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妹探してよし行くぞ
足掻手 ⚠️自殺に関する内容が含まれます⚠️
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勾人は阿諛の肩に触れた瞬間、胸の奥がざわついた。
「オマエ、歳なんか誤魔化すなよ。言ってやめさせてもらうから」
阿諛は必死に肩をすくめて笑う。
「イヤイヤ、ほんとだってば!成終月の生まれなんだからしょうがないじゃん!」
古代社会における数え3歳差――
その年の響きは、古代では十分、大人として扱われる目安。
だが、目の前の阿諛は、まだ華奢な体つき、細い腕、柔らかい肩。
その全てが、勾人の胸に小さな衝撃を走らせる。
理性は告げる。
「古代社会的には問題ない、形式上は大人だ」と。
だが、身体は無意識に反応し、心の奥底にざわめきが芽生える。
いや、こんな感覚――
嫌悪とも、興味とも、期待とも、まだ言葉にできない違和感。
頭では理解しても、身体は正直すぎて、手のひらの感覚が熱を帯びる。
勾人はわずかに息を吐き、視線をそらした。
「……ふん、しょうがない。俺が言うまでもなさそうだな」
胸の奥のざわめきだけは、静かに、しかし消えることなく残った。
理性も感情も、まだ折り合いをつけられないまま、
目の前の現実を刻み込むように。
☯
朝の光が川面に反射して、冷たい水の香りが漂う。
勾人は、母・宝児(ほうじ)と共に川へ向かう。
脱童の事実は、宝児も知っている。
相手は男だろう、古代社会的には問題ない。
だが、朝の勾人はどこか浮かれていた。
なんだか嬉しそうに見える。
下流で、水しぶきを上げて少年が水浴びをしている。阿諛だ。
無邪気に手を振り、挨拶するその姿。
宝児の目に、その小さな背中と、笑顔が飛び込む。
知らない顔だ――と思いながらも、
宝児は視線を外せない。
息子と少年の間に、微かに親しさがあるのを感じてしまう。
「オマエ、元気そうだな! いつまで居るんだ?」
勾人の声は浮かれ気味で、初恋のような輝きが混じる。
宝児の胸に、冷たいものが落ちる。
「あんな相手と……?なんで断らなかったの……?」
宝児の心が、静かに、ポッキリと折れる。
「成終月の生まれだから、問題ない。……まだ帰りも居るといいな」
勾人は無邪気に答える。
母には、すべてがつながって見えた。
阿諛は、成終月の生まれーー
つまりは……産まれたときから、実質2歳の年を取る。
現代であれば、思春期の勾人とは、実質4歳差。
大陸語の告白文、浮かれた息子、阿諛の見た目……
あまりに現実的で、あまりに絶望的で、胸が潰れるようだった。
☯
宝児は、頑固で理屈屋だ。
古代人らしからぬ、思考の渦に呑まれていく。
阿諛は、男の子だから……
計里氏は、後腐れない諸国放浪の一時滞在者へ、命じたのだろう。
もし女の子なら、将来の母胎を傷つける。
さすがに自制しただろう。
でも、阿諛が男だろうが女だろうが、関係ない。
「やめなさい!」
思わず声が飛んだ。
阿諛がびくっと肩を震わせ、勾人がゆっくりと、母・宝児のほうを振り向く。
「……なぜ?」
勾人の目は、本気でわからない、という色だった。
悪びれもせず、ただ疑問を投げかける幼さ。
しかしその口調と眉の寄せ方は、あまりにも――
(前領主に、似ている)
宝児は、胸の奥がヒシヒシと軋むのを感じた。
「阿諛は……その、嫌がっているでしょう」
「嫌がってない。だろ、阿諛」
阿諛は困惑して、勾人とその母の間で目を泳がせる。
その挙動まで、かつて後妻・宝児が、
亡き前領主と、義弟・計里氏の間で揺れていた日々を思わせた。
宝児は息を整えようとしたが、喉がうまく動かない。
「阿諛は、まだ分別も付いていないでしょう。
あなたはもう古代成人済なんだから、軽々しく、そんな真似を――」
「軽々しくじゃない」
勾人は静かに言った。
その言い方がまた、心臓を握りつぶすように、
亡き前領主……勾人の、伯父に似ていた。
「俺は、本気で好きなんだ」
阿諛の肩に置く手は優しいのに、
“言えば従わせられる”と、どこか確信している力の入り方。
計里氏が宝児に向けた、あの甘い声と同じ。
宝児は、たまらず口を閉じた。
言葉を足せば、涙がこぼれるのを堪えられなくなる。
「……だめです。阿諛、もう帰りなさい」
ようやく絞り出した声は、ひどくかすれていた。
勾人は、到底納得できないという顔で阿諛を見て、
それからようやく宝児を見た。
「母上、なぜ怒るのですか? 天媛への求婚なんて、ただのフリですよ」
その問いが、胸に突き刺さる。
計里氏もきっと、同じことを考えていたに違いない。
(どうして……どうしてそんなところまで似るの……)
「俺と阿諛は、先に帰ります。計里の館まで、阿諛を送らなくては」
ーーもう、もう、わたしの息子は……どこにも居ない。
勾人も結局……計里氏なのだ。
宝児の心に、不知火が灯る。
☯
阿諛との一時的な別れを惜しむ勾人の帰宅は、
実際には、もやい結びの願掛けお守りを授けた以外、特に何もなかったが、
不義の女とされ、
母一人、子一人で精一杯生きてきた、
宝児の不安と緊張を掻き立てるには、十分すぎた。
「勾人はただ、人として、真っ当に生きていればいい。
お願いよ……これで気づいて🫀🗡️」
宝児はためらい傷だらけの身体で、
最後まで足掻き、手は、赤黒く血で染まり、
やがて、息絶えた。
「オマエ、歳なんか誤魔化すなよ。言ってやめさせてもらうから」
阿諛は必死に肩をすくめて笑う。
「イヤイヤ、ほんとだってば!成終月の生まれなんだからしょうがないじゃん!」
古代社会における数え3歳差――
その年の響きは、古代では十分、大人として扱われる目安。
だが、目の前の阿諛は、まだ華奢な体つき、細い腕、柔らかい肩。
その全てが、勾人の胸に小さな衝撃を走らせる。
理性は告げる。
「古代社会的には問題ない、形式上は大人だ」と。
だが、身体は無意識に反応し、心の奥底にざわめきが芽生える。
いや、こんな感覚――
嫌悪とも、興味とも、期待とも、まだ言葉にできない違和感。
頭では理解しても、身体は正直すぎて、手のひらの感覚が熱を帯びる。
勾人はわずかに息を吐き、視線をそらした。
「……ふん、しょうがない。俺が言うまでもなさそうだな」
胸の奥のざわめきだけは、静かに、しかし消えることなく残った。
理性も感情も、まだ折り合いをつけられないまま、
目の前の現実を刻み込むように。
☯
朝の光が川面に反射して、冷たい水の香りが漂う。
勾人は、母・宝児(ほうじ)と共に川へ向かう。
脱童の事実は、宝児も知っている。
相手は男だろう、古代社会的には問題ない。
だが、朝の勾人はどこか浮かれていた。
なんだか嬉しそうに見える。
下流で、水しぶきを上げて少年が水浴びをしている。阿諛だ。
無邪気に手を振り、挨拶するその姿。
宝児の目に、その小さな背中と、笑顔が飛び込む。
知らない顔だ――と思いながらも、
宝児は視線を外せない。
息子と少年の間に、微かに親しさがあるのを感じてしまう。
「オマエ、元気そうだな! いつまで居るんだ?」
勾人の声は浮かれ気味で、初恋のような輝きが混じる。
宝児の胸に、冷たいものが落ちる。
「あんな相手と……?なんで断らなかったの……?」
宝児の心が、静かに、ポッキリと折れる。
「成終月の生まれだから、問題ない。……まだ帰りも居るといいな」
勾人は無邪気に答える。
母には、すべてがつながって見えた。
阿諛は、成終月の生まれーー
つまりは……産まれたときから、実質2歳の年を取る。
現代であれば、思春期の勾人とは、実質4歳差。
大陸語の告白文、浮かれた息子、阿諛の見た目……
あまりに現実的で、あまりに絶望的で、胸が潰れるようだった。
☯
宝児は、頑固で理屈屋だ。
古代人らしからぬ、思考の渦に呑まれていく。
阿諛は、男の子だから……
計里氏は、後腐れない諸国放浪の一時滞在者へ、命じたのだろう。
もし女の子なら、将来の母胎を傷つける。
さすがに自制しただろう。
でも、阿諛が男だろうが女だろうが、関係ない。
「やめなさい!」
思わず声が飛んだ。
阿諛がびくっと肩を震わせ、勾人がゆっくりと、母・宝児のほうを振り向く。
「……なぜ?」
勾人の目は、本気でわからない、という色だった。
悪びれもせず、ただ疑問を投げかける幼さ。
しかしその口調と眉の寄せ方は、あまりにも――
(前領主に、似ている)
宝児は、胸の奥がヒシヒシと軋むのを感じた。
「阿諛は……その、嫌がっているでしょう」
「嫌がってない。だろ、阿諛」
阿諛は困惑して、勾人とその母の間で目を泳がせる。
その挙動まで、かつて後妻・宝児が、
亡き前領主と、義弟・計里氏の間で揺れていた日々を思わせた。
宝児は息を整えようとしたが、喉がうまく動かない。
「阿諛は、まだ分別も付いていないでしょう。
あなたはもう古代成人済なんだから、軽々しく、そんな真似を――」
「軽々しくじゃない」
勾人は静かに言った。
その言い方がまた、心臓を握りつぶすように、
亡き前領主……勾人の、伯父に似ていた。
「俺は、本気で好きなんだ」
阿諛の肩に置く手は優しいのに、
“言えば従わせられる”と、どこか確信している力の入り方。
計里氏が宝児に向けた、あの甘い声と同じ。
宝児は、たまらず口を閉じた。
言葉を足せば、涙がこぼれるのを堪えられなくなる。
「……だめです。阿諛、もう帰りなさい」
ようやく絞り出した声は、ひどくかすれていた。
勾人は、到底納得できないという顔で阿諛を見て、
それからようやく宝児を見た。
「母上、なぜ怒るのですか? 天媛への求婚なんて、ただのフリですよ」
その問いが、胸に突き刺さる。
計里氏もきっと、同じことを考えていたに違いない。
(どうして……どうしてそんなところまで似るの……)
「俺と阿諛は、先に帰ります。計里の館まで、阿諛を送らなくては」
ーーもう、もう、わたしの息子は……どこにも居ない。
勾人も結局……計里氏なのだ。
宝児の心に、不知火が灯る。
☯
阿諛との一時的な別れを惜しむ勾人の帰宅は、
実際には、もやい結びの願掛けお守りを授けた以外、特に何もなかったが、
不義の女とされ、
母一人、子一人で精一杯生きてきた、
宝児の不安と緊張を掻き立てるには、十分すぎた。
「勾人はただ、人として、真っ当に生きていればいい。
お願いよ……これで気づいて🫀🗡️」
宝児はためらい傷だらけの身体で、
最後まで足掻き、手は、赤黒く血で染まり、
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