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第二章 それぞれの嫉妬
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いつも通りの陽介の態度は、自分がどんな感情を藍に向けていたのかまったく気づいていない証拠だ。もし自覚があったら、きっともっと動揺していたに違いないと皐月は思う。
なるべく不機嫌を顔に出さないようにして、皐月は二人に近づく。
「陽介、古典の教科書貸して」
「古典? 部室だ。次の時間?」
読んでいた雑誌を片付けながら、陽介が聞き返した。
だいたいの教科書は、部室に置きっぱなしだ。部室棟までは少し距離があるので、次の時間だと急がなければならない。
「あ、私教室にあるから貸すよ」
「ううん、6時間目だから、あとで取りに行ってくる。陽介、勝手に持っていくね」
そう? と首をかしげる藍をわざと視界に入れないようにして、皐月は陽介の隣に並ぶと一緒に図書館を出る。
「いいけど、戻しとけよ」
「藍―!」
廊下の向こうから、同じようにクラスに戻るらしい藍のクラスの女子が、藍を呼んだ。彼女たちに手を振りながら藍は走り出す。
「じゃあね、皐月ちゃん。陽介君、また望遠鏡見せてね」
「ちゃんとあったかくして来いよ」
「はあい」
陽介がなんとはなしに藍の後ろ姿を見ていると、皐月の静かな声がした。
「陽介、藍ちゃんと一緒に星見たの?」
ああ、と反射的に答えた陽介は、次の瞬間、しまったという顔になる。
「なんで私にはダメって言ったくせに、あの子には見せてるのよ」
「偶然だよ、偶然」
「偶然? 夜中に? それにまた見せてって……どういうこと?!」
急に怒り始めた皐月に、陽介は困惑しながら答える。
「いや、俺にだってよくわからないし……」
ぎゅ、とにぎりしめた皐月の手が震えた。
「もうあの子に関わるのやめなよ」
こんなこと言ったらいけない。それは皐月にもわかっていた。なのに、ずっと胸にあったドロドロした嫌な感情は、一度あふれだしたらもう止まらない。
「なに?」
「藍ちゃんて、あれで結構男癖悪いの。1年の時からモテてたけど、付き合った彼氏が長くても一週間とかしかもたないんだよ」
「は? 藍が?」
そんなの嘘だ、と皐月自身もわかっている。それでも、陽介にこれ以上藍に近づいてほしくないという思いが、皐月にそれを言わせてしまった。
「そうだよ。同時に何人もの男子とつき合うことだってしょっちゅう。だから陽介だって、そのうちの一人にすぎないんだよ。そんなの嫌でしょう? だから、もう会うのやめなよ」
(私、嫌な子だ)
苦しそうな顔になった皐月には気づかずに、陽介は笑い出した。
「まさか。藍はそんなことする子じゃないよ」
「騙されている男は、みんなそう言うの。あんな顔して藍ちゃんて本当は」
「皐月、藍のこと嫌いなのか?」
叩きつけるような皐月の言葉を遮って、陽介は表情を硬くする。痛いところをつかれて、皐月はうつむいた。
「そんなこと……ない」
「なんでそんな陰口みたいなこと言うんだよ。お前がそんなこと言うの初めて聞いた。藍となんかあったのか?」
「だって……」
皐月の顔が、泣きそうに歪む。
「藍ちゃんが……」
細くなる声を聞き逃すまいと陽介が近づくと、き、と皐月はその顔を睨みつけた。
「そうよ。藍ちゃんなんて、大嫌い!」
私の陽介を、奪っていくから。
そこまで口にすることはできずに、皐月は陽介に背を向けて逃げ出した。
「皐月……?」
呆然と見送る陽介を、あたりの生徒がもの珍しそうに見ていた。
☆
なるべく不機嫌を顔に出さないようにして、皐月は二人に近づく。
「陽介、古典の教科書貸して」
「古典? 部室だ。次の時間?」
読んでいた雑誌を片付けながら、陽介が聞き返した。
だいたいの教科書は、部室に置きっぱなしだ。部室棟までは少し距離があるので、次の時間だと急がなければならない。
「あ、私教室にあるから貸すよ」
「ううん、6時間目だから、あとで取りに行ってくる。陽介、勝手に持っていくね」
そう? と首をかしげる藍をわざと視界に入れないようにして、皐月は陽介の隣に並ぶと一緒に図書館を出る。
「いいけど、戻しとけよ」
「藍―!」
廊下の向こうから、同じようにクラスに戻るらしい藍のクラスの女子が、藍を呼んだ。彼女たちに手を振りながら藍は走り出す。
「じゃあね、皐月ちゃん。陽介君、また望遠鏡見せてね」
「ちゃんとあったかくして来いよ」
「はあい」
陽介がなんとはなしに藍の後ろ姿を見ていると、皐月の静かな声がした。
「陽介、藍ちゃんと一緒に星見たの?」
ああ、と反射的に答えた陽介は、次の瞬間、しまったという顔になる。
「なんで私にはダメって言ったくせに、あの子には見せてるのよ」
「偶然だよ、偶然」
「偶然? 夜中に? それにまた見せてって……どういうこと?!」
急に怒り始めた皐月に、陽介は困惑しながら答える。
「いや、俺にだってよくわからないし……」
ぎゅ、とにぎりしめた皐月の手が震えた。
「もうあの子に関わるのやめなよ」
こんなこと言ったらいけない。それは皐月にもわかっていた。なのに、ずっと胸にあったドロドロした嫌な感情は、一度あふれだしたらもう止まらない。
「なに?」
「藍ちゃんて、あれで結構男癖悪いの。1年の時からモテてたけど、付き合った彼氏が長くても一週間とかしかもたないんだよ」
「は? 藍が?」
そんなの嘘だ、と皐月自身もわかっている。それでも、陽介にこれ以上藍に近づいてほしくないという思いが、皐月にそれを言わせてしまった。
「そうだよ。同時に何人もの男子とつき合うことだってしょっちゅう。だから陽介だって、そのうちの一人にすぎないんだよ。そんなの嫌でしょう? だから、もう会うのやめなよ」
(私、嫌な子だ)
苦しそうな顔になった皐月には気づかずに、陽介は笑い出した。
「まさか。藍はそんなことする子じゃないよ」
「騙されている男は、みんなそう言うの。あんな顔して藍ちゃんて本当は」
「皐月、藍のこと嫌いなのか?」
叩きつけるような皐月の言葉を遮って、陽介は表情を硬くする。痛いところをつかれて、皐月はうつむいた。
「そんなこと……ない」
「なんでそんな陰口みたいなこと言うんだよ。お前がそんなこと言うの初めて聞いた。藍となんかあったのか?」
「だって……」
皐月の顔が、泣きそうに歪む。
「藍ちゃんが……」
細くなる声を聞き逃すまいと陽介が近づくと、き、と皐月はその顔を睨みつけた。
「そうよ。藍ちゃんなんて、大嫌い!」
私の陽介を、奪っていくから。
そこまで口にすることはできずに、皐月は陽介に背を向けて逃げ出した。
「皐月……?」
呆然と見送る陽介を、あたりの生徒がもの珍しそうに見ていた。
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