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第二章 雪けぶる町
人生の1ページ
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弁護士ルペン・メスキータは、目を覚ましてベッドから起き上がったシャハルの一言に愕然とした。
「あなた達とは、もう一緒に居たくない」
「どういう事? 私とデヴィンは貴方の里親でもあるのに」
「何勝手に決めてんの? 僕の親はお母さんだけだ。そこ、退いてくれない、ネイオミもデヴィンも。通るのに邪魔」
シャハルは頭を押さえ、ふらふらしながら病室を出て行った。デヴィンがどうにか宥めすかそうと後を追った。
「こうなったのは君達のせいだぞ。急に撮りたい映画があるとか言って予定をキャンセルして…」
「今更そんな事言わないでよ、ルペン」
シャハルは廊下を歩きながら、追い縋るデヴィンを冷たくあしらっていた。
「話しかけないで。僕はマルチノ会に帰るから。何もかも全部、お父さんが悪いんだ」
「もう起き上がって良いの? 私、貴方がまた倒れたって聞いたから、お見舞いに来たんだけど」
廊下で鉢合わせたイオニアと手に手を取って、シャハルは気力体力を振り絞って駐車場まで走ると、彼女が乗って来たバイクの後ろに跨って、病院を抜け出した。
「絶対に手を離さないでね、落ちたらまた病院に逆戻りだから。それと私、これから貴方のこと、何て呼んだら良いの?」
答えは無いまま、2人は修道士メトディオスの居る教会までたどり着いた。
「ねえ、修道士の教派だと、聖職者が結婚できるのは何故?」
シャハルからそう質問され、メトディオスは聖書を紐解いた。
――「もし人が監督の職を望むなら、それは良い仕事を願うことである」とは正しい言葉である。
――さて、監督は、非難のない人で、ひとりの妻の夫であり、自らを制し、慎み深く、礼儀正しく、旅人をもてなし、よく教えることができ、
――酒を好まず、乱暴でなく、寛容であって、人と争わず、金に淡泊で、
――自分の家をよく治め、謹厳であって、子供たちを従順な者に育てている人でなければならない。
――自分の家を治めることも心得ていない人が、どうして神の教会を預かることができようか。
「だから、子供を立派に育て上げた後に離婚して、お互いに信仰の道に入る夫婦もいる」
「ふうん、そういうのも悪くないね。改宗ってどうすれば良いの?」
その後、シャハルはマルチノ会の神父とも良く話し合った上で、修道士メトディオスの居る教会に通うようになった。そして庇護の国へ帰る前に受洗して、聖名のサワを名乗るようになった。
イオニアは、ルペンが運転する車の助手席に乗ったサワの両頬に、別れの挨拶で1回ずつのキスを送ると、試しにこう訊いてみた。
「何もなかったでしょう? こんな田舎」
「ん~、そんな事ないよ? 例えば、君が居た」
「あなた達とは、もう一緒に居たくない」
「どういう事? 私とデヴィンは貴方の里親でもあるのに」
「何勝手に決めてんの? 僕の親はお母さんだけだ。そこ、退いてくれない、ネイオミもデヴィンも。通るのに邪魔」
シャハルは頭を押さえ、ふらふらしながら病室を出て行った。デヴィンがどうにか宥めすかそうと後を追った。
「こうなったのは君達のせいだぞ。急に撮りたい映画があるとか言って予定をキャンセルして…」
「今更そんな事言わないでよ、ルペン」
シャハルは廊下を歩きながら、追い縋るデヴィンを冷たくあしらっていた。
「話しかけないで。僕はマルチノ会に帰るから。何もかも全部、お父さんが悪いんだ」
「もう起き上がって良いの? 私、貴方がまた倒れたって聞いたから、お見舞いに来たんだけど」
廊下で鉢合わせたイオニアと手に手を取って、シャハルは気力体力を振り絞って駐車場まで走ると、彼女が乗って来たバイクの後ろに跨って、病院を抜け出した。
「絶対に手を離さないでね、落ちたらまた病院に逆戻りだから。それと私、これから貴方のこと、何て呼んだら良いの?」
答えは無いまま、2人は修道士メトディオスの居る教会までたどり着いた。
「ねえ、修道士の教派だと、聖職者が結婚できるのは何故?」
シャハルからそう質問され、メトディオスは聖書を紐解いた。
――「もし人が監督の職を望むなら、それは良い仕事を願うことである」とは正しい言葉である。
――さて、監督は、非難のない人で、ひとりの妻の夫であり、自らを制し、慎み深く、礼儀正しく、旅人をもてなし、よく教えることができ、
――酒を好まず、乱暴でなく、寛容であって、人と争わず、金に淡泊で、
――自分の家をよく治め、謹厳であって、子供たちを従順な者に育てている人でなければならない。
――自分の家を治めることも心得ていない人が、どうして神の教会を預かることができようか。
「だから、子供を立派に育て上げた後に離婚して、お互いに信仰の道に入る夫婦もいる」
「ふうん、そういうのも悪くないね。改宗ってどうすれば良いの?」
その後、シャハルはマルチノ会の神父とも良く話し合った上で、修道士メトディオスの居る教会に通うようになった。そして庇護の国へ帰る前に受洗して、聖名のサワを名乗るようになった。
イオニアは、ルペンが運転する車の助手席に乗ったサワの両頬に、別れの挨拶で1回ずつのキスを送ると、試しにこう訊いてみた。
「何もなかったでしょう? こんな田舎」
「ん~、そんな事ないよ? 例えば、君が居た」
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