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追千乃多民(つちのたみ)
【自作】自由人(じゆうじん)
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荒浪ーーいや、アラナム・マクガハラは、
霧越京宮殿の奥深くへと案内されていた。
「室稚君(むろわかぎみ)と、
あやぎり朝摂政、直々のご案内とは……
一体何です?」
あやぎり朝の要(かなめ)である二人は無言のまま、
アラナムを書庫まで先導した。
室内には所狭しと、木簡や竹簡がーーうず高く積まれている。
「これは見事だ。よく蒐めたものですね~、
今はなき渡来人・留守役の遺産という訳だ」
アラナムは、さっそく茶化した。
なき身内をヴァカにされたら、
このよく似た二つのお澄まし顔も、
さぞやヒリつくであろうと期待して。
アラナムの期待は、即座に裏切られる。
室稚君(むろわかぎみ)が、
目を輝かせて身内自慢を開始した。
「如何にも。彼は一生涯、
我が祖父・長上と、あやぎり朝へよく尽くしてくれた」
✶
あやぎり朝の留守役とはまさに、伝説的知識人であった。
彼は幼少のみぎりに大陸から、政争に敗れた両親に伴われて渡来した。
しかし彼曰く、
「体罰! 飯抜き! 抜き打ち検査!」
ばかりの両親であったらしい。
その手段はともかく、結果として……
渡来人少年は着実に、学識や大陸諸言語を習得した。
現地語も、言われなければ分からぬ程巧みに操りながら、
易占にまで通じるつわ者ぶり。
当然、あちらこちらから、引く手あまたの門客となった。
✶
さて、ここで話をーー移動往来の自由に戻そう。
古代、定住民は土地に縛られた存在であった。
皆が、産まれた土地で生き、産まれた土地で死ぬ。
それが定住民として当たり前の生き方であり、また自然の摂理でもあった。
領主は、好き勝手に領民が移動しては、家畜も農作物も水産資源も育たぬ。
収穫が減って、働き手が居なくなる。
産まれる子供も減り、次世代に渡って税収が減る。
領民自身も、あくまで一時滞在で、
こちら側に利益をもたらす行商人や芸人ならともかくーー
ワケワカランよそ者や食い詰め者に来られて、
限られた水や食物や土地そのものを、
好き勝手踏み荒らされ、汚されては死活問題だ。
要するに、先行者利益が奪われるからだ。
✶
門客は別だ。
各地で引っ張りだことなった彼は、知そのものを売り歩く。
それ自体は、誰とも利害が衝突しない。
しかも、枯れることも、誰かに奪われることもない。
彼は、王朝すら跨いで、あちこちの領地に移動する権利を有していた。
霧越京宮殿の奥深くへと案内されていた。
「室稚君(むろわかぎみ)と、
あやぎり朝摂政、直々のご案内とは……
一体何です?」
あやぎり朝の要(かなめ)である二人は無言のまま、
アラナムを書庫まで先導した。
室内には所狭しと、木簡や竹簡がーーうず高く積まれている。
「これは見事だ。よく蒐めたものですね~、
今はなき渡来人・留守役の遺産という訳だ」
アラナムは、さっそく茶化した。
なき身内をヴァカにされたら、
このよく似た二つのお澄まし顔も、
さぞやヒリつくであろうと期待して。
アラナムの期待は、即座に裏切られる。
室稚君(むろわかぎみ)が、
目を輝かせて身内自慢を開始した。
「如何にも。彼は一生涯、
我が祖父・長上と、あやぎり朝へよく尽くしてくれた」
✶
あやぎり朝の留守役とはまさに、伝説的知識人であった。
彼は幼少のみぎりに大陸から、政争に敗れた両親に伴われて渡来した。
しかし彼曰く、
「体罰! 飯抜き! 抜き打ち検査!」
ばかりの両親であったらしい。
その手段はともかく、結果として……
渡来人少年は着実に、学識や大陸諸言語を習得した。
現地語も、言われなければ分からぬ程巧みに操りながら、
易占にまで通じるつわ者ぶり。
当然、あちらこちらから、引く手あまたの門客となった。
✶
さて、ここで話をーー移動往来の自由に戻そう。
古代、定住民は土地に縛られた存在であった。
皆が、産まれた土地で生き、産まれた土地で死ぬ。
それが定住民として当たり前の生き方であり、また自然の摂理でもあった。
領主は、好き勝手に領民が移動しては、家畜も農作物も水産資源も育たぬ。
収穫が減って、働き手が居なくなる。
産まれる子供も減り、次世代に渡って税収が減る。
領民自身も、あくまで一時滞在で、
こちら側に利益をもたらす行商人や芸人ならともかくーー
ワケワカランよそ者や食い詰め者に来られて、
限られた水や食物や土地そのものを、
好き勝手踏み荒らされ、汚されては死活問題だ。
要するに、先行者利益が奪われるからだ。
✶
門客は別だ。
各地で引っ張りだことなった彼は、知そのものを売り歩く。
それ自体は、誰とも利害が衝突しない。
しかも、枯れることも、誰かに奪われることもない。
彼は、王朝すら跨いで、あちこちの領地に移動する権利を有していた。
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