シャハルとハルシヤ

テジリ

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最終章 ヘイサラバサラ

こん子可愛ゆし、この親憎し

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 所詮夫婦とは他人の集まりだ。だが子にとっては肉親だ。例えある夫婦が憎み合って別れたとしても、彼等はその子にとって、両親であることに変わりはない。だから例え共に暮らせずとも、片方の親が子に変わらぬ愛情を注ぐ機会というものは、与えられて然るべき普遍的権利なのだ。

 今現在、海外留学中のケイレブ・ロンシュクは、幼くして母に捨て置かれ、その後、父と義理叔父の裏切り行為を目撃した。それ故、彼もまたこの様な考え方の持ち主だった。

 それはさておき。彼は留守中のサワ・マルチノに頼まれて、自身の恋人と共に、まだ幼いイズミル・サムの様子を見に、彼女達一家が暮らす部屋を訪れていた。
 イズミルの母であるイオニアは、既に朝早くから食品工場へ働きに出ており、足の踏み場もなく荒れ放題の部屋に取り残されていたのは、部屋の隅で工場の不良品を手掴みで貪り食うイズミルと、ソファでいびきをかいて眠る父ヘンリーだけだった。

「起きて下さい。もうとっくにお昼も過ぎてるんですよ」

 そう言って、ケイレブは脂肪で出っ張ったヘンリーの腹をぐいっと指で押した。

「ぐえぇっ、何しやがる! ぶん殴るぞてめえ」

「サワは素晴らしい予言者ですね。こうして私達に後を託して行かなければ、一日でゴミ屋敷になる事を予め知っていましたから。でもヘンリー、サワも暇じゃないんです。彼はテレワークのドキュメンタリー作家であって、ゴミと戦うハウスキーパーじゃないんです」

「ねえトリシラ。何でサワは来てないの?」

「サワは遠くでお仕事があるんだって。しばらくは私達と遊びましょうね、イズミル」

 ケイレブの恋人であるトリシラからそう伝えられ、心なしか落ち込んだ様子のイズミルに、ヘンリーがにやついた。

「もう戻って来ないんじゃないのか? お前は根暗で、遊び友達もいない。そんなだからサワも嫌いになったんだってよ、お前が本当にどうしようもない奴だから」

「子供に何て事を言うんですか! 気にしないでイズミル。こんなの絶対に嘘だからね」

 イズミルの心には、トリシラの励ましよりも、父ヘンリーの悪口の方が何重にも渡って染み込んで行った。ヘンリーはヘンリーで、普段からイズミルを盾に顎でこき使ってきたサワと比べられた事で、抑圧感や苛立ちを覚え、腹の奥底から沸々と沸き上がって来る火の玉の熱さで全身を苛まれていた。ヘンリーは鬱々とした気分を紛らわすため、ソファ下から護身銃を取り出して弄び始めた。

「うわっ、危なっかしい。止めてくださいよ、そんな物を子供の前で振り回すのは」

「やかましい。こんな世の中、銃は持って当然の権利だ。それとも怖いのかケイレブ、このチキン野郎が」



 その頃、サワの留守宅に2人の来客があった。1人はクレメンタイン=ステラ・マリス、もう1人はただエステルとだけ名乗った。

「彼に何の用事だか知らないけど、今留守よ? しばらくは帰って来れないって言ってたし…」

 応対に出たのは、サワの現在の恋人であるテルマだった。テルマは、今現在恋人はシビル連邦のスミドという土地まで取材に出向いていて、帰って来るのはいつになるかも分からないと告げた。しかし来客2人はそれに喜色を浮かべ、どうにか連絡を取れないだろうかと懇願した。2人の熱心さに根負けしたテルマは、渋々サワに連絡を入れて、クレメンタインと代わった。クレメンタインは簡単な自己紹介を終えると、すぐ本題に入った。

「私の夫ネルガルは、ある日突然義父と共に、一人息子のシャリムをシビル連邦へ連れ去ってしまった。私は慌てて後を追ったのだけど、残念ながらおいそれとは会えなかった。何故なら彼等は、かつて国外追放されたスメク王室の一員と、その子孫に当たるから」



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