが思うに、わざわざそういう言い方をしたということは、アルビオン王は本命のカレドニア女王は勿論、トラス王国の美男美女――あわよくば聖女を、と考えているのだろう。

 「陛下の思し召しのままに……」

 「良かろう。我が供に加わるが良い。功を立てる事で敗戦の咎は帳消しにしてやろうぞ。新たな船を与えてやっても良い」

 「はっ、有難き幸せ!」

 毒竜ヒューズ・ドレイクは首の皮一枚繋がったことに安堵しながら頭を垂れた。
 カレドニア女王や聖女の身は聖騎士や多くの護衛に守られている事だろう。
 簡単ではないが、隙を何とか突く事が出来れば、あるいは。

 「……仕事がしやすいよう、そなたは余の側近として扱ってやろう。適当な貴族名……ふむ、テール・リザード男爵とでも名乗るが良い」

 「かしこまりました」

 警戒を抱かれぬよう下知があるまで大人しくしていろ、ということだ。

 ドレイクは安宿に戻ると、アンタークに改めて謝礼を渡し別れを告げた。
 貸与された衣装に身を包んで貴族に扮すると、アルビオン王一行の末席に加わったのである。
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