衣夢々談(きぬむむだん) ――これはガチで死んだなと思ったら、夢にまで見た異世界でチート級超能力者だった。なお、

テジリ

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へゴン宮

水俣学

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「なんだと?」

 戴冠はうろたえる。

 その時ーー、
 あやぎり朝使節団に紛れていたハクベラが、前に出た。

「こっちが本物だよ❤  
 昔の恋人のよしみで持ってきた❤」

 ハクベラは、小瓶を差し出した。
 戴冠は笑顔で受け取る。

「見た目の割に、やけに重たいなあ……
 だが乙女よ……でかした!  
 褒美は何がいい? 我が子は元気か?  

 ただ、あいにくと冠位は無理だ。
 妃嬪から産まれた子しか冠位は持てぬ。
 追贈もできぬしな」

 ハクベラは、薄ら笑いを浮かべた。

「いいっていいって❤  
 ほら、早く飲みなよ~。ア~ン♪」

 あなたは、戴冠と元カノを見ている。

 ふと、気がつく。
 この古代風味のファンタジー異世界で、不老不死の秘薬と呼べる存在。

 見た目の割に、やけに重たい瓶。
 それはまるでーー小学生時代に、

 水俣病資料館で触れ、
 クラスメイトと交代交代に持ってみた、あの展示。
 透明な容器越しに眺めた、水銀。


 ✶


 水俣病という名前はーー
 メチル水銀による公害病発生地域・水俣市に由来する。

 だが、子供というのは、無知で残酷だ。

 うわさによるとーーある時、
 県庁所在地の小学生が、水俣市の小学生を、水俣病とからかった。

 当然教育委員会で大問題となり、
 以来県庁所在地の小学生は、
 見学旅行で、必ず水俣病資料館を訪れる。

 早いうちから学ばせることこそが、無知や偏見には有効だ。

 ✶

 だが、あなたは展示やーー
 胎児性患者である語り部の、

 聴き取りづらく、だからより一層、
 心苦しくなるお話しに圧倒されながら、ふと思う。

 劇症で、もがき苦しみながら、
 あるいは麻痺によって、じっと微動だにせず
 次々と亡くなった患者やーー

 今話している語り部以外の患者は、どこへ行ったのか?


 ✶


 中学生のあなたは、芦北町を訪れた。
 今は美しく、安全な不知火海。

 きらめく太刀魚。
 それを釣る観光船は、まるで優雅な白い貴婦人の如きーー
 元は漁船として、用いられていた帆掛け船。

 水俣病は、水俣市だけで発生したのではない。
 不知火海に面する各市町村。出荷された魚。
 水俣病には、未だ認定患者問題が残る。

 ✶

 あなたは芦北町で、
 初期の原告団で活動したという漁師のお話しを伺う。

 少年時代から父の漁を手伝い、漁師に憧れ夢見る少年。
 地元では一般的だった、海水で炊いた白飯。

「塩気がほどよくて、うんまいのさ~
 塩オニギリより、よかばい」

 家族全員が、同じ海水で炊いた釜の飯を食った。
 しかし、同じ家族内でもーー

 認定される者と。されない者に分かれた家もある。
 県の認定は、あくまで症状を基準にするからだ。


 ✶


「今度食べてみなっせ♪ 今はもう海水も綺麗か。
 水銀濃度も調査観測されとって、大丈夫だけん」

 あなたは思う。すこし、こわい。

 それから漁師はすこしだけーー
 漁協の中で、貴重な話を続けた。

「チッソは、地元経済の立役者だった。
 初期の我々は、地元差別とも闘わねばならなかった。
 今認定を争っているのは、
 初期の俺達の苦労への、タダ乗りだ!」

 そのあとあなたは、不知火海で釣り船に乗る。
 漁協の人が、あれはちょいと言い過ぎ…と、
 ほかの地元民同士で会話しながら、苦笑していた。

 それを聞いたあなたは、小学生時代に学んだ話を思い出す。

『お金は、この籠へ』

 患者家族には、指1本触れたくなかったのだ。

 最初は、
 漁港の野良猫たちの、異常行動から始まった。
 それは、メチル水銀に侵された魚を食べたせい。

 だが、理由のわからない疫病への恐怖は、どうしようもなく蔓延した。

 さながら、
 新型ウイルス感染症の、パニックの如く。


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