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最終章 ヘイサラバサラ
檻を城となす術を心得た人達
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ソピリヤ様と私が執務室で打ち合わせをしていると、私と同じくソピリヤ様の秘書で、私にとっては大先輩に当たる、キュビトさんが項垂れて入って来た。
「キュビト、何かあったのか」
「そいつの事など、もう貴方様が気に掛ける必要はございません。今までご苦労さまでした。ソピリヤ様」
そう言って無許可で乗り込んで来たのは、ソピリヤ様の元ご学友である、フヌ家のゴルシッダ様で、彼に続いて残り5人のご学友方も含む、所属不明の大所帯で部屋は満員になった。
「これが陳情なら喜んで意見を聞くが……」
✳
首都ポンチェト=プリューリに居るギリタ・ロンシュクは、同じく首都にある連邦病院の特別病棟に電話を掛けていた。
「これでようやく新たなるスメク、正確にはヴィンラフ朝による建国の手筈が整いました。これを何処かで聴いていらっしゃるナタルコ前大長官も、どうぞご安心下さい。それではもうじきシャハルが到着しますので、また掛け直します」
電話を切ると同時に、ノックの音が部屋に響いた。
「ただいまー、遅くなってごめんねギリタ。こちらが貴方の息子のハイラム。大きくなったでしょう?」
「ああ、良くやったシャハル。ところで、その手錠は外したらどうだ?」
シャハルは借りて行った手錠の鍵を無くしていたが、元々手錠の鍵は全て同じ物なので、代用して事なきを得た。
「スミドに居る時に電話で依頼があって、シャリム様の母親から息子の様子を見て来て欲しいと頼まれたんだけど。良いかな? ハイラムを送るついでに」
「私からは何とも言えないさ。それだったらいっそ今度、シャリム様を誘拐するのはどうだ?」
「やだよ面倒臭い。もう腕白ぼうやの世話は懲り懲り、やっぱりイズミがonly oneさ!」
疲労困憊のハイラム様が、そのままシャハルに連れて行かれた先は、連邦病院の特別病棟だった。と言っても、単なる受診や入院やお見舞いではなく、ただそこで暮らす人達に会いに行ったのだ。
ハイラム様がまず最初に出会ったのは、眼鏡を掛け、神経質そうな顔立ちで白衣を着た男だった。彼は読んでいた新聞から顔を上げると、一目見るなりつまらなそうに言った。
「へえ…その子がハイラム?」
「そうですね。所詮ロンシュク邸の警備は大したことないので、奪還防止だそうです」
「ああそう。好きにしたら? 私はネルガル=ヴィンラフ、――元精神科医だ」
「お許しありがとうございます。ところでネルガル太子、クレメンタイン=ステラ・マリスの名に聞き覚えは?」
「ああクレム? 彼女は私の妻だけど」
「その彼女から、シャリム様の近況報告を頼まれまして。今からお会いして、何枚か写真を撮ってもよろしいですか?」
「ふむ、どうしようか。だったら……そうだな、直接会うのも、話すのも、姿を見られるのも禁止だ。アイカナ帝女を見張りに付けるから、その監視下で写真は許す」
シャハルとはそこで別れ、ハイラム様は別室へと案内された。
「貴方がハイラム・ロンシュクですね。自分はシャリム=ヴィンラフです。是非仲良くしましょう、ここは退屈ですから」
その子は12歳のハイラム様より、一回りは年下に見えた。にも関わらず、明るい笑顔ではきはきと喋り、まるで理想の子供像を演じる名子役のようだった。そして何よりハイラム様が驚いたのは、母親の遺伝子を色濃く引き継いだ彼が、一見外国人にしか見えなかった事だった。
「キュビト、何かあったのか」
「そいつの事など、もう貴方様が気に掛ける必要はございません。今までご苦労さまでした。ソピリヤ様」
そう言って無許可で乗り込んで来たのは、ソピリヤ様の元ご学友である、フヌ家のゴルシッダ様で、彼に続いて残り5人のご学友方も含む、所属不明の大所帯で部屋は満員になった。
「これが陳情なら喜んで意見を聞くが……」
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首都ポンチェト=プリューリに居るギリタ・ロンシュクは、同じく首都にある連邦病院の特別病棟に電話を掛けていた。
「これでようやく新たなるスメク、正確にはヴィンラフ朝による建国の手筈が整いました。これを何処かで聴いていらっしゃるナタルコ前大長官も、どうぞご安心下さい。それではもうじきシャハルが到着しますので、また掛け直します」
電話を切ると同時に、ノックの音が部屋に響いた。
「ただいまー、遅くなってごめんねギリタ。こちらが貴方の息子のハイラム。大きくなったでしょう?」
「ああ、良くやったシャハル。ところで、その手錠は外したらどうだ?」
シャハルは借りて行った手錠の鍵を無くしていたが、元々手錠の鍵は全て同じ物なので、代用して事なきを得た。
「スミドに居る時に電話で依頼があって、シャリム様の母親から息子の様子を見て来て欲しいと頼まれたんだけど。良いかな? ハイラムを送るついでに」
「私からは何とも言えないさ。それだったらいっそ今度、シャリム様を誘拐するのはどうだ?」
「やだよ面倒臭い。もう腕白ぼうやの世話は懲り懲り、やっぱりイズミがonly oneさ!」
疲労困憊のハイラム様が、そのままシャハルに連れて行かれた先は、連邦病院の特別病棟だった。と言っても、単なる受診や入院やお見舞いではなく、ただそこで暮らす人達に会いに行ったのだ。
ハイラム様がまず最初に出会ったのは、眼鏡を掛け、神経質そうな顔立ちで白衣を着た男だった。彼は読んでいた新聞から顔を上げると、一目見るなりつまらなそうに言った。
「へえ…その子がハイラム?」
「そうですね。所詮ロンシュク邸の警備は大したことないので、奪還防止だそうです」
「ああそう。好きにしたら? 私はネルガル=ヴィンラフ、――元精神科医だ」
「お許しありがとうございます。ところでネルガル太子、クレメンタイン=ステラ・マリスの名に聞き覚えは?」
「ああクレム? 彼女は私の妻だけど」
「その彼女から、シャリム様の近況報告を頼まれまして。今からお会いして、何枚か写真を撮ってもよろしいですか?」
「ふむ、どうしようか。だったら……そうだな、直接会うのも、話すのも、姿を見られるのも禁止だ。アイカナ帝女を見張りに付けるから、その監視下で写真は許す」
シャハルとはそこで別れ、ハイラム様は別室へと案内された。
「貴方がハイラム・ロンシュクですね。自分はシャリム=ヴィンラフです。是非仲良くしましょう、ここは退屈ですから」
その子は12歳のハイラム様より、一回りは年下に見えた。にも関わらず、明るい笑顔ではきはきと喋り、まるで理想の子供像を演じる名子役のようだった。そして何よりハイラム様が驚いたのは、母親の遺伝子を色濃く引き継いだ彼が、一見外国人にしか見えなかった事だった。
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