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第二章 ちょっと怖いけどがんばってみる!
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「莉子ちゃん、『青い鳥』読んだことあるの?」
「あるわけないじゃん」
莉子ちゃんが、ふん、と鼻息荒く言った。
「でもさ、幸せって、探せばけっこうあるんじゃないかな」
のんびりと言った私に、莉子ちゃんはびしりと人差し指を突きつけた。
「美優は甘いわ。宿題に追われてママには怒られてばかりの毎日に、幸せなんてこれっぽっちも感じられないわよ。あーあ、早く大人になりたい。そしたら、こんなにきゅうくつな思いもしなくてすむのに」
「私は別に、このままでもいいけど」
私は、突きつけられた莉子ちゃんの指をなんとなく片手で握ってみる。莉子ちゃんは、面白がってその手をぶんぶんと振り始めた。
莉子ちゃんのママ、厳しいもんなー。莉子ちゃんのパパは単身赴任で、今は莉子ちゃんとママの二人きりだ。うちもパパがいないから二人だし、ママがお仕事してて忙しいのも一緒。
だから保育園の頃から、いつも莉子ちゃんとは一緒だった。
「莉子ちゃんは、どんな大人になりたいの?」
萌ちゃんが、のんびりと聞いてきた。
「子供でなければなんでもいいわ。でも、そうね」
莉子ちゃんは、遊んでいた私の手を離して、ことりと首をかしげた。
「ママみたいに、文句ばっかり言わない大人になりたい。私は絶対、気分でどなりちらしたりしない優しい大人になるんだ。そんでキャリアを積んで、誰にも頼らずにばりばり働くの!」
「素敵ね。莉子ちゃんなら、きっとできるわ。じゃあ、美優ちゃんは?」
萌ちゃんは、私に顔を向ける。
「えーとね、ケーキ屋さんとかお花屋さんもいいな。保育園の先生もいいし、あ、小学校の先生でもいい。ママみたいな司書にも……」
「あれー? 美優の夢はお嫁さん、じゃなかったの?」
からかうように言った莉子ちゃんに、恥ずかしい過去を思い出した。
「あ、あれは……!」
「泣きながら、『みゆはそうちゃんのおよめさんになるー! ずっと一緒にいるー!』って颯太に抱きついて離れなかったのは誰よ」
「でも! 同じ言葉を、私、莉子ちゃんにも言ったよ? だいたい、あれを私に教えてくれたのは莉子ちゃんじゃない」
『結婚』して『お嫁さん』になればずっと一緒にいられるんだよ、ってこっそりお教えてくれたのは莉子ちゃんだ。引っ込み思案でいつも誰かの後ろについていた私にとって、一人にならなくていいというそれは、とてもすてきなことに思えたんだ。
私が言ったら、莉子ちゃんは、ぱ、と顔を赤くして横を向いてしまった。
「それに、ばか美優。保育園の先生は、保育士って言うのよ。そんで、萌は?」
「え?」
私たちには聞いたくせに、萌ちゃんはきょとんと莉子ちゃんの顔を見返している。
「私?」
「そう。萌は、大きくなったら何になりたいの?」
萌ちゃんはしばらく黙っていたあと、ゆっくりと笑って言った。
「私は、大人になりたいなあ」
「? 大人になんて、ほっといたって勝手になっちゃうじゃない。萌の答えってヘン」
私は、萌ちゃんのその答えを聞いて、は、とした。
萌ちゃんの夢は、大人になること……でも、その夢は。
「ちょ、美優? どうしたの?!」
莉子ちゃんが、いきなりぽろぽろと泣き出した私に驚いて声をあげた。
「あるわけないじゃん」
莉子ちゃんが、ふん、と鼻息荒く言った。
「でもさ、幸せって、探せばけっこうあるんじゃないかな」
のんびりと言った私に、莉子ちゃんはびしりと人差し指を突きつけた。
「美優は甘いわ。宿題に追われてママには怒られてばかりの毎日に、幸せなんてこれっぽっちも感じられないわよ。あーあ、早く大人になりたい。そしたら、こんなにきゅうくつな思いもしなくてすむのに」
「私は別に、このままでもいいけど」
私は、突きつけられた莉子ちゃんの指をなんとなく片手で握ってみる。莉子ちゃんは、面白がってその手をぶんぶんと振り始めた。
莉子ちゃんのママ、厳しいもんなー。莉子ちゃんのパパは単身赴任で、今は莉子ちゃんとママの二人きりだ。うちもパパがいないから二人だし、ママがお仕事してて忙しいのも一緒。
だから保育園の頃から、いつも莉子ちゃんとは一緒だった。
「莉子ちゃんは、どんな大人になりたいの?」
萌ちゃんが、のんびりと聞いてきた。
「子供でなければなんでもいいわ。でも、そうね」
莉子ちゃんは、遊んでいた私の手を離して、ことりと首をかしげた。
「ママみたいに、文句ばっかり言わない大人になりたい。私は絶対、気分でどなりちらしたりしない優しい大人になるんだ。そんでキャリアを積んで、誰にも頼らずにばりばり働くの!」
「素敵ね。莉子ちゃんなら、きっとできるわ。じゃあ、美優ちゃんは?」
萌ちゃんは、私に顔を向ける。
「えーとね、ケーキ屋さんとかお花屋さんもいいな。保育園の先生もいいし、あ、小学校の先生でもいい。ママみたいな司書にも……」
「あれー? 美優の夢はお嫁さん、じゃなかったの?」
からかうように言った莉子ちゃんに、恥ずかしい過去を思い出した。
「あ、あれは……!」
「泣きながら、『みゆはそうちゃんのおよめさんになるー! ずっと一緒にいるー!』って颯太に抱きついて離れなかったのは誰よ」
「でも! 同じ言葉を、私、莉子ちゃんにも言ったよ? だいたい、あれを私に教えてくれたのは莉子ちゃんじゃない」
『結婚』して『お嫁さん』になればずっと一緒にいられるんだよ、ってこっそりお教えてくれたのは莉子ちゃんだ。引っ込み思案でいつも誰かの後ろについていた私にとって、一人にならなくていいというそれは、とてもすてきなことに思えたんだ。
私が言ったら、莉子ちゃんは、ぱ、と顔を赤くして横を向いてしまった。
「それに、ばか美優。保育園の先生は、保育士って言うのよ。そんで、萌は?」
「え?」
私たちには聞いたくせに、萌ちゃんはきょとんと莉子ちゃんの顔を見返している。
「私?」
「そう。萌は、大きくなったら何になりたいの?」
萌ちゃんはしばらく黙っていたあと、ゆっくりと笑って言った。
「私は、大人になりたいなあ」
「? 大人になんて、ほっといたって勝手になっちゃうじゃない。萌の答えってヘン」
私は、萌ちゃんのその答えを聞いて、は、とした。
萌ちゃんの夢は、大人になること……でも、その夢は。
「ちょ、美優? どうしたの?!」
莉子ちゃんが、いきなりぽろぽろと泣き出した私に驚いて声をあげた。
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