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荒浪(過去編)
【以降AI利用】流転
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男は今日も、櫓船を操る。
そして密かに――
船縁に立つ少年の背中を見つめていた。
――突き落とすなら、今。
だがアラナムは、男に背を向けながらも、
隙は見せない。
波の合間を読むふりをし、甲板を拭くふりをし、
常々気配だけは、男の動きを探っている。
✶
アラナムは、ときおり男を振り返る。
その口元には、薄ら笑いが浮かぶ。
男は思う。
(……どこかで見た顔だ)
だが、思い出せない。
アラナムは男の脇をすり抜け、
わざと足を滑らせたように見せて、手すりに掴まった。
「わっ、小父さん危なーい!」
その声に、男は一歩退いた。
次の瞬間、アラナムの肩が、わずかに男へ傾く。
(こいつ……逆に、手前を落とす気か!?)
男は悟った。
――この少年は、獲物ではない。
虎視眈々と、こちらを狙う狼だ。
その日のうちに、男は決断した。
アラナムを大陸側の交易者へ預ける。
見返りなど不要。今すぐ船から降ろさなくては。
✶
サルヌリ朝へ単身舞い戻った男は、
愚痴聞き舞台へ足を運んだ。
身代わり雛人形――ヒイナ。
国の災厄を一手に引き受ける、少女巫女。
舞台の周りでは、今日も明日も怒号が飛び交う。
「ヒイナさまのせいだ!」
「ヒイナさまがわるい!」
「ヒイナさまさえいなければ!」
ヒイナは、一代限りの名誉職。
出血によって世代交代する娘。
だが舞台に立つヒイナはもはや、
少女というより、うら若き乙女。
このヒイナも、マクガハラ一族。
富と権力の礎を築いた原動力。
男は感じ入る。
(だが……さすがにおかしくはないか?
あのヒイナは、今何歳だ)
✶
その時だった。甲冑の音。怒号。
ハイターク一族の兵が、なだれ込んで来る。
抵抗する間もなく、
ヒイナは引き倒され、衣を剥ぎ取られた。
補正の布地を引き裂かれ、現れた襦袢姿。
まごうことなきヒイナの体型が示すのは、
――懐妊。
観衆のざわめきが、怒号に変わる。
だがヒイナは、泣きもせず。
薄ら笑いを、浮かべていた。
その瞬間、男の脳裏に稲妻が走る。
(……同じだ)
あの笑い。あの醒めた目。
――アラナム。
双子の男女。
交互に入れ替わり、
戴冠の付けた従者たちの目を欺いていたのだ。
ヒイナに出血がない理由。
すべてが繋がった。
✶
裁きは早かった。
マクガハラ一族は、戴冠を欺いた罪により全員処刑。
男は何も語らなかった。
アラナムの名も、姿も。
処刑台の前で、男は思う。
(大陸に残したあのガキは……)
助かるまい。
見返りを失った預け先が、丁重に扱うはずがない。
奴婢に落とされ、苦しみ抜いて死ぬだろう。
――ざまあみやがれ。これでマクガハラ一族はおしまいだ。わははははは!!
✶
だがアラナムは、大陸で生き延びた。
待遇は落ちた。
殴られ、飢え、売られかけた。
それでも――
算木を手放さなかった。
言葉を忘れなかった。
やがて通訳としてこき使われ、
サルヌリ朝とあやぎり朝の国境にある元砦に築かれた、
宗教都市にて、ひとりの女と出会う。
教祖・衣縫。
彼女の望みにより、
アラナムは半ば売られるように、教団へと渡った。
――その先に待つのは、さらなる荒浪。
彼の人生に、安穏はない。
そして密かに――
船縁に立つ少年の背中を見つめていた。
――突き落とすなら、今。
だがアラナムは、男に背を向けながらも、
隙は見せない。
波の合間を読むふりをし、甲板を拭くふりをし、
常々気配だけは、男の動きを探っている。
✶
アラナムは、ときおり男を振り返る。
その口元には、薄ら笑いが浮かぶ。
男は思う。
(……どこかで見た顔だ)
だが、思い出せない。
アラナムは男の脇をすり抜け、
わざと足を滑らせたように見せて、手すりに掴まった。
「わっ、小父さん危なーい!」
その声に、男は一歩退いた。
次の瞬間、アラナムの肩が、わずかに男へ傾く。
(こいつ……逆に、手前を落とす気か!?)
男は悟った。
――この少年は、獲物ではない。
虎視眈々と、こちらを狙う狼だ。
その日のうちに、男は決断した。
アラナムを大陸側の交易者へ預ける。
見返りなど不要。今すぐ船から降ろさなくては。
✶
サルヌリ朝へ単身舞い戻った男は、
愚痴聞き舞台へ足を運んだ。
身代わり雛人形――ヒイナ。
国の災厄を一手に引き受ける、少女巫女。
舞台の周りでは、今日も明日も怒号が飛び交う。
「ヒイナさまのせいだ!」
「ヒイナさまがわるい!」
「ヒイナさまさえいなければ!」
ヒイナは、一代限りの名誉職。
出血によって世代交代する娘。
だが舞台に立つヒイナはもはや、
少女というより、うら若き乙女。
このヒイナも、マクガハラ一族。
富と権力の礎を築いた原動力。
男は感じ入る。
(だが……さすがにおかしくはないか?
あのヒイナは、今何歳だ)
✶
その時だった。甲冑の音。怒号。
ハイターク一族の兵が、なだれ込んで来る。
抵抗する間もなく、
ヒイナは引き倒され、衣を剥ぎ取られた。
補正の布地を引き裂かれ、現れた襦袢姿。
まごうことなきヒイナの体型が示すのは、
――懐妊。
観衆のざわめきが、怒号に変わる。
だがヒイナは、泣きもせず。
薄ら笑いを、浮かべていた。
その瞬間、男の脳裏に稲妻が走る。
(……同じだ)
あの笑い。あの醒めた目。
――アラナム。
双子の男女。
交互に入れ替わり、
戴冠の付けた従者たちの目を欺いていたのだ。
ヒイナに出血がない理由。
すべてが繋がった。
✶
裁きは早かった。
マクガハラ一族は、戴冠を欺いた罪により全員処刑。
男は何も語らなかった。
アラナムの名も、姿も。
処刑台の前で、男は思う。
(大陸に残したあのガキは……)
助かるまい。
見返りを失った預け先が、丁重に扱うはずがない。
奴婢に落とされ、苦しみ抜いて死ぬだろう。
――ざまあみやがれ。これでマクガハラ一族はおしまいだ。わははははは!!
✶
だがアラナムは、大陸で生き延びた。
待遇は落ちた。
殴られ、飢え、売られかけた。
それでも――
算木を手放さなかった。
言葉を忘れなかった。
やがて通訳としてこき使われ、
サルヌリ朝とあやぎり朝の国境にある元砦に築かれた、
宗教都市にて、ひとりの女と出会う。
教祖・衣縫。
彼女の望みにより、
アラナムは半ば売られるように、教団へと渡った。
――その先に待つのは、さらなる荒浪。
彼の人生に、安穏はない。
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