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管媛《くだひめ》
漁村
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旧計里氏の漁村。
そこはーーさざ波の音だけが虚しく響く、ひなびた土地だった。
計里氏時代に起きた地震と濤の爪痕は……未だ生々しい。
家は傾き、畑は潮に浸かり、漁港は破壊されたまま。
自主禁漁は、漁民自身の首も絞め上げていた。
蒿雀氏の軍医・カンカは、薬箱を背負って一軒一軒回る。
「よそ者のニセ医者め!」と海水をぶっかけられ、追い返される日々。
そんなある日、潮風に混じって、
カンカの耳にーー笛と、太鼓の音色が聞こえてきた。
あれは、妹・タマリスも好む、霧越京の毛濔一座だ。
✦
漁村の広場。
仮設舞台に派手な幕が張られ、灯籠の灯りがユラユラ揺れる。
村人たちは、半信半疑で集まってきた。
毛濔(もみ)が扇子をパチンと閉じて、澄ました顔で語り始めた。
「これは、ある山奥の孤児姉弟の物語でございます」
笛が鳴り、太鼓が響く。
舞台に、幼い姉弟の影が映る。
村人総出で育てていたが、
日照りで自分らも食えなくなり、
姉に山椒漁を、弟に火起こしと山菜取りを仕込んで、
「自活できるから」と洞穴に追いやった。
「水汲みだけは許してやる」
それが村人の最後の情けだった。
だがある日から、姉弟は水汲みに来なくなった。
村人が慌てて洞穴へ駆けつけると、誰もいない。
ただ壁一面に、赤土と草木で描かれた絵が残っていた。
姉が山椒を撒く姿。
魚がぷかぷかと浮かぶ川。
弟が描いたのか、野兎をかじるオコジョ。
笑顔の姉弟。
村人は、膝から崩れ落ちた。
「姉ちゃんは川で溺れたのか……」
「弟は獣にやられたのか……」
「二人で山を降りたのか……」
「それとも人さらいに……?」
泣き声が、波のように広がる。
舞台の毛濔は、静かに語り終えた。幕が下りる。
✦
その近くでは、
商人・雪蛤(はすま)が、牛車を引いて立っていた。
「売れ残りや規格外品ですが……
干し肉、干し飯、根菜の味見をしてもらえませんか? すべて無料ですから」
最初は誰も手を伸ばさなかった。
ある一人の老婆が、自分なら老い先短いから…と、
震える手で干し肉を受け取った。
「……うまい」
たったそれだけで、大行列ができた。
✦
駆けつけた軍医カンカは、雪蛤の隣で、小さな診療台を広げる。
今度は「有償ですが、診察します」と看板を立てた。
最初は一人。次は三人。そして夕刻には、
診療所の前は、長い列になっていた。
毛濔は舞台幕を背に、雪蛤とカンカを見ながら、小さく笑った。
「さてと! これで少しは耳を貸してくれるかな」
そこはーーさざ波の音だけが虚しく響く、ひなびた土地だった。
計里氏時代に起きた地震と濤の爪痕は……未だ生々しい。
家は傾き、畑は潮に浸かり、漁港は破壊されたまま。
自主禁漁は、漁民自身の首も絞め上げていた。
蒿雀氏の軍医・カンカは、薬箱を背負って一軒一軒回る。
「よそ者のニセ医者め!」と海水をぶっかけられ、追い返される日々。
そんなある日、潮風に混じって、
カンカの耳にーー笛と、太鼓の音色が聞こえてきた。
あれは、妹・タマリスも好む、霧越京の毛濔一座だ。
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漁村の広場。
仮設舞台に派手な幕が張られ、灯籠の灯りがユラユラ揺れる。
村人たちは、半信半疑で集まってきた。
毛濔(もみ)が扇子をパチンと閉じて、澄ました顔で語り始めた。
「これは、ある山奥の孤児姉弟の物語でございます」
笛が鳴り、太鼓が響く。
舞台に、幼い姉弟の影が映る。
村人総出で育てていたが、
日照りで自分らも食えなくなり、
姉に山椒漁を、弟に火起こしと山菜取りを仕込んで、
「自活できるから」と洞穴に追いやった。
「水汲みだけは許してやる」
それが村人の最後の情けだった。
だがある日から、姉弟は水汲みに来なくなった。
村人が慌てて洞穴へ駆けつけると、誰もいない。
ただ壁一面に、赤土と草木で描かれた絵が残っていた。
姉が山椒を撒く姿。
魚がぷかぷかと浮かぶ川。
弟が描いたのか、野兎をかじるオコジョ。
笑顔の姉弟。
村人は、膝から崩れ落ちた。
「姉ちゃんは川で溺れたのか……」
「弟は獣にやられたのか……」
「二人で山を降りたのか……」
「それとも人さらいに……?」
泣き声が、波のように広がる。
舞台の毛濔は、静かに語り終えた。幕が下りる。
✦
その近くでは、
商人・雪蛤(はすま)が、牛車を引いて立っていた。
「売れ残りや規格外品ですが……
干し肉、干し飯、根菜の味見をしてもらえませんか? すべて無料ですから」
最初は誰も手を伸ばさなかった。
ある一人の老婆が、自分なら老い先短いから…と、
震える手で干し肉を受け取った。
「……うまい」
たったそれだけで、大行列ができた。
✦
駆けつけた軍医カンカは、雪蛤の隣で、小さな診療台を広げる。
今度は「有償ですが、診察します」と看板を立てた。
最初は一人。次は三人。そして夕刻には、
診療所の前は、長い列になっていた。
毛濔は舞台幕を背に、雪蛤とカンカを見ながら、小さく笑った。
「さてと! これで少しは耳を貸してくれるかな」
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