シャハルとハルシヤ

テジリ

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第一章 シャハルとハルシヤ

仮初めの応え

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 ソピリヤ様は、ヨウゼン家に行ったあの日から、益々6人のご学友方に対して冷たくなってしまった。たぶん、クサンナのことが原因なのだろう。



 コシヌ家のレジーヴォ様は、どこか異母姉弟のクサンナに似た顔立ちに、いらいらした表情を浮かべ、じりじりと私に詰め寄った。

「そなた、ソピリヤ様に何を吹き込んだ」

「いいえ、私は何も…」

私は壁際まで後ずさり、他のご学友方にも取り囲まれた。するとフヌ家のゴルシッダ様が、さらに私を追及した。

「嘘を申すな。ここのところソピリヤ様が口を聞いておられるのは、大人を除けば、そなただけではないか」

「それはそうですけれど、でも私は悪口なんか…」

「まあまあ、そのくらいにしといてやろうや。シャハルのこともあるからさ」

タワ家のラフェンドゥ様が助け船を出してくれ、私は少しほっとしたが、続いたコボ家のザブリョス様の、聞き捨てならない台詞には腹が立った。

「ねえねえ、でも何でシャハルは来なかったんだろう。こやつの父親って、ただの馬屋番でしょ」

「はあ、悪かったですね。父の仕事が」

言ってから、これじゃ嫌味みたいでしまったと感じたが、マヌ家のエリシュ様を始め、皆様にとって意外とどうでも良かったのか、私の言葉はあっさりと聞き流された。

「もしシャハルが来てたらそれこそ困るよ。ソピリヤ様って彼とだけは古くからの付き合いだし、そもそもシャハルは守上様のお気に入りだもの」

エリシュ様の言葉にほぼ全員がうんうんと頷いた中で、ウツ家のファティリク様が、いつの間にかぼんやりしていた状態から、急に気が付いたらしく状況を尋ね出した。

「えっ、何。ねえ、今何の話してた」

「貴様という奴は…少しは人の話を聴いたらどうだ。イェノイェがのさばってるって話だよ」

レジーヴォ様が呆れながら答えると、ファティリク様は納得したように語り始めた。

「ああ、そういうこと。でもまあ、あの中で重要なのって、トビラス=イェノイェくらいだろ。そんでもって、息子のシャハルは上の学校、ポンチェトプリューリにある全寮制の男子校に行かせるらしいよ」

えっ、そんな。本当なんだろうか。先の話なんて、シャハルからは聞いたことが無い。大体ポンチェなんて凄く遠いのに。

「何でおんまえがそんなこと知ってるんだよ」

私以外にもゴルシッダ様が疑ったらしく、ファティリク様に訳を尋ねた。ファティリク様は、自身のお母様が社交場で立ち聞きした話だと言い、それをラフェンドゥ様が、ウツ家の奥方がそんな人だったなんて。怖い怖い、とちゃかした。

「それが確かなら、イェノイェも恐るるに足らずだな。シャハルがそのうちスミドを出て行くなら、トビラス=イェノイェに妙な野心は無いと見える」

レジーヴォ様が腕を組みながらそう言うと、さらにエリシュ様がシャハルの将来予想を付け加えた。

「シビル連邦政府の、官吏にでもするつもりだろうからね」

よく分からないけど、やっぱりそうなっちゃうのかな。あれ、でもそしたら、私はどうすれば良いんだろう。




 その頃ソピリヤは、イリークフ寺からの出向尼にして学問所の総括者、イリークフ=イェラの私室に呼ばれ、面談を受けていた。

「どうしてもっと皆と仲良くしないのですか、別に責めている訳ではありませんが。でも、和をもって尊しと為す、とも言いますよ」

「分かっております」

ソピリヤとイェラの面談は平行線に終わり、イェラは部屋を出て行くソピリヤを見送った後、廊下に出て固定電話のダイヤルを回し、令室ロミネの執務室に直通電話をかけた。

「ロミネ様でごさいますか、はい。拙尼せつにが見る限り、難しいかと…」

「分かりました。イェラ尼。教えてくれてありがとう、今後ともよろしく」

ロミネは机の電話に受話器を戻し、改めて前に向き直ると、事前に呼び出しておいたクサンナに告げた。

「クサンナ。あなたってば、しくじりましたね。確かにわたくしは、さりげなくと言いました。でもね、ただの茶飲み話になってどうするの」

「申し訳ございませんっ。ですが、もしお任せいただければ、次こそは、必ず。成功させて、ロミネ様のご覧に入れます」

「そう。では、その態度に免じて、もう一度だけ機会を与えましょうか。馬場に行って、あの従弟君にも解るよう伝えて来て。ソピリヤと6人には内緒」

ロミネは至ってにこやかに、自身の唇に人差し指を当てた。





 馬場に着いてすぐ、私は父さんに呼び止められて皆様の列の最後尾を抜け出した。

「可愛い子が来てるぞ~」

どんな子馬だろう。父さんに付いていくと、馬小屋を通り過ぎて休憩小屋に連れていかれた。

数分後、ハルシヤの不在に気付いたソピリヤは、6人の学友を置き去りにして辺りを探し始め、休憩小屋の近くを通り掛かった。

「タハエ、ハルシヤはどこに居る」

「あっいえその、お手洗いですよ。お手洗い」

「嘘を吐くな。そこに居るのか」

ソピリヤがタハエを退かせて扉の掴みに手をかけた時、休憩小屋の中から、切羽詰まったクサンナの声が響いた。

「大変ですハルシヤ。このままでは、わたくし達、解雇されてしまいます」

「ええっ、どうしてですか」

ソピリヤは血相を変えてその場を立ち去ると、6人の学友達に、何とかたどたどしく話し掛けて遠乗りに出た。そんなことは露とも知らないハルシヤとクサンナは、引き続き会話していた。

「わたくし達、協力しましょう。ところで、どうかされましたか。さっきから顔色が優れませんね」

「何でもありません。ちょっとシャハルのことが、気になっていただけです」

「…シャハル=イェノイェが、どうかしましたか」

「えっと、噂を聞いたんです。そのうち、ポンチェトプリューリの学校に行かされるらしい、っていう…」

「それで気になってしまうなんて、随分仲がよろしいのですね。わたくしは親族との縁が薄いので、よく分からないのですが。従兄とは、そんなに仲が良いものですか」

「さあ…、他のいとこ達は皆年下ですし。父方のいとこ達とは、あまり接点が無いような。…私はシャハルだけですね。やっぱり、同い年の従兄弟なので」

「そうでしたか。あなたがそんな風では困ります。かくなる上は、わたくしが失職覚悟でソピリヤ様に直訴するしかありませんね」

クサンナは、すたすた歩いて靴脱ぎ場に腰を降ろした。

「何でそうなるんですかっ」

私は何が悪かったのか、クサンナの考えていることもさっぱり分からず、ただただ三和土(たたき)の手前に立ち尽くした。クサンナは、靴を履いて爪先をとんとんと地面に打ち付けながら、私の方を向いた。

「気にせず聞いて下さい。あなたは今、ソピリヤ様を案じることより、いずれシャハルとお別れするのが気になるようですね。ならばこんな所に居るべきではありません。1日でも長く彼と居た方がよろしいのではありませんか。トビラス=イェノイェならシャハルの学費を払えるでしょうけど、あなたのお父様には無理ですから」

「そんな、待って下さい。だったら私が言いに行きます」

「離して下さい。このままではソピリヤ様がお一人にっ」

私はあっと驚いて、うっかりクサンナを止めようとしていた手の力が緩んだ。クサンナは迷わず外に出て行き、私は慌てて後を追いかけた。

「やあ、一足遅かったな。ハルシヤが居ない間に皆様行っちゃったぞ。ソピリヤ様が誘って」

後を追いかけて行った先には、父さん以外誰も居なかった。戸惑いながらもどこかほっとした様子のクサンナに、私は言った。

「シャハルのことは忘れます。私が気にしたってしょうがない」



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