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美しい詩歌を作る為に悩み苦しむ
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佞臣とは何だろうか? それはスメク王国で、遠い過去に逆賊バロルドを陥れ、転戦中に病死した虚弱な帝王の代わりとして、替え玉ヴィンラフを祭り上げたジルキット家の祖先。彼こそが、そのヴィンラフの姉の夫に他ならない。
しかしそもそもが逆賊バロルドの如き純情なる臣下とは、帝王という人間に過度な幻想を抱き、神に等しき崇高なお方のご機嫌など取る必要は無い、と考えてしまいがちだ。更には潔癖さの余り、情け容赦一切無くありのままの事実を一切合切、草花一輪飾らない言葉で進言しがちである。
だがそれ故に己を知る佞臣は綺語を並べて帝王に取り入って、愚かな主の決して目の届かない場所で、下位の者達に罵声を浴びせ、欲しいままに圧政を行い、虚飾の色をまぶして覆い隠す。たまの視察など、ほぼ無駄である。
失礼の無い様にと散々言い含められ、視察後もその地で生きていかなければならない者達が、どうして佞臣を悪く言えようか。それは帝王の自己満足であり、言わば仕事サボりだ。しかし帝王自身、宮に籠もって何もしないという訳にもいかず、空虚な実績だけが積み重なる。
美しい詩歌を作る為に悩み苦しむ。かつてそのような古語に由来する旧国名を戴いたシビル連邦は、今なお斯様な矛盾を孕んで、いつか敵方か味方の絶望者にとどめを刺されるまで、皆が密かに嘆き悲しみ、真夜中に1人うなだれるしか無いのであろうか。
✳
シャリムは急須から茶葉を抜き取って、意図的に茶柱を茶器に浮かべながら、ナタルコを見てにやついた。
「ところでナタルコ、自分は男に産まれて正解だったと常々思う。
ただ男に産まれたというだけで、太子の地位はダリク帝の直系の娘達であるアイネイア帝女とアイカナ帝女を飛び越えて自分にまで回って来るし、お陰でシャハルを手に入れられた。
もし自分が、たかが傍系の一帝女として産まれたなら、地位もなくシャハルの娘より年下で、容易に妊娠するかも知れない不都合な身体を持っていた訳だからな」
ナタルコはテーブル上に腕を組んで、手の甲に顎を乗せながら喋った。
「実は私としては、それもどうかと考えているのですよ。しかしながらギリタ・ロンシュクの二の舞が現れても困りますしね。大体そんなに男子継承がお望みなら、作れば良いんですよ。確実に男と保証されて、必ず同一のY染色体を持つクローンを。
貴方は誰がお好みですか?
ダリク帝? 初代ヴィンラフ? 逆賊バロルド?
それとも太子ご自身?」
年寄りのナタルコから発せられたSF染みた内容に、シャリムは微笑みながら反論した。
「遅れてるなあ、ナタルコ。それだと遅産性双生児が、何かの折に先産性双生児の子供時代と比較された時、大騒ぎになるぞ。今どきはもっと進んでいるものだ。
何せ自分はまだ若い。やがて生殖技術が向上し、卵子以外から作成した自分由来の疑似胚細胞と、愛する彼の精子を使って、本物のbabyが誕生する可能性だって十分あるのだから。来たるべきその日の為にも、採取して冷凍保存しておく必要がある。成るべく新鮮な奴を」
日頃からシャハルに対して行っている誘惑の、根本的動機を躊躇なく披露したシャリムに対して、ナタルコは脚を組みかえてから更なる事情を問い質した。
「おやおや。私は少々、太子を見くびって居たやも知れませんなあ。しかしながら、ホムンクルスではあるまいし。依然として代理母が必要な状況に変わりはありませんな。そんな都合の良い人間、仮にアリネ太子妃ご本人が快諾しようと、世間一般からすれば不義の子にしか見えませんよ。その時彼が死んでいたって同じ事です。寧ろ余計気持ち悪さが増すだけですね」
するとシャリムは、ふ、と鼻で笑った。
「その様子だと、まだ知らなかったのか。実を言うと、自分がまるで漫画のアニス夫人のように彼を閉じ込めて以来、まともに運転手なんかさせられなくなってしまったんだ。だって車さえあればすぐ逃げ切れるからな。だからといってお父様ばかり酷使するのも可哀想だし、これ以上移動中に彼とお喋りされても癪だから、新しい運転手を今度1人採用させて貰った。玫瑰女学院出身の聡明な女性だ」
しかしそもそもが逆賊バロルドの如き純情なる臣下とは、帝王という人間に過度な幻想を抱き、神に等しき崇高なお方のご機嫌など取る必要は無い、と考えてしまいがちだ。更には潔癖さの余り、情け容赦一切無くありのままの事実を一切合切、草花一輪飾らない言葉で進言しがちである。
だがそれ故に己を知る佞臣は綺語を並べて帝王に取り入って、愚かな主の決して目の届かない場所で、下位の者達に罵声を浴びせ、欲しいままに圧政を行い、虚飾の色をまぶして覆い隠す。たまの視察など、ほぼ無駄である。
失礼の無い様にと散々言い含められ、視察後もその地で生きていかなければならない者達が、どうして佞臣を悪く言えようか。それは帝王の自己満足であり、言わば仕事サボりだ。しかし帝王自身、宮に籠もって何もしないという訳にもいかず、空虚な実績だけが積み重なる。
美しい詩歌を作る為に悩み苦しむ。かつてそのような古語に由来する旧国名を戴いたシビル連邦は、今なお斯様な矛盾を孕んで、いつか敵方か味方の絶望者にとどめを刺されるまで、皆が密かに嘆き悲しみ、真夜中に1人うなだれるしか無いのであろうか。
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シャリムは急須から茶葉を抜き取って、意図的に茶柱を茶器に浮かべながら、ナタルコを見てにやついた。
「ところでナタルコ、自分は男に産まれて正解だったと常々思う。
ただ男に産まれたというだけで、太子の地位はダリク帝の直系の娘達であるアイネイア帝女とアイカナ帝女を飛び越えて自分にまで回って来るし、お陰でシャハルを手に入れられた。
もし自分が、たかが傍系の一帝女として産まれたなら、地位もなくシャハルの娘より年下で、容易に妊娠するかも知れない不都合な身体を持っていた訳だからな」
ナタルコはテーブル上に腕を組んで、手の甲に顎を乗せながら喋った。
「実は私としては、それもどうかと考えているのですよ。しかしながらギリタ・ロンシュクの二の舞が現れても困りますしね。大体そんなに男子継承がお望みなら、作れば良いんですよ。確実に男と保証されて、必ず同一のY染色体を持つクローンを。
貴方は誰がお好みですか?
ダリク帝? 初代ヴィンラフ? 逆賊バロルド?
それとも太子ご自身?」
年寄りのナタルコから発せられたSF染みた内容に、シャリムは微笑みながら反論した。
「遅れてるなあ、ナタルコ。それだと遅産性双生児が、何かの折に先産性双生児の子供時代と比較された時、大騒ぎになるぞ。今どきはもっと進んでいるものだ。
何せ自分はまだ若い。やがて生殖技術が向上し、卵子以外から作成した自分由来の疑似胚細胞と、愛する彼の精子を使って、本物のbabyが誕生する可能性だって十分あるのだから。来たるべきその日の為にも、採取して冷凍保存しておく必要がある。成るべく新鮮な奴を」
日頃からシャハルに対して行っている誘惑の、根本的動機を躊躇なく披露したシャリムに対して、ナタルコは脚を組みかえてから更なる事情を問い質した。
「おやおや。私は少々、太子を見くびって居たやも知れませんなあ。しかしながら、ホムンクルスではあるまいし。依然として代理母が必要な状況に変わりはありませんな。そんな都合の良い人間、仮にアリネ太子妃ご本人が快諾しようと、世間一般からすれば不義の子にしか見えませんよ。その時彼が死んでいたって同じ事です。寧ろ余計気持ち悪さが増すだけですね」
するとシャリムは、ふ、と鼻で笑った。
「その様子だと、まだ知らなかったのか。実を言うと、自分がまるで漫画のアニス夫人のように彼を閉じ込めて以来、まともに運転手なんかさせられなくなってしまったんだ。だって車さえあればすぐ逃げ切れるからな。だからといってお父様ばかり酷使するのも可哀想だし、これ以上移動中に彼とお喋りされても癪だから、新しい運転手を今度1人採用させて貰った。玫瑰女学院出身の聡明な女性だ」
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