貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

総主教エロフェイ来訪。

 流浪の民達凸事件&夕食会の次の日の朝。
 起床して身支度を済ませ、日課の乗馬や宿泊組の親族を交えた朝食を終えた後、私は自室に戻り机に向かっていた。

 というのも昨夜の夕食会で、アナベラ姉にはあんまりグレイに無理をさせるなと説教を食らってしまったのである。灯りでは顔色が良く分からないので精神感応を使ってみると、グレイはかなり疲弊していたので反省。

 彼の仕事の内……せめて私が希望する事業に関する部分だけでも自分が負担した方が良いだろうな。温泉・競馬場は私の我儘でもあるのだし。

 流浪の民達の件にも関わって来る、競馬場や温泉保養施設等の私の個人的な希望わがままによる事業の計画書を書いているのである。
 事業計画書をどんな風に書こうかしばし悩んだ末、私は前世IT企業で働いた杵柄――システム開発の要件定義書みたいな感じで作成することに決めた。見積にもなるし、丁度良いだろう。

 サラサラとガラスペンを紙に走らせながら、夕べの記憶を辿る。ベッドに就いてすぐ、グレイは全身麻酔をされたように眠りに落ちていたっけ。
 それなのに、私が朝起きた時にはもうグレイの姿は無かったので驚いた。侍女のナーテによれば当家自慢の菓子を携え、既に出掛けたという。仕事熱心なことだ。
 今頃は王都一番街トワネット通りにあるキーマン商会トラス王都本店に顔を出し、従業員達を労っているのだろう。

 ちなみに今日の私の予定は、ルフナー子爵家でご挨拶――所謂『義実家詣で』。
 サリーナ曰く、

 「ルフナー子爵家へのご挨拶は午後から。アール様とアナベラ様とご一緒の馬車で、とのことです」

 自分も疲れているだろうに、私の事を慮ってくれるとは……グレイはやはり出来た男、株価ストップ高だ。だからこそ、普段は働きたくない私も多少の骨を折ろうという気になるもの。

 「ふう、こんなもんか」

 私は書き終わった紙をトントンと揃えた。
 グレイに会ったら私も仕事を負担する旨を伝えて、誠心誠意謝ろう。
 思いやりと労わりを忘れないことは夫婦円満の秘訣だからな。

 そう思いながらうーんと伸びをしていると、扉からやや忙しないノック音。入室許可を出すと、サリーナが入室してきた。

 「サリーナ。少し焦っているようだけれど、何かあったの?」

 「マリー様。実は今しがた、ルーシ帝国の方が訪ねて来られました。非公式の訪問にて先触れが無い非礼を詫びられまして――しもべエロフェイは聖女様へのお目通りは叶いましょうか、と。お年を召した男性と数人の随行の者達ですが、如何なさいますか?」

 偽名は捨てパンティー……いや、東方教会の総主教エロフェイだ。


***


 遠隔透視と精神感応で来意を探ったところ、ガチで孫の皇太子にも内緒で訪ねてきていることが分かった。
 その為に護衛も総主教に忠実な東方教会所属の騎士を厳選してきている模様。

 お昼までなら、という約束で私は総主教エロフェイに会うことにした。

 こちらは見守り役だとやってきたカレル兄、馬の脚共やサリーナ達侍女が見守る。一方の総主教側は騎士一人のみの立ち合いという条件である。ごねられたが、総主教の一声で他の者は別室で待機と相成った。

 「しもべエロフェイ、先触れ無きご無礼にも関わらずお目通りをお許し頂きましたこと、伏してお詫び申し上げると共に有難き幸せに存じます」

 手土産をお納めください、とうやうやしく差し出されたのは圧縮して固められた『磚茶たんちゃ』だった。中国茶専門店で売っていたプーアル茶を思い出す。お土産でも貰ったっけ。ダイエットや美容効果に優れているので、一時期飲んでいたことがある。
 礼を述べ有難く受け取り、総主教が何かを言う前にサリーナに淹れ方を指示する。基本烏龍茶と同じく一度洗うやり方だ。
 そう言えばパウンドケーキがあったっけ。多少油っこいお菓子の方がプーアルに合う。

 程無くして。
 呆気に取られた様子の総主教と私の前に、湯気を立てるティーカップとパウンドケーキが小さな音を立てて置かれた。

 「総主教様もどうぞ」

 私がティーカップを持ち上げたところで、総主教エロフェイは、はっと我に返った様子で

 「お待ちを! しもべが持参致しましたものですので」

 とティーカップを押しいただくようにした後一口飲んだ。
 そこまでしなくとも、と思いながら私も続く。
 少し癖のある、懐かしいプーアル茶の香りと味わいが口腔に広がった。
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