【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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閑話休題 Part3

毛濔(もみ)と雪蛤(はすま)の河渡し

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両属地は、すでに戦場だった。
かはそに朝と円理朝の兵が小競り合いを繰り返す中、
大河は昨夜の雨で濁り、水面はうねっていた。
渡し場は、いつもより混雑している。
渡し船は、小さな舟一艘。
船頭は額に汗を浮かべ、苛立ちを隠せなかった。

「悪いが、軽い荷の者からだ。芸人の姉ちゃん、先に乗れ」

旅芸人・毛濔(もみ)が、握りこぶしを振り上げて叫ぶ。

「よっしゃあ!」

彼女は普段は一座の芸人だが、戦場では“石器拾い”で稼ぐ。
落ちた矢羽、刺さった鏃、武人の小物――
戦の翌朝には回収して、かはそに朝に売りさばくのだ。
今日を逃せば、他の拾い屋に全部持っていかれる。

しかし同じ船を待っていた商人・雪蛤(はすま)は、顔を真っ赤にして反論する。

「待て! 私は今日中に商品を届けねばならない!
 君はただの芸人だろ? 今日を逃しても命に関わるまい!」

雪蛤は糧食や塩、麻布を扱う下級商人。
蒿雀氏からの期日厳守命令付きで、遅れれば罰金、
夜間に盗賊や野犬に襲われるリスクもある。
遅延は死活問題だった。

毛濔はカチンときて声を張り上げた。

「はあ? 冗談じゃねえ! 今日逃したら、明日はロクな拾いもんが残ってねえんだよ!」

船頭はもう我慢の限界だった。

「姉ちゃんたち、どっちでもいいから乗れ! 揺れるとひっくり返っちまうんだ!!」

女二人の口論は、殴り合い寸前まで発展しそうになる。
そのとき――静かな声が割って入った。阿諛だった。

傷病兵を向こう岸まで送り届け、戻ってきたところだ。
数えでそこらとは、とても思えない落ち着きで、両者を見渡す。

「船頭さま。
 彼女(芸人)の荷は軽いが急ぎでもあり、
 彼女(商人)の荷は重いが軍務に関わる急ぎです。
 どちらも理由があります」

背後で腕を組む河鹿(お目付役)が、冷ややかに阿諛を観察していた。
(阿諛め、勝手なことを……)

阿諛は落ち着いた声で続けた。

「提案があります」

こうして川渡しは無事に整理された。

→芸人・毛濔は先に船で渡る

→商人・雪蛤の重い麻袋は岸で阿諛と河鹿が預かって軽量化

→次の便はお目付・河鹿の権限により、最優先で商人に回す

→傷病兵によると、上流には浅瀬ルートがある
→それを使い、商人の軽い荷物だけ別行動で運ぶ


芸人・毛濔は、阿諛たちが大河を渡り終えると、向こう岸で待っていた。
舟から降りる阿諛の手を取り、下船を手助けする。

「ぼうや、ただの衛生兵じゃねえな?
 助かったぜ。
 お礼に私の楽器で退屈しのぎしてやるよ。
 ついでに鏃拾いのコツも教えてやろうか?」

商人・雪蛤もにっこりと笑う。

「助かった。あんた、地理も人の扱いもうまいね。
 一緒に行っていいかい?
 飯は自分で賄えるし、少しだけ稼ぎも分けるよ。
 いくさ場道中、一人じゃ危ないから」

河鹿は背後からじっと阿諛を見つめる。
(こやつ、旅芸人も商人も手懐けた……やはりスケコマシ! 監視が必要だ……)

阿諛は軽く息をつき、毛濔と雪蛤の笑顔を見やった。
これからの戦いも、この小さな交渉力が、命をつなぐことになるだろう。



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