衣夢々談(きぬむむだん) ――これはガチで死んだなと思ったら、夢にまで見た異世界でチート級超能力者だった。なお、

テジリ

文字の大きさ
25 / 47
追千乃多民(つちのたみ)

【自作】自由人(じゆうじん)

しおりを挟む
 荒浪ーーいや、アラナム・マクガハラは、
 霧越京宮殿の奥深くへと案内されていた。

「室稚君(むろわかぎみ)と、
 あやぎり朝摂政、直々のご案内とは……
 一体何です?」

 あやぎり朝の要(かなめ)である二人は無言のまま、
 アラナムを書庫まで先導した。
 室内には所狭しと、木簡や竹簡がーーうず高く積まれている。

「これは見事だ。よく蒐めたものですね~、
 今はなき渡来人・留守役の遺産という訳だ」

 アラナムは、さっそく茶化した。
 なき身内をヴァカにされたら、
 このよく似た二つのお澄まし顔も、
 さぞやヒリつくであろうと期待して。

 アラナムの期待は、即座に裏切られる。
 室稚君(むろわかぎみ)が、
 目を輝かせて身内自慢を開始した。

「如何にも。彼は一生涯、
 我が祖父・長上と、あやぎり朝へよく尽くしてくれた」

 ✶

 あやぎり朝の留守役とはまさに、伝説的知識人であった。
 彼は幼少のみぎりに大陸から、政争に敗れた両親に伴われて渡来した。

 しかし彼曰く、

「体罰! 飯抜き! 抜き打ち検査!」

 ばかりの両親であったらしい。
 その手段はともかく、結果として……
 渡来人少年は着実に、学識や大陸諸言語を習得した。
 現地語も、言われなければ分からぬ程巧みに操りながら、
 易占にまで通じるつわ者ぶり。

 当然、あちらこちらから、引く手あまたの門客となった。

 ✶

 さて、ここで話をーー移動往来の自由に戻そう。

 古代、定住民は土地に縛られた存在であった。
 皆が、産まれた土地で生き、産まれた土地で死ぬ。
 それが定住民として当たり前の生き方であり、また自然の摂理でもあった。

 領主は、好き勝手に領民が移動しては、家畜も農作物も水産資源も育たぬ。
 収穫が減って、働き手が居なくなる。
 産まれる子供も減り、次世代に渡って税収が減る。

 領民自身も、あくまで一時滞在で、
 こちら側に利益をもたらす行商人や芸人ならともかくーー
 ワケワカランよそ者や食い詰め者に来られて、
 限られた水や食物や土地そのものを、
 好き勝手踏み荒らされ、汚されては死活問題だ。
 要するに、先行者利益が奪われるからだ。

 ✶

 門客は別だ。
 各地で引っ張りだことなった彼は、知そのものを売り歩く。
 それ自体は、誰とも利害が衝突しない。
 しかも、枯れることも、誰かに奪われることもない。

 彼は、王朝すら跨いで、あちこちの領地に移動する権利を有していた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...