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荒浪(過去編)
背中をおして
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マクガハラこそわが家族。
故に父母など存在しない。
マクガハラ一族ではーー
代人殿を筆頭に、産まれたその時から、
マクガハラの一員として育てられる。
長ずるに従い資質を見定め、
各々にふさわしい役目が与えられる。
✶
われらマクガハラ一族は、
現時点では、主にサルヌリ朝のお抱え交易者として活動している。
日夜他朝としのぎを削る、
サルヌリ朝の戦利品と引き換えに。
マクガハラ一族は、主に大陸由来のあらゆる品々を提供する。
✶
彼もまたーー
マクガハラとして生を受け、
与えられたお役目は、戦で捕らえた生口を商うことだった。
だが彼は、その生口の中に居た、ひとりの女に目が留まる。
✶
「何だ? このざまは」
マクガハラの代人殿はーー醒めきった眼で、
マクガハラの一員と、背後に庇った女と赤子を見下した。
代人殿の配下たちは、武器を片手に、
じわじわとーー3人家族との距離を詰めながら、迫っている。
一員は、吐き捨てた。
「知れたことを。手前の妻子に決まっている」
代人殿は、両手を腰に当てた。
「戯けたことを抜かすでない。
我らには無用の長物だ…
それもよりによって生口ごときと。
もうよい――」
代人殿は、片手を上げた。
生口女が、悲鳴を上げる。
✶
「いやあーっ、お返しくだされっ。
どうか、どうかお情けを。ご主人さまぁっ」
生口女が必死に抱きかかえるも虚しく、
赤子は力ずくで引き剥がされた。
彼女は泣き叫びながら、
目の前に居るマクガハラ男の背中に泣き縋る。
だが男に、もはや打つ手はない。
それが女にも伝わったのだろう。
「騙された……おまえもどうせ、
人でなしのくせに。
なんて、なんて馬鹿なんだろう……子まで産んで」
男がはっと振り向くと同時、
背中が灼けるように熱くなった。
女は血塗れの刃を握っていた。
「おい、なぜだ……?」
「近寄るなっ、わたしはなんの為に……
誰のために……。
何もかも堪えて生きるより、あの日死んだほうがましだった!!」
✶
「やはり生口はつまらん。その舌切り落とせ」
代人殿は、そう命じた。
男が手傷を負わされ、呆然としている間にーー
女は取り押さえられ、
代人殿の命じるまま、口元から血を溢れ出させた。
商品が死なないよう、息を確保して。
女はそのままどこかへ連れ去られ、
男が見かけることは、二度となかった。
✶
「おい、大事ないか。すぐに手当を」
代人殿は目的を果たすと、
何事もなかったかのように……
男を止血し、薬師を呼んだ。
「まあ気を落とすな、おぬしはまだ若い。
これもまた良い薬だ。
な、そうだろう? 違わぬか?」
男がぼんやりとした頭で頷くと、
代人殿は満足気に微笑んだ。
男にお咎めは無いらしい。
代人殿は更に、少年を1人連れて来させ、
今後は男の助手として、働くよう命じた。
✶
――しかしながら、もはや顔も呼び名も思い出せない。
そんなマクガハラの少年たちは、掃いて捨てるほど居たからだ。
生口を積み込み大陸へ船出した帰り。
男は助手の無防備な背中を見ると、
無我夢中で突き飛ばした。
大抵すぐには死なず、
何事かと混乱し助けを求めながらそのまま波に攫われるか、
はたまた泳ぎが達者であれば再び船へ上がろうと付いてくるところを、
男は銛で、頭を一突きに仕留める。
ただそれだけの違いに過ぎない。
代人殿は言った。
「これが最後だ、次は無い。
その意味ぐらいはわかるだろう」
「はじめまして、アラナムです。小父さん」
人好きのする相貌は、いつかどこかで見たような気がした。
故に父母など存在しない。
マクガハラ一族ではーー
代人殿を筆頭に、産まれたその時から、
マクガハラの一員として育てられる。
長ずるに従い資質を見定め、
各々にふさわしい役目が与えられる。
✶
われらマクガハラ一族は、
現時点では、主にサルヌリ朝のお抱え交易者として活動している。
日夜他朝としのぎを削る、
サルヌリ朝の戦利品と引き換えに。
マクガハラ一族は、主に大陸由来のあらゆる品々を提供する。
✶
彼もまたーー
マクガハラとして生を受け、
与えられたお役目は、戦で捕らえた生口を商うことだった。
だが彼は、その生口の中に居た、ひとりの女に目が留まる。
✶
「何だ? このざまは」
マクガハラの代人殿はーー醒めきった眼で、
マクガハラの一員と、背後に庇った女と赤子を見下した。
代人殿の配下たちは、武器を片手に、
じわじわとーー3人家族との距離を詰めながら、迫っている。
一員は、吐き捨てた。
「知れたことを。手前の妻子に決まっている」
代人殿は、両手を腰に当てた。
「戯けたことを抜かすでない。
我らには無用の長物だ…
それもよりによって生口ごときと。
もうよい――」
代人殿は、片手を上げた。
生口女が、悲鳴を上げる。
✶
「いやあーっ、お返しくだされっ。
どうか、どうかお情けを。ご主人さまぁっ」
生口女が必死に抱きかかえるも虚しく、
赤子は力ずくで引き剥がされた。
彼女は泣き叫びながら、
目の前に居るマクガハラ男の背中に泣き縋る。
だが男に、もはや打つ手はない。
それが女にも伝わったのだろう。
「騙された……おまえもどうせ、
人でなしのくせに。
なんて、なんて馬鹿なんだろう……子まで産んで」
男がはっと振り向くと同時、
背中が灼けるように熱くなった。
女は血塗れの刃を握っていた。
「おい、なぜだ……?」
「近寄るなっ、わたしはなんの為に……
誰のために……。
何もかも堪えて生きるより、あの日死んだほうがましだった!!」
✶
「やはり生口はつまらん。その舌切り落とせ」
代人殿は、そう命じた。
男が手傷を負わされ、呆然としている間にーー
女は取り押さえられ、
代人殿の命じるまま、口元から血を溢れ出させた。
商品が死なないよう、息を確保して。
女はそのままどこかへ連れ去られ、
男が見かけることは、二度となかった。
✶
「おい、大事ないか。すぐに手当を」
代人殿は目的を果たすと、
何事もなかったかのように……
男を止血し、薬師を呼んだ。
「まあ気を落とすな、おぬしはまだ若い。
これもまた良い薬だ。
な、そうだろう? 違わぬか?」
男がぼんやりとした頭で頷くと、
代人殿は満足気に微笑んだ。
男にお咎めは無いらしい。
代人殿は更に、少年を1人連れて来させ、
今後は男の助手として、働くよう命じた。
✶
――しかしながら、もはや顔も呼び名も思い出せない。
そんなマクガハラの少年たちは、掃いて捨てるほど居たからだ。
生口を積み込み大陸へ船出した帰り。
男は助手の無防備な背中を見ると、
無我夢中で突き飛ばした。
大抵すぐには死なず、
何事かと混乱し助けを求めながらそのまま波に攫われるか、
はたまた泳ぎが達者であれば再び船へ上がろうと付いてくるところを、
男は銛で、頭を一突きに仕留める。
ただそれだけの違いに過ぎない。
代人殿は言った。
「これが最後だ、次は無い。
その意味ぐらいはわかるだろう」
「はじめまして、アラナムです。小父さん」
人好きのする相貌は、いつかどこかで見たような気がした。
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