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サルヌリ朝
【自作】指相撲
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かつてのヒイナは、
戴冠が引き連れてきた副官から、
ヒイナ解任の命を伝えられていた。
「どうする? 従者女ともども、サルヌリ朝へ戻りたければ連れ帰ってもよいとのことだが……」
ヒイナは、ぎゅっと瞼(まぶた)を閉じた。
✦
彼女の脳裏に、両親の顔が蘇る。
実家はそこそこ裕福な交易商。
娘がヒイナとなったおかげで、
実家はサルヌリ宮廷の出入り商人となった。
跡取り息子の兄も、良縁を得た。
まだ幾ばくもない妹は、没落公家の許嫁として、身分上昇が確定済み。
すべてヒイナのおかげなのにーー
業つくばりの両親は、きっと、いや確実に。
退職の俸禄付きで返された娘を持て余し、
元ヒイナの肩書きをエサにして、
どこぞの金持ち老人の妾に押し込むのだ。
ヒイナになると、幸せにはなれない。
耳年増で困る。
夫が罵声を浴びせた張本人。
擦れていて、可愛げがない。
精神不安定で、急に泣き叫ぶ。
何としたものか、あれでは母親にも向かぬーー傷物女。
長上が走って来て、彼女を呼んだ。
「ひいな! 面通しを頼みたい」
ひいなは瞼を開き、顔を上げた。
✦
タマル冠は、地団駄を踏み鳴らす。
逃げたはずの長上は、複数の護衛兵に囲まれて舞い戻った。
「くっ、あと一歩でトドメが刺せた🔪💥🫀……
浮かれたハイタークめ🦧🎶、
愚図愚図しおって💢」
ハイタークは、戴冠とタマル冠を背後に庇った。
そのお陰で命拾いした匪躬は、衛生兵の手当を受けながら、長上に泣きついている。
「もうおしまいだアアア阿諛ぅ、捨てないでくれ。
某つら過ぎて生きていけない!」
長上は、苦笑しながら言い放つ。
「怪我してるじゃないか、それも俺の為に。
富や名声などには、目もくれぬ。
そんな“匪躬”を、見棄てる訳がない」
✦
謎のハートフル忠誠劇を繰り広げる敵主従。
ハイタークは、ウンザリしながら怒鳴りつける。
「おい長上!
我が愛する妹、タマル冠は返して貰ったぞ。
頼みの匪躬もその傷だ。
化膿しないうちに引き上げられよ」
ハイタークは、まだまだ戴冠演技を続ける腹づもり。しかし、ド素人にも程がある大根演技だ。
長上はハイタークを一瞥し、
それから寵姫と視線を合わせながら、滔々と語りかける。
「さすがはサルヌリ朝の最強格。
後ろの寵姫の見事な頸飾は、戴冠の美的感覚の表れか」
ハイタークは、あからさまに動揺した。
タマル冠は怒り狂う。
「この救いようのない痴れ者め!
堂々としておればよいだけなのに、それすら出来ぬとは。
ーーにいさま、いかがいたします👀🔪?」
戴冠は、首元に触れながら話し出した。
「あーあ、しくじったか。
喉元など大して目立たぬのだし、
おのが美貌に自信を持って、堂々と臨むべきであったな~」
長上は、それすら即座に否定した。
「どうだか。ヒイナに面通しさせれば済む話だ。
さっき遠目に見させたが、すぐ正体に気付いて怯えっぱなしだったぞ」
戴冠は、肩をすくめる。
それすらサマになる程の美貌で。
「吾(われ)の躾は、行き届いておるからな。
だがアレはもう、ヒイナでも何でもない」
「ほう? サルヌリ朝は、ずいぶんと新陳代謝が活発だ」
戴冠は、長上を鼻で笑った。
「それより喜ばぬか、退屈しのぎに、はるばる逢いに来てやったのだぞ。
誠に愚かな連中しかおらぬよなあ?
心とやらに振り回されて、見たいものしか見ようとせぬ。
――故に御し易い。そちも同じ思考のはずだ」
長上は、わざとらしく首をかしげる。
「これは異なり。理解に苦しむ自己紹介だな」
戴冠は、長上に近付いて顔をのぞき込む。
急な接近で動揺をさそい、手を握るのは、
戴冠の常套手段。
「ふーん、どうやらまだ自覚のないようだ。
あるいは、徹底した秘密保持のなせる技かな?」
「ええい、気の悪い。勝手に人の手を取って頬擦りすな」
長上は、戴冠の手を振り払おうとして、その意外な握力に苦戦する。
「たはは、吾が女以上に麗しいからといってーー
油断し過ぎではないか?
この手首、いまここで噛み千切ったら、
どうするつもりだ?」
長上は答える。
突如始まった、戴冠との指相撲に悪戦苦闘しながら。
「つまらん脅しを。戴冠にそんな根性があれば、
今頃とうに血を吹いている」
戴冠が引き連れてきた副官から、
ヒイナ解任の命を伝えられていた。
「どうする? 従者女ともども、サルヌリ朝へ戻りたければ連れ帰ってもよいとのことだが……」
ヒイナは、ぎゅっと瞼(まぶた)を閉じた。
✦
彼女の脳裏に、両親の顔が蘇る。
実家はそこそこ裕福な交易商。
娘がヒイナとなったおかげで、
実家はサルヌリ宮廷の出入り商人となった。
跡取り息子の兄も、良縁を得た。
まだ幾ばくもない妹は、没落公家の許嫁として、身分上昇が確定済み。
すべてヒイナのおかげなのにーー
業つくばりの両親は、きっと、いや確実に。
退職の俸禄付きで返された娘を持て余し、
元ヒイナの肩書きをエサにして、
どこぞの金持ち老人の妾に押し込むのだ。
ヒイナになると、幸せにはなれない。
耳年増で困る。
夫が罵声を浴びせた張本人。
擦れていて、可愛げがない。
精神不安定で、急に泣き叫ぶ。
何としたものか、あれでは母親にも向かぬーー傷物女。
長上が走って来て、彼女を呼んだ。
「ひいな! 面通しを頼みたい」
ひいなは瞼を開き、顔を上げた。
✦
タマル冠は、地団駄を踏み鳴らす。
逃げたはずの長上は、複数の護衛兵に囲まれて舞い戻った。
「くっ、あと一歩でトドメが刺せた🔪💥🫀……
浮かれたハイタークめ🦧🎶、
愚図愚図しおって💢」
ハイタークは、戴冠とタマル冠を背後に庇った。
そのお陰で命拾いした匪躬は、衛生兵の手当を受けながら、長上に泣きついている。
「もうおしまいだアアア阿諛ぅ、捨てないでくれ。
某つら過ぎて生きていけない!」
長上は、苦笑しながら言い放つ。
「怪我してるじゃないか、それも俺の為に。
富や名声などには、目もくれぬ。
そんな“匪躬”を、見棄てる訳がない」
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謎のハートフル忠誠劇を繰り広げる敵主従。
ハイタークは、ウンザリしながら怒鳴りつける。
「おい長上!
我が愛する妹、タマル冠は返して貰ったぞ。
頼みの匪躬もその傷だ。
化膿しないうちに引き上げられよ」
ハイタークは、まだまだ戴冠演技を続ける腹づもり。しかし、ド素人にも程がある大根演技だ。
長上はハイタークを一瞥し、
それから寵姫と視線を合わせながら、滔々と語りかける。
「さすがはサルヌリ朝の最強格。
後ろの寵姫の見事な頸飾は、戴冠の美的感覚の表れか」
ハイタークは、あからさまに動揺した。
タマル冠は怒り狂う。
「この救いようのない痴れ者め!
堂々としておればよいだけなのに、それすら出来ぬとは。
ーーにいさま、いかがいたします👀🔪?」
戴冠は、首元に触れながら話し出した。
「あーあ、しくじったか。
喉元など大して目立たぬのだし、
おのが美貌に自信を持って、堂々と臨むべきであったな~」
長上は、それすら即座に否定した。
「どうだか。ヒイナに面通しさせれば済む話だ。
さっき遠目に見させたが、すぐ正体に気付いて怯えっぱなしだったぞ」
戴冠は、肩をすくめる。
それすらサマになる程の美貌で。
「吾(われ)の躾は、行き届いておるからな。
だがアレはもう、ヒイナでも何でもない」
「ほう? サルヌリ朝は、ずいぶんと新陳代謝が活発だ」
戴冠は、長上を鼻で笑った。
「それより喜ばぬか、退屈しのぎに、はるばる逢いに来てやったのだぞ。
誠に愚かな連中しかおらぬよなあ?
心とやらに振り回されて、見たいものしか見ようとせぬ。
――故に御し易い。そちも同じ思考のはずだ」
長上は、わざとらしく首をかしげる。
「これは異なり。理解に苦しむ自己紹介だな」
戴冠は、長上に近付いて顔をのぞき込む。
急な接近で動揺をさそい、手を握るのは、
戴冠の常套手段。
「ふーん、どうやらまだ自覚のないようだ。
あるいは、徹底した秘密保持のなせる技かな?」
「ええい、気の悪い。勝手に人の手を取って頬擦りすな」
長上は、戴冠の手を振り払おうとして、その意外な握力に苦戦する。
「たはは、吾が女以上に麗しいからといってーー
油断し過ぎではないか?
この手首、いまここで噛み千切ったら、
どうするつもりだ?」
長上は答える。
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