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晴れの日の部隊
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じっと耐えていれば時間だけは過ぎて行くもので、わたくしはいよいよ入隊式の日を迎えた。今日でやっと入隊なら、これまでの地獄の日々は一体何だったのかって? それはイニシエーションという名のふるい分けである。
シビル連邦軍は公務員の座にあぐらをかき、未来ある新兵達を、入隊前にも関わらず暗黙の了解で強制連行した後、集団生活と理不尽を強いてストレス耐性を見極める。そこで音を上げた脱落者の分は、その更なる下位合格者達の名簿から入隊式直前まで補充し続ける。
こうすることでより良い奴隷労働兵を輩出しているが、恐らくこの事実はあまり知られていない。
その為、真の勝者は試験成績が絶妙で、入隊式当日に補充された者達だ。ただし彼らは彼らで入隊後、同室の者達からイニシエーションを受けるという噂もある。だがそれは同室の長の人柄次第である。
✳
入隊式は数種類ある軍服の中で、最もフォーマルな礼服に身を包んで執り行った。傍から見ている分には格好良かろうが、やっている方は結構大変である。
寒空の中、サイズは合っても個々の足の事情までは勘案出来ないパンプスを履き、一糸乱れぬ動きで行進しなくてはならないのだ。勿論何度も練習する。するとアスファルトに叩き付けた足が痛んで痺れ、段々感覚も怪しくなってくる。本番で失敗したら恥ずかしいぞと叱責も飛ぶ。これもまたイニシエーションの一形態である。
わたくしは本番当日、練習した時と同じ様にしばらく行進し、途中の道端に設置された壇上の、連隊長たる大佐に向けて、先頭に居る号令者の合図と共に敬礼した。その後は体育館に移動し、入隊式へと移行する手筈だったのだが、突然乱入者が現れて壇上に登った。
「自分はヴィンラフ朝王位請求者、シャリム=ヴィンラフだ。婚約者と連絡がつかない為、ここまで出向いて来た。この中にアリネ・ハルサナワ嬢はいらっしゃるかな?」
「はいっ、ここに。シャリム太子、わたくしに何か御用でも」
「突然訪ねて来て何だが、今ここで太子妃になるつもりは無いか。勿論断ったって全然構わない。それもまた、兵士としての立派な選択だ」
「その話、乗った! 今ここで正式にプロポーズをお受けします。そしてわたくしは、この最低最悪の地獄部隊から、速やかに立ち去りたいと思います。感謝の気持ちなんか微塵もありません。シビル連邦軍は、罵声と圧政と虚飾に満ち満ちたこの現状を変えなければ、今後も多くの人材流出を招くことでしょう。もはや一刻の猶予もございません」
わたくしは太子と手に手を取り合って、シビル連邦軍を後にした。待っていた黒塗りの車の運転手はわたくしを見て、一瞬だけど確かに驚いたようだった。太子はその運転手に向けて話し出した。
「ねえシャハル。言ったでしょう、あんな偽善に満ちたセレモニー、夢も希望もありゃしないって。こうして彼女自ら付いてきてくれたじゃありませんか」
「本当にその通りです、太子。軍隊なんかサイッテー! 何よあの大声信者! 集団生活なんかマジでクソ! あれなら今すぐムカつく奴ぶっ殺して、刑務所にぶち込まれた方がずっとマシ! ああもう、軍隊入って口が悪くなっちゃった。あまりにも理不尽な事が多過ぎて、自分の中にこれ程の殺意が眠っていたなんて、ホントびっくり」
「アリネ様。お言葉ですが、今ならまだ間に合います。あの底意地の悪いロミネ婆さんも、僕が絶対に説得します。だから、どうかこの太子からはお逃げ下さい」
「あらら、運転手さん。別に針路変更したって良いじゃありませんか、貴方ってわたくしの事を買い被り過ぎです。それとも、可愛い太子様を盗られるのが怖い?」
「は? 太子、太子、変な人が居るよ。君の事が可愛いだって? ちゃんちゃらおかしい、今に後悔するよ」
シビル連邦軍は公務員の座にあぐらをかき、未来ある新兵達を、入隊前にも関わらず暗黙の了解で強制連行した後、集団生活と理不尽を強いてストレス耐性を見極める。そこで音を上げた脱落者の分は、その更なる下位合格者達の名簿から入隊式直前まで補充し続ける。
こうすることでより良い奴隷労働兵を輩出しているが、恐らくこの事実はあまり知られていない。
その為、真の勝者は試験成績が絶妙で、入隊式当日に補充された者達だ。ただし彼らは彼らで入隊後、同室の者達からイニシエーションを受けるという噂もある。だがそれは同室の長の人柄次第である。
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入隊式は数種類ある軍服の中で、最もフォーマルな礼服に身を包んで執り行った。傍から見ている分には格好良かろうが、やっている方は結構大変である。
寒空の中、サイズは合っても個々の足の事情までは勘案出来ないパンプスを履き、一糸乱れぬ動きで行進しなくてはならないのだ。勿論何度も練習する。するとアスファルトに叩き付けた足が痛んで痺れ、段々感覚も怪しくなってくる。本番で失敗したら恥ずかしいぞと叱責も飛ぶ。これもまたイニシエーションの一形態である。
わたくしは本番当日、練習した時と同じ様にしばらく行進し、途中の道端に設置された壇上の、連隊長たる大佐に向けて、先頭に居る号令者の合図と共に敬礼した。その後は体育館に移動し、入隊式へと移行する手筈だったのだが、突然乱入者が現れて壇上に登った。
「自分はヴィンラフ朝王位請求者、シャリム=ヴィンラフだ。婚約者と連絡がつかない為、ここまで出向いて来た。この中にアリネ・ハルサナワ嬢はいらっしゃるかな?」
「はいっ、ここに。シャリム太子、わたくしに何か御用でも」
「突然訪ねて来て何だが、今ここで太子妃になるつもりは無いか。勿論断ったって全然構わない。それもまた、兵士としての立派な選択だ」
「その話、乗った! 今ここで正式にプロポーズをお受けします。そしてわたくしは、この最低最悪の地獄部隊から、速やかに立ち去りたいと思います。感謝の気持ちなんか微塵もありません。シビル連邦軍は、罵声と圧政と虚飾に満ち満ちたこの現状を変えなければ、今後も多くの人材流出を招くことでしょう。もはや一刻の猶予もございません」
わたくしは太子と手に手を取り合って、シビル連邦軍を後にした。待っていた黒塗りの車の運転手はわたくしを見て、一瞬だけど確かに驚いたようだった。太子はその運転手に向けて話し出した。
「ねえシャハル。言ったでしょう、あんな偽善に満ちたセレモニー、夢も希望もありゃしないって。こうして彼女自ら付いてきてくれたじゃありませんか」
「本当にその通りです、太子。軍隊なんかサイッテー! 何よあの大声信者! 集団生活なんかマジでクソ! あれなら今すぐムカつく奴ぶっ殺して、刑務所にぶち込まれた方がずっとマシ! ああもう、軍隊入って口が悪くなっちゃった。あまりにも理不尽な事が多過ぎて、自分の中にこれ程の殺意が眠っていたなんて、ホントびっくり」
「アリネ様。お言葉ですが、今ならまだ間に合います。あの底意地の悪いロミネ婆さんも、僕が絶対に説得します。だから、どうかこの太子からはお逃げ下さい」
「あらら、運転手さん。別に針路変更したって良いじゃありませんか、貴方ってわたくしの事を買い被り過ぎです。それとも、可愛い太子様を盗られるのが怖い?」
「は? 太子、太子、変な人が居るよ。君の事が可愛いだって? ちゃんちゃらおかしい、今に後悔するよ」
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