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最終章 ヘイサラバサラ
それが因縁たい
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セウロラは、ハルシヤとの結婚後、元はシャマシュが建てた家を改築して暮らしていた。そこへシャハルが朝帰りしたと思ったら、急に荷物をまとめ始めた。
「もう帰っちゃうのシャハル、折角の里帰りなんだから、もっと寛いでいけば良いのに。都会の国って大変なんでしょう。いっつも時間に追われて生きて」
「でも今は、僕よりセウロラの方が疲れてるんじゃないかな。イレンカも帰って来たし、その弟も2人居るし。ハルシヤは遅くまで帰って来ない。こんな時、アナンが居たら便利なのに。あーあ、彼の私塾潰れないかな~」
「またそんな冗談言って。ポンチェト=プリューリまで行ったら、顔くらい見せてあげなよ」
「まあそのつもりだけど。あっ、良い事思い付いた。皆で書き置きだけ残してナルメに行こうよ。ついでに僕のお母さんも温泉に連れてってあげよう」
こうしてシャハルは、セウロラ達をスミド駅まで連れ出すと、大事な忘れ物を取りに帰るから、ひとまず先に行ってと見送った。
シャハルはその足で、昨夜の電話先の一つであり、予め駅の駐車場に公用車で来るようにと呼び出しておいた、現在はソピリヤの秘書の1人であるキュビトに会いに行った。
「来てくれてありがとう。出来れば一生会いたくなかったよ」
「分かっている。だが………私以外の醜い欲望を抱いた手に触れられる位なら、いっそ。主任の部下で顔見知りの私の方が、君にとってもマシだろうとあの時は思っていた。誓って君に劣情を感じてなどいなかったんだ。許してくれとは言わない。ただその事実だけは、君の救いにならないだろうか」
「そんなの知った事か、顔見知りの貴方にまで触られて、僕がどれだけ絶望したと思ってるの。代償としてこれくらい易いものだ。上手く行ったらスミドのお偉いさんの仲間入りだよ。準備も後片付けもお得意のものでしょう、自分の手を汚すことも」
「今の守上とハルシヤ君の頑張りはどうなる。2人は君を思って二度とあの悲劇を繰り返すまいと努力して…」
「もう全て取り返しはつかないのに。今まで2人は何を頑張ってきたんだろうね。今頃緑の丘では、自分の娘と同い年の子が、無理矢理子供を産まされて、身体を壊して死んでいってるのにさ。まあ僕はジャーナリストじゃないから、とやかく言うつもりはないけれど。一人や二人面倒見たからって、根本的にスミドは変わらない」
シャハルはキュビトと運転席を交代し、かつてシェイマスが殺され、その後ソピリヤが学んだ学問所までやって来た。キュビトは車から降りると、もっともらしい嘘八百をでっち上げ、現在ここで学んでいるハイラム・ヨウゼンを連れ出すことに成功した。しかし野生の勘でそれを見抜いた者が1人居た。
シャハルはヨウゼン邸のだいぶ手前で助手席のキュビトだけ降ろすと、ソピリヤの元学友達6人と、武器を隠し持った何人かの元クルガノイ生達を、彼女の執務室まで引き入れるよう指示した。いよいよもって何か様子がおかしい事に気付いたハイラムは、後部座席のドアを開けて逃げようとした。
「無駄ですよ、ロック掛けてるから。後ろは外からしか開かない」
シャハルの言葉に悲鳴を上げそうになったハイラムだったが、唐突に外からドアが開いた。
「ハイラム様っ、ご無事ですか」
開けたのは、先程まで車のトランクに忍び込んでいたハイラムの学友、ヤンサ=クルガノイだった。彼に腕を引かれながら、ハイラムは車から逃げ出して闇雲に走り回った。しかしシャハルに車で追い付かれ、道を塞がれた2人は、そのまま捕まってトランクに放り込まれた。
ヤンサは再びトランク内の脱出用ロックを解除しようと試みたが、その前に車が猛スピードでどこかへ走り出してしまった。
気が付くと、ヤンサは森の中に居た。時間感覚が狂ってしまい、シャハルに連れ去られてから何日経ったかも分からなかった。
シャハルは手錠でハイラムと片腕を繋ぎ、ヤンサが攻撃しようとする度にハイラムを盾にした。シャハルは水を濾過したり、時折携帯食料や木の実などをヤンサにも投げて寄越すが、どこかへ電話する以外、全く喋らないので不気味だった。
「貴様の目的は何だ。秘書のハルシヤとは従兄弟同士だと噂で聞いたが、それで守上に近付いたのか。まさか、貴様が守上と深い仲だというのは本当かっ、それで子供が出来たから…邪魔なハイラム様を亡き者にしようとしてるのかっ」
「フッ、何それ。ソープ・オペラじゃあるまいし、あっはは。もう無理、僕結構笑い上戸なのに」
急に笑い出したシャハルに、ヤンサとハイラムは戸惑いを隠せなかった。
かと言ってハイラムが解放される事も無ければ、事情を説明されることも無く、ただシャハルが饒舌になっただけだった。
腹を立てたヤンサは、かと言ってハイラムを置き去りにして助けを求める事も出来ず、苛立ちのあまりそこらに生えた若木を蹴って折るようになった。
「随分乱暴な木こりが居るなあ、暇ならもっと役立つ事をしなよ。ハイラムみたいに」
「貴様如きが呼び捨てにするなっ。ハイラム様、それは何をなさって……」
「蔦を集めて縄を編んでいるんだ。シャハルがさっき教えてくれた」
「貴方様にそのような事……、貸してください。私がやります」
ハイラムはおっとりとして大人しいが、何かとうるさいヤンサに辟易したシャハルは、空を見上げてほくそ笑んだ。そこには迎えのヘリコプターが、すぐそこまで来ていた。
シャハルはヤンサに掴みかかると、その編ませた縄で後ろ手に縛り上げ、地面に転がした。
「ヘリは目立つから、どうせここにもすぐ迎えが来ると思うんだけど、念の為。返さなくて良いよ」
シャハルはヤンサの目の前に、私物の万能ナイフを投げて置いた。
その後、上空に到着したヘリはシャハルとハイラムを吊り上げて回収すると、あっという間にどこかへ飛び去った。残されたヤンサは、万能ナイフを使ってどうにか縄を切り、地団駄を踏んだ。やがてクルガノイ上層部が派遣した捜索部隊がヤンサを保護し、その中にはスラーの姿もあった。
「もう帰っちゃうのシャハル、折角の里帰りなんだから、もっと寛いでいけば良いのに。都会の国って大変なんでしょう。いっつも時間に追われて生きて」
「でも今は、僕よりセウロラの方が疲れてるんじゃないかな。イレンカも帰って来たし、その弟も2人居るし。ハルシヤは遅くまで帰って来ない。こんな時、アナンが居たら便利なのに。あーあ、彼の私塾潰れないかな~」
「またそんな冗談言って。ポンチェト=プリューリまで行ったら、顔くらい見せてあげなよ」
「まあそのつもりだけど。あっ、良い事思い付いた。皆で書き置きだけ残してナルメに行こうよ。ついでに僕のお母さんも温泉に連れてってあげよう」
こうしてシャハルは、セウロラ達をスミド駅まで連れ出すと、大事な忘れ物を取りに帰るから、ひとまず先に行ってと見送った。
シャハルはその足で、昨夜の電話先の一つであり、予め駅の駐車場に公用車で来るようにと呼び出しておいた、現在はソピリヤの秘書の1人であるキュビトに会いに行った。
「来てくれてありがとう。出来れば一生会いたくなかったよ」
「分かっている。だが………私以外の醜い欲望を抱いた手に触れられる位なら、いっそ。主任の部下で顔見知りの私の方が、君にとってもマシだろうとあの時は思っていた。誓って君に劣情を感じてなどいなかったんだ。許してくれとは言わない。ただその事実だけは、君の救いにならないだろうか」
「そんなの知った事か、顔見知りの貴方にまで触られて、僕がどれだけ絶望したと思ってるの。代償としてこれくらい易いものだ。上手く行ったらスミドのお偉いさんの仲間入りだよ。準備も後片付けもお得意のものでしょう、自分の手を汚すことも」
「今の守上とハルシヤ君の頑張りはどうなる。2人は君を思って二度とあの悲劇を繰り返すまいと努力して…」
「もう全て取り返しはつかないのに。今まで2人は何を頑張ってきたんだろうね。今頃緑の丘では、自分の娘と同い年の子が、無理矢理子供を産まされて、身体を壊して死んでいってるのにさ。まあ僕はジャーナリストじゃないから、とやかく言うつもりはないけれど。一人や二人面倒見たからって、根本的にスミドは変わらない」
シャハルはキュビトと運転席を交代し、かつてシェイマスが殺され、その後ソピリヤが学んだ学問所までやって来た。キュビトは車から降りると、もっともらしい嘘八百をでっち上げ、現在ここで学んでいるハイラム・ヨウゼンを連れ出すことに成功した。しかし野生の勘でそれを見抜いた者が1人居た。
シャハルはヨウゼン邸のだいぶ手前で助手席のキュビトだけ降ろすと、ソピリヤの元学友達6人と、武器を隠し持った何人かの元クルガノイ生達を、彼女の執務室まで引き入れるよう指示した。いよいよもって何か様子がおかしい事に気付いたハイラムは、後部座席のドアを開けて逃げようとした。
「無駄ですよ、ロック掛けてるから。後ろは外からしか開かない」
シャハルの言葉に悲鳴を上げそうになったハイラムだったが、唐突に外からドアが開いた。
「ハイラム様っ、ご無事ですか」
開けたのは、先程まで車のトランクに忍び込んでいたハイラムの学友、ヤンサ=クルガノイだった。彼に腕を引かれながら、ハイラムは車から逃げ出して闇雲に走り回った。しかしシャハルに車で追い付かれ、道を塞がれた2人は、そのまま捕まってトランクに放り込まれた。
ヤンサは再びトランク内の脱出用ロックを解除しようと試みたが、その前に車が猛スピードでどこかへ走り出してしまった。
気が付くと、ヤンサは森の中に居た。時間感覚が狂ってしまい、シャハルに連れ去られてから何日経ったかも分からなかった。
シャハルは手錠でハイラムと片腕を繋ぎ、ヤンサが攻撃しようとする度にハイラムを盾にした。シャハルは水を濾過したり、時折携帯食料や木の実などをヤンサにも投げて寄越すが、どこかへ電話する以外、全く喋らないので不気味だった。
「貴様の目的は何だ。秘書のハルシヤとは従兄弟同士だと噂で聞いたが、それで守上に近付いたのか。まさか、貴様が守上と深い仲だというのは本当かっ、それで子供が出来たから…邪魔なハイラム様を亡き者にしようとしてるのかっ」
「フッ、何それ。ソープ・オペラじゃあるまいし、あっはは。もう無理、僕結構笑い上戸なのに」
急に笑い出したシャハルに、ヤンサとハイラムは戸惑いを隠せなかった。
かと言ってハイラムが解放される事も無ければ、事情を説明されることも無く、ただシャハルが饒舌になっただけだった。
腹を立てたヤンサは、かと言ってハイラムを置き去りにして助けを求める事も出来ず、苛立ちのあまりそこらに生えた若木を蹴って折るようになった。
「随分乱暴な木こりが居るなあ、暇ならもっと役立つ事をしなよ。ハイラムみたいに」
「貴様如きが呼び捨てにするなっ。ハイラム様、それは何をなさって……」
「蔦を集めて縄を編んでいるんだ。シャハルがさっき教えてくれた」
「貴方様にそのような事……、貸してください。私がやります」
ハイラムはおっとりとして大人しいが、何かとうるさいヤンサに辟易したシャハルは、空を見上げてほくそ笑んだ。そこには迎えのヘリコプターが、すぐそこまで来ていた。
シャハルはヤンサに掴みかかると、その編ませた縄で後ろ手に縛り上げ、地面に転がした。
「ヘリは目立つから、どうせここにもすぐ迎えが来ると思うんだけど、念の為。返さなくて良いよ」
シャハルはヤンサの目の前に、私物の万能ナイフを投げて置いた。
その後、上空に到着したヘリはシャハルとハイラムを吊り上げて回収すると、あっという間にどこかへ飛び去った。残されたヤンサは、万能ナイフを使ってどうにか縄を切り、地団駄を踏んだ。やがてクルガノイ上層部が派遣した捜索部隊がヤンサを保護し、その中にはスラーの姿もあった。
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