【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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サルヌリ朝

【自作】指相撲

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かつてのヒイナは、
戴冠が引き連れてきた副官から、
ヒイナ解任の命を伝えられていた。

「どうする? 従者女ともども、サルヌリ朝へ戻りたければ連れ帰ってもよいとのことだが……」

ヒイナは、ぎゅっと瞼(まぶた)を閉じた。





彼女の脳裏に、両親の顔が蘇る。
実家はそこそこ裕福な交易商。
娘がヒイナとなったおかげで、
実家はサルヌリ宮廷の出入り商人となった。

跡取り息子の兄も、良縁を得た。
まだ幾ばくもない妹は、没落公家の許嫁として、身分上昇が確定済み。

すべてヒイナのおかげなのにーー
業つくばりの両親は、きっと、いや確実に。
退職の俸禄付きで返された娘を持て余し、
元ヒイナの肩書きをエサにして、
どこぞの金持ち老人の妾に押し込むのだ。

ヒイナになると、幸せにはなれない。
耳年増で困る。
夫が罵声を浴びせた張本人。
擦れていて、可愛げがない。
精神不安定で、急に泣き叫ぶ。
何としたものか、あれでは母親にも向かぬーー傷物女。

長上が走って来て、彼女を呼んだ。

「ひいな! 面通しを頼みたい」

ひいなは瞼を開き、顔を上げた。





タマル冠は、地団駄を踏み鳴らす。
逃げたはずの長上は、複数の護衛兵に囲まれて舞い戻った。

「くっ、あと一歩でトドメが刺せた🔪💥🫀……
 浮かれたハイタークめ🦧🎶、
 愚図愚図しおって💢」

ハイタークは、戴冠とタマル冠を背後に庇った。

そのお陰で命拾いした匪躬は、衛生兵の手当を受けながら、長上に泣きついている。

「もうおしまいだアアア阿諛ぅ、捨てないでくれ。
 某つら過ぎて生きていけない!」

長上は、苦笑しながら言い放つ。

「怪我してるじゃないか、それも俺の為に。
 富や名声などには、目もくれぬ。
 そんな“匪躬”を、見棄てる訳がない」





謎のハートフル忠誠劇を繰り広げる敵主従。
ハイタークは、ウンザリしながら怒鳴りつける。

「おい長上!
 我が愛する妹、タマル冠は返して貰ったぞ。
 頼みの匪躬もその傷だ。
 化膿しないうちに引き上げられよ」

ハイタークは、まだまだ戴冠演技を続ける腹づもり。しかし、ド素人にも程がある大根演技だ。
長上はハイタークを一瞥し、
それから寵姫と視線を合わせながら、滔々と語りかける。

「さすがはサルヌリ朝の最強格。
 後ろの寵姫の見事な頸飾は、戴冠の美的感覚の表れか」

ハイタークは、あからさまに動揺した。
タマル冠は怒り狂う。

「この救いようのない痴れ者め!
 堂々としておればよいだけなのに、それすら出来ぬとは。
 ーーにいさま、いかがいたします👀🔪?」

戴冠は、首元に触れながら話し出した。

「あーあ、しくじったか。
 喉元など大して目立たぬのだし、
 おのが美貌に自信を持って、堂々と臨むべきであったな~」

長上は、それすら即座に否定した。

「どうだか。ヒイナに面通しさせれば済む話だ。
 さっき遠目に見させたが、すぐ正体に気付いて怯えっぱなしだったぞ」

戴冠は、肩をすくめる。
それすらサマになる程の美貌で。

「吾(われ)の躾は、行き届いておるからな。
 だがアレはもう、ヒイナでも何でもない」

「ほう? サルヌリ朝は、ずいぶんと新陳代謝が活発だ」

戴冠は、長上を鼻で笑った。

「それより喜ばぬか、退屈しのぎに、はるばる逢いに来てやったのだぞ。
 誠に愚かな連中しかおらぬよなあ?

 心とやらに振り回されて、見たいものしか見ようとせぬ。

 ――故に御し易い。そちも同じ思考のはずだ」

長上は、わざとらしく首をかしげる。

「これは異なり。理解に苦しむ自己紹介だな」

戴冠は、長上に近付いて顔をのぞき込む。
急な接近で動揺をさそい、手を握るのは、
戴冠の常套手段。

「ふーん、どうやらまだ自覚のないようだ。
 あるいは、徹底した秘密保持のなせる技かな?」

「ええい、気の悪い。勝手に人の手を取って頬擦りすな」

長上は、戴冠の手を振り払おうとして、その意外な握力に苦戦する。

「たはは、吾が女以上に麗しいからといってーー 
 油断し過ぎではないか?
 この手首、いまここで噛み千切ったら、
 どうするつもりだ?」

長上は答える。
突如始まった、戴冠との指相撲に悪戦苦闘しながら。

「つまらん脅しを。戴冠にそんな根性があれば、
 今頃とうに血を吹いている」



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