シャハルとハルシヤ

テジリ

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最終章 ヘイサラバサラ

その心のままに

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 スミド太守の執務室では、ソピリヤとハルシヤが拘束されていた。後はまだ12歳と幼く御しやすいハイラムを、お飾りの太守に仕立て上げ、クーデターは成功する手筈だった。しかしシャハルがハイラムと、恐らくはヤンサも連れて消息を絶ったことが発覚すると、事態は急展開を迎えた。

「これはどういうことだラフェンドゥ、シャハルは最初から、我々を騙していたということなのかっ」

 コシヌ家のレジーヴォは、怒りの余り執務机を強く叩いた。

「落ち着けレジーヴォ、まだそうと決まった訳では無いっ」

 タワ家のラフェンドゥは顔色が真っ青になりながらそう叫んだ。

「もうスミドはお終いだっ。ハイラム様はスミド存続には必要不可欠なお方、ひょっとしたらもうシャハルに殺されて……」

 コボ家のザブリョスは、脳裏によぎった最悪の想像で頭を抱えた。

「そうだ、これは彼の復讐に違いない。嗚呼何という事だ」

 マヌ家のエリシュは目眩を覚えて壁にもたれながらそう言った。

「えっ、何。これってもう失敗したって事なのか」

 ウツ家のファティリクは他の学友達のあまりの悲愴感に困惑した。

「だから私は思ったんだ、初めからどこか怪しいとっ」

 フヌ家のゴルシッダは慌てて言い逃れを始めた。

「こうなった以上、ザビネ姉様もカルナ尼も、寺からは一切出ない。ハイラムも行方不明。それなら私で問題無いな。縄を外せ、一刻も早く状況を把握して対処しなければ、ナルメのサペリ家を始めとする、セーアン地方の他家の介入を招いて全員死ぬ。だが今後の働き如何では、不問どころか褒美も出す」

 こうしてソピリヤは太守の権限を取り戻すと、各所に情報収集を命じ、そこから取捨選択を行った結果、ハイラムが首都まで連れ去られ、しかも容易には手出し不可能な旧王室に預けられた事を突き止めた。




 一方当のハイラムは、初対面のシャリムに告げられた自身の本名に困惑していた。

「さっきの姓は間違っていますよ。私はヨウゼンです」

「でも、ハイラムのお父様はギリタですよね。それなら本来であれば、ロンシュク家の一員のはず。ギリタが拒否して、離婚もまだされていないと聞きましたよ。ねえ、エイダ」

 近くで控えていたエイダも頷いた。ハイラムの生き別れの長姉である彼女は、ここでネルガルの身の回りの世話をするようにと、父ギリタの命令で長らく滞在していた。

 しかし全く相手にされないどころか、ネルガルからは存在ごと徹底的に無視された彼女は、早々に役目を放棄して、ネルガルの従妹に当たる2人の帝女とつるんだり、看護の勉強に明け暮れる毎日だった。彼女は窓の外から合図を送るアイカナ帝女に従って、シャリムとハイラムに庭の散歩を促した。

 その様子をアイカナ帝女と共に、茂みに隠れながら連写するシャハルは、片耳のみ使用中のコードレスイヤホンで、ハイラムに仕掛けた盗聴器から、2人の会話の内容を拾っていた。

「セーアン地方からここまで来るのはさぞ遠く、本当に大変だったでしょうね」

「そうでもありませんでした。ただ、私を攫って連れて来たシャハルという人は、私の学友に縄を編ませると、完成したそれをすぐに使って、学友を縛り上げたんです」

「ふふ、何て面白い人だろう。是非お会いしたい」

 シャハルの鬼畜エピソードはシャリムの心の琴線に触れたようで、彼は瞳を輝かせた。シャハルはそれを見て自身と同類の気配を感じ、例えば2階から目薬を差すとっておきの方法を、シャリムに伝授してみたくなった。

 その次は、シャリムが自身の事を話し出した。ホームスクリーニングで勉強している事や、祖父クリシュの車椅子散歩に付き合うのが日課な事、踊るのも大好きで、動画投稿サイトでダンス動画を見て、気に入った振付があれば真似して周囲に披露する事もあるのだという。
また、シャリムは父の仕事資料やらを勝手に見て、自身の置かれている状況下についても、割と正確に理解していた。

 やがてシャリムはハイラムの二部式着物の後ろ衿に仕掛けられた、世界開発機構謹製の盗聴器に気付いてしまった。

「What's your name?」

 聞こえた途端、シャハルは慌てて盗聴器を遠隔破壊し、アイカナ帝女にお暇乞いした。




 わざわざ空港まで見送りに着いてきたアイカナ帝女は、出発前ロビーでシャハルと話していた。

「それではシャハル、どうぞお気を付けて。クレム様には、何を置いてもまず先に、“貴方に変わらぬ愛を誓っている故、暫くお待ち下さい”とだけ、宜しくお伝え下さいと、ネル様が申しておりました」

「ええ~…どうしようかな。あのご夫婦の今後が全て、僕の伝言に掛かっているなんて。例えば真逆の嘘を伝えたら、エイダにもワンチャンありますかね?」

「そんな事をしても、エイダは喜びませんよ。彼女は将来看護師になって、ギリタからの独立を果たすつもりでいるんですから」

 シャハルはそれを聞いて微笑んだ。とそこへ、何者かにリークされたパパラッチによる速報スクープ写真に踊らされて、慌てたギリタが空港まで駆け付けた。

「シャハル! お前如きがいつまでアイカナ帝女を連れ回しているんだ。いい加減帰りなさい」




 特別病棟の中庭で、シャリムは指先に摘んだ盗聴器をしげしげと観察していた。

「あーあ、壊れちゃった。何処のスパイだろう」

「どうせシャハルの仕業ですよ。いつの間に仕掛けたんだろう」

 シャリムはハイラムの発言で、シャハルがまだすぐ近くに居たことを知り、盗聴器の件は伏せたまま、父ネルガルの元へ走り出した。
 パパラッチとの匿名電話を終えたネルガルは受話器を置いて、その間に息を整えた息子のシャリムに向き直った。シャリムは腰に手を当て、わざとらしく頬を膨らませた。

「自分だってお会いしたかったのに! お名前で検索しても情報が全くヒットしないんです。片端から全て削除済みで」

「そこまで言うのなら、しょうがない。私が昔、落としておいた動画がある」




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