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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
決まった……!
皇太子ゲーリーは後で遠隔透視と精神感応で動向を追ってみることにして。
「私の事を心配して下さっているそのお気持ち、大変嬉しく思いますわ。皇太子殿下は祖父思いで慎重な方なのでしょう。きっと、分かって下さるのに少々時間がかかっているだけ……」
手を胸の前で組む聖女ムーブで言う私。総主教は居住まいを正して祈りの所作をし、妙に迫力のある眼光で私を見つめてきた。
「……聖女様。僕エロフェイはどうしてもお訊ねしたき儀がございます。
何故……何故、聖女様は我が東方ではなく西方教会側に降誕なされたのでしょう。神は東方教会をお見捨てたもうたのですか。
であるならば、今後東方教会の在り方や信仰の行く末はどうなってしまうのでしょう?」
どこか縋るように見てくる総主教。回答次第で東方教会を取り込めるかどうかがかかっている。
内心気合いを入れた私は、脳裏に仏陀を思い描きながら微笑んだ。きっと傍から見ればアルカイックスマイルを浮かべていることだろう。
私はそのまま厳かに口を開いた。その名を口にする時は笑ってはいけない。平常心、平常心。
「聞きなさい、我が僕東方教会総主教――エロフェイ・フョードロヴィチ・ウンコグフッ……失礼。
元々一つの教会だったものが分かたれたのは……神ではなく。あくまでも人の問題に過ぎません。互いに敵味方と断じたのもまた、神が定めたものに非ず。人の都合によるものなのです」
危なかった……若干声が震えて粗相をしてしまったが、そこに却って迫力を感じたらしい総主教。
緊張した様子で喉元を上下させている。
「神ではなく、人の問題……?」
「聖女や賢者といった聖者は、そのような人の都合には縛られず、神の采配によってこの世に遣わされます。
私の次にこの世に遣わされる方は、ひょっとすると東方教会や月女神信仰の国、果ては異教の国々や信仰無き地に降誕されるかも知れません。全ては神のご意志なのです」
「現在の神のご意志は西方教会にある、と?」
「一つ誤解しないで頂きたいのですが。確かに私は、西方教会聖地のサングマ教皇猊下にお世話になっています。しかしそれが即ち東方教会の否定に繋がる訳ではありません。
貴方が自分の右手を贔屓して残し、左手を憎んで切り捨てることをしないのと同様に――神は一方を優遇し一方を冷遇するということはないのです」
私はお茶を一口飲んで喉を湿らせる。ここから一気に畳みかけるぞ。
「教会の東西だの異教だのにこだわっているのは人間なのです。世の争いの実態は、善悪の間ではなく。異なる二つの正義の間で起こります。
だから争いは何時までも続き、深い否定・拒否・分裂・不和を招く――それは、実に悪魔的な働きだとは思いませんか?」
「それが、東西分裂だった……と。東西が分裂したのは悪魔の所為だと仰るのですか?」
愕然とする総主教エロフェイ。私は微笑むと、内緒話をするように唇に人差し指を当てた。
「恐れる必要はありません。闇を知らねば光を知ることが無いように、その悪魔的な働きもまた……人が学び神に近付く為の大いなるご意志の内にあるのですから」
「お、おお……!」
「先程、様々なお茶を飲まれたでしょう? 色も味も香りもそれぞれ違いますが、元の原料は全て同じお茶の木。この世に数多ある教えもそれと同じで――元は一つなのです」
「何と、そうだったのですか!?」
驚いてティーカップを見つめる総主教に、私は遥かな未来において、やがて宗教は統一へ向かうだろうという予想を語った。
「相違点よりも共通点を以って融和を。私は、肯定と受容、統合、平和を望んでいます。後世の人類の為にも、その下地だけでも築きたいと願って已みません」
貴方もそれを望んで下さるのでしょうか、と問うと、総主教は感極まったように立ち上がり私の前に膝をつく。
「も、勿論でございます! 今日この日、僕は聖女様の器の大きさと自らの信仰の矮小さを知り、真なる教えを拝聴したことで目が覚める思いを致しました……!
かような老体ではございますが、聖女様のお役に立てるのならば望外の喜びにございます!」
平伏す総主教エロフェイの後頭部。私は『決まった……!』と一仕事終えた感である。これで事実上東方教会を取り込んだようなものだが、念には念を入れておかねば。
「ありがとうございます。顔をお上げ下さい、総主教猊下。信仰篤く私と心を一つに共に歩んで下さる人々は、神の知恵と恩恵が齎されることでしょう」
「神の知恵と恩恵…」
「即ち、『神の刻印』や『蒸気機関車』といった有用な技術。この世の人々はまだ神から見れば未成熟で、頑是ない子供のようなもの……甘い飴玉は、いつでも親の言う事をよく聞く素直な子にこそ与えられるのですわ」
これは、総主教の背後に立つ東方教会の騎士へ向けて言った言葉でもある。
お前らが欲しがっている最新技術は、マリーちゃんの味方でないと絶対やらんということなのだよ。
「聖女様のご意志は、必ずや我が孫ゲーリーに伝えます」
私の意を理解したのだろう総主教は、真剣な面持ちで頷いた。
「私の事を心配して下さっているそのお気持ち、大変嬉しく思いますわ。皇太子殿下は祖父思いで慎重な方なのでしょう。きっと、分かって下さるのに少々時間がかかっているだけ……」
手を胸の前で組む聖女ムーブで言う私。総主教は居住まいを正して祈りの所作をし、妙に迫力のある眼光で私を見つめてきた。
「……聖女様。僕エロフェイはどうしてもお訊ねしたき儀がございます。
何故……何故、聖女様は我が東方ではなく西方教会側に降誕なされたのでしょう。神は東方教会をお見捨てたもうたのですか。
であるならば、今後東方教会の在り方や信仰の行く末はどうなってしまうのでしょう?」
どこか縋るように見てくる総主教。回答次第で東方教会を取り込めるかどうかがかかっている。
内心気合いを入れた私は、脳裏に仏陀を思い描きながら微笑んだ。きっと傍から見ればアルカイックスマイルを浮かべていることだろう。
私はそのまま厳かに口を開いた。その名を口にする時は笑ってはいけない。平常心、平常心。
「聞きなさい、我が僕東方教会総主教――エロフェイ・フョードロヴィチ・ウンコグフッ……失礼。
元々一つの教会だったものが分かたれたのは……神ではなく。あくまでも人の問題に過ぎません。互いに敵味方と断じたのもまた、神が定めたものに非ず。人の都合によるものなのです」
危なかった……若干声が震えて粗相をしてしまったが、そこに却って迫力を感じたらしい総主教。
緊張した様子で喉元を上下させている。
「神ではなく、人の問題……?」
「聖女や賢者といった聖者は、そのような人の都合には縛られず、神の采配によってこの世に遣わされます。
私の次にこの世に遣わされる方は、ひょっとすると東方教会や月女神信仰の国、果ては異教の国々や信仰無き地に降誕されるかも知れません。全ては神のご意志なのです」
「現在の神のご意志は西方教会にある、と?」
「一つ誤解しないで頂きたいのですが。確かに私は、西方教会聖地のサングマ教皇猊下にお世話になっています。しかしそれが即ち東方教会の否定に繋がる訳ではありません。
貴方が自分の右手を贔屓して残し、左手を憎んで切り捨てることをしないのと同様に――神は一方を優遇し一方を冷遇するということはないのです」
私はお茶を一口飲んで喉を湿らせる。ここから一気に畳みかけるぞ。
「教会の東西だの異教だのにこだわっているのは人間なのです。世の争いの実態は、善悪の間ではなく。異なる二つの正義の間で起こります。
だから争いは何時までも続き、深い否定・拒否・分裂・不和を招く――それは、実に悪魔的な働きだとは思いませんか?」
「それが、東西分裂だった……と。東西が分裂したのは悪魔の所為だと仰るのですか?」
愕然とする総主教エロフェイ。私は微笑むと、内緒話をするように唇に人差し指を当てた。
「恐れる必要はありません。闇を知らねば光を知ることが無いように、その悪魔的な働きもまた……人が学び神に近付く為の大いなるご意志の内にあるのですから」
「お、おお……!」
「先程、様々なお茶を飲まれたでしょう? 色も味も香りもそれぞれ違いますが、元の原料は全て同じお茶の木。この世に数多ある教えもそれと同じで――元は一つなのです」
「何と、そうだったのですか!?」
驚いてティーカップを見つめる総主教に、私は遥かな未来において、やがて宗教は統一へ向かうだろうという予想を語った。
「相違点よりも共通点を以って融和を。私は、肯定と受容、統合、平和を望んでいます。後世の人類の為にも、その下地だけでも築きたいと願って已みません」
貴方もそれを望んで下さるのでしょうか、と問うと、総主教は感極まったように立ち上がり私の前に膝をつく。
「も、勿論でございます! 今日この日、僕は聖女様の器の大きさと自らの信仰の矮小さを知り、真なる教えを拝聴したことで目が覚める思いを致しました……!
かような老体ではございますが、聖女様のお役に立てるのならば望外の喜びにございます!」
平伏す総主教エロフェイの後頭部。私は『決まった……!』と一仕事終えた感である。これで事実上東方教会を取り込んだようなものだが、念には念を入れておかねば。
「ありがとうございます。顔をお上げ下さい、総主教猊下。信仰篤く私と心を一つに共に歩んで下さる人々は、神の知恵と恩恵が齎されることでしょう」
「神の知恵と恩恵…」
「即ち、『神の刻印』や『蒸気機関車』といった有用な技術。この世の人々はまだ神から見れば未成熟で、頑是ない子供のようなもの……甘い飴玉は、いつでも親の言う事をよく聞く素直な子にこそ与えられるのですわ」
これは、総主教の背後に立つ東方教会の騎士へ向けて言った言葉でもある。
お前らが欲しがっている最新技術は、マリーちゃんの味方でないと絶対やらんということなのだよ。
「聖女様のご意志は、必ずや我が孫ゲーリーに伝えます」
私の意を理解したのだろう総主教は、真剣な面持ちで頷いた。
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