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第一章 遭遇
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「起きろ、陽介」
「んあ?」
ぽこんと頭を叩かれて、陽介は机から体を起こした。寝ぼけた目で見渡せば、休み時間になった教室は賑やかだった。
「あれ?」
「とっくに二時間目は終わったよ。休み時間の間寝かせといてやった俺に感謝しろ」
陽介を覗き込んでいるのは、同級生の森塚諒だ。
「数学は?」
「終わったっちゅーに。次、地学。行くぞ」
「あー」
まだぼんやりとしながら陽介は、カバンから地学の教科書を取り出す。
「昨日は、遅かったのか? また星、見に行っていたんだろ」
「うん。帰ったのは……十一時、だったかな」
普段なら、平日に星を見に外出することはほどんどない。けれど夕べは、中間テストも終わり念願の望遠鏡を使いたくてうずうずしている状態での絶好の観測日和だったため、つい出かけてしまった。
半分寝ているような顔の陽介を連れて、諒は人にぶつからないように廊下を歩いていく。
「遅くなるなら、変なのにからまれないように気をつけろよ」
「うん。あ」
陽介の視線の先、3人の女子がこちらに向かって歩いて来る。その中心にいるのは。
「木ノ芽藍……」
ぼんやりとしていてつい、口に出してしまった。は、とあわてて口元を抑えたが、自分の名前を呼ばれたことに気が付いた木ノ芽が近寄ってくる。
「陽介君? なあに?」
にっこりと笑顔で答えられた陽介は、戸惑う。その笑顔は、夕べの無表情とは180度違い夏の太陽のように明るかった。
そうだ、と陽介はあらためて思い出す。自分の知っている木ノ芽藍は、こういう女子だった。
直接話したことはないが、いつでも笑っている印象がある。彼女のまわりには、男女問わず人のきれることがない。
夕べの女性は木ノ芽と呼ばれて肯定の返事はしなかったが、今目の前にいる本人とは雰囲気がまるで違う。
(あれ? もしかして、俺の勘違いだったのかな?)
いまさら何でもないとも言いづらく、陽介は仕方なく口を開いた。
「あの……さ、夕べ、小春霊園にいた?」
すると木ノ芽は、少し考えるように首をかしげた後、目を細めて、ふふ、と笑った。
「内緒」
両手で口元を隠すようにして、彼女は笑った。
二人の様子を見ていた木ノ芽の両脇の女子が、からかうようにはしゃぐ。
「何、藍。ちょっと意味深」
「夕べってどういうこと? あやしー」
いた、いない、の答えしか想像していなかった陽介は、予想外の女子たちの反応についていけずにあわてた。
「ごめん。木ノ芽さん、やっぱりなんでもない」
「それ」
あわててその場を離れようとした陽介に、びし、と木ノ芽は人差し指をつきつけた。
「んあ?」
ぽこんと頭を叩かれて、陽介は机から体を起こした。寝ぼけた目で見渡せば、休み時間になった教室は賑やかだった。
「あれ?」
「とっくに二時間目は終わったよ。休み時間の間寝かせといてやった俺に感謝しろ」
陽介を覗き込んでいるのは、同級生の森塚諒だ。
「数学は?」
「終わったっちゅーに。次、地学。行くぞ」
「あー」
まだぼんやりとしながら陽介は、カバンから地学の教科書を取り出す。
「昨日は、遅かったのか? また星、見に行っていたんだろ」
「うん。帰ったのは……十一時、だったかな」
普段なら、平日に星を見に外出することはほどんどない。けれど夕べは、中間テストも終わり念願の望遠鏡を使いたくてうずうずしている状態での絶好の観測日和だったため、つい出かけてしまった。
半分寝ているような顔の陽介を連れて、諒は人にぶつからないように廊下を歩いていく。
「遅くなるなら、変なのにからまれないように気をつけろよ」
「うん。あ」
陽介の視線の先、3人の女子がこちらに向かって歩いて来る。その中心にいるのは。
「木ノ芽藍……」
ぼんやりとしていてつい、口に出してしまった。は、とあわてて口元を抑えたが、自分の名前を呼ばれたことに気が付いた木ノ芽が近寄ってくる。
「陽介君? なあに?」
にっこりと笑顔で答えられた陽介は、戸惑う。その笑顔は、夕べの無表情とは180度違い夏の太陽のように明るかった。
そうだ、と陽介はあらためて思い出す。自分の知っている木ノ芽藍は、こういう女子だった。
直接話したことはないが、いつでも笑っている印象がある。彼女のまわりには、男女問わず人のきれることがない。
夕べの女性は木ノ芽と呼ばれて肯定の返事はしなかったが、今目の前にいる本人とは雰囲気がまるで違う。
(あれ? もしかして、俺の勘違いだったのかな?)
いまさら何でもないとも言いづらく、陽介は仕方なく口を開いた。
「あの……さ、夕べ、小春霊園にいた?」
すると木ノ芽は、少し考えるように首をかしげた後、目を細めて、ふふ、と笑った。
「内緒」
両手で口元を隠すようにして、彼女は笑った。
二人の様子を見ていた木ノ芽の両脇の女子が、からかうようにはしゃぐ。
「何、藍。ちょっと意味深」
「夕べってどういうこと? あやしー」
いた、いない、の答えしか想像していなかった陽介は、予想外の女子たちの反応についていけずにあわてた。
「ごめん。木ノ芽さん、やっぱりなんでもない」
「それ」
あわててその場を離れようとした陽介に、びし、と木ノ芽は人差し指をつきつけた。
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