【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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いくさは人に 恋はおのれに

修行

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「うげ……この人か」

霧彦は、昨夜長上が言っていた“肖え物”を前に、  
思わず呟いた。


初対面の挨拶もそこそこに、  
しつりは霧彦を引っ張って、  
使用人が近道代わりに通り抜ける、広い庭の一角へ連れて行った。

「手前の楡の木と、奥の李の木が見えるか」
「……はい、しつり殿」

「様と呼べ。 
 吾人は長上のしもべではない。  
 付き合いは長いがな……話が逸れた。  
 吾人が止めるまで、木々の間を駆けて往復せよ。  

 そら、始め」

言われるがまま、 霧彦は走り始めた。

――が、すぐにバテた。

「はあ……はあ……」  

その場にへたり込んで、ゼイゼイ息をする。
しつりは、ため息一つ。

「まあよいわ。次は鞠つきじゃ。  
 おいそこの、霧彦の部屋から吾人の赤包を取って参れ。  
 ついでに竹水筒も二つ」

通りがかった使用人二人が、  

「は、はいっ!」  

と慌てて走って行った。

意外とすぐに戻ってきて、  
水筒を差し出してくれる。

霧彦がごくごくと水を呑んでいると、  
しつりは赤包から皮製の手鞠を取り出し、  
屈んで鞠つきを始めた。


〽 てんつく てんつく 跳ね手鞠  
 ねじり離れて あらいずこ  
 分かれてお出でになりまする  
 浮いてなくなり かそいろは  

 川とり 畑とり 軒とられ  
 手練の 手管に 手も出ない  
 それでは頂戴 頂戴な  

 手鞠は 手込の 飾り物  
 てんつく てんつく 跳ね手鞠

――意味不明だが、めちゃくちゃ上手い。

(……ってことは、しつり様って女……?)

霧彦が、ぼうっと見とれていたら、  

ぽろ。  
手鞠が取りこぼされ、  
ぽん、ぽん、と弾んで、  

そのまま霧彦の足元へ転がってきた。

しつり、振り返ってニッコリ。

「この修行はな、まず走ることで持久力をつけるのじゃ。それから鞠つきで足腰を鍛えるのじゃ」

霧彦は、ガチ過ぎる内容にドン引きだ。

(うわ! めっちゃ生々しい……🙀)

朝陽の下、  
手鞠がぽん、ぽん、と跳ねる音が、  
妙に不吉に響いた。



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