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ひょっとこ案山子
フコーカが奴を変えた
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野々下 灯枇の大失敗とは、ほんの些細な事だった。しかし後になって振り返れば、それしか原因は見当たらない。
「ねぇ。血の繋がってない人間は、全部他人だよね?」
「え? まあ…そうなんじゃないの」
灯枇はただ、ひょっとこ案山子の突然の質問に回答しただけだ。こんなのは雑談の一種に過ぎない筈だが、ひょっとこ案山子の頭は早咲きの中二病か何かでおかしな選民思想にでも冒されていたのか、単純な辞書的意味合いで同意しただけの灯枇が、その後少し違和感を覚えた程度に、それからの彼の挙動は、どこか怪しかった。
だがひょっとこ案山子のどこがどう怪しいのか、具体的に説明するのは難しい。灯枇の意識し過ぎと言えなくも無いからだ。ただ何となく、廊下を歩いていたりすると、向こうから歩いて来たひょっとこ案山子は、そのまま妙に近づいてくるような、そんな感じの事が度重なって、実は灯枇の心の中にずっと居た、イマジナリーティーチャーの殿下と水晶が、ひょっとこ案山子は灯枇が好きなのだと囁いて来て、灯枇はその度にあり得ないと否定する。
通常はイマジナリーフレンドと称するそうだが、灯枇の殿下と水晶の場合は、友達というより指導者兼保護者であった。何かしようとする度に、ビビってしまって足がすくんで何も出来なくなる灯枇を心の中で激励し、こうすれば良い。ああすれば良いのだと教えてくれる。
しかし殿下のアドバイス通りに出来た試しはほとんど無く、殿下はそれくらいで灯枇を見限ったりする事は絶対に無いが、殿下が理想とするような、少々陽気なキャラ設定を、灯枇がそのまま現実世界で演じるのは至難の業だった。殿下は灯枇のイマジナリーティーチャーの中では一番の古株で、最初に出現したのは、保育園児の灯枇が親達とはぐれ、動植物園で迷子になった時だった。
「こっちやこっち~」
その時は単なる謎の心の声だが、灯枇が実際に従ってみると、親達が居る所までたどり着いたのは確かだ。殿下はやがて姿形は見えないが、イマジナリーティーチャーとしての設定は固まり、灯枇の心に常駐するようになった。しかしおじさんの殿下だけでは心許ないという理由で、灯枇がどこかへ日帰り旅行した際に、突如水晶と名乗る女子高校生のお姉さんが、まぶたの裏にアニメ風の見た目で現れて着いてきた。水晶は優しいお姉さんで、あれこれ言い過ぎる殿下をたしなめたり、千々に乱れる灯枇の心を、少し落ち着ける事も出来た。
二人の話に毒されたのか、灯枇も単なる観察として、ひょっとこ案山子の様子を伺うようになった。それで気付いて不安になったのだが、当然勘違いや気のせいも否定できない。というのも、灯枇が学校から帰る前に見た、机に入れてあるリコーダーの向きが、朝見たら変わっていただけだからだ。
リコーダーと言えば、非常に今更な話だが、灯枇が昔片想いしていた3人の中の1人と、ちょっとした思い出があった。
その彼は、灯枇が柾谷に指摘されたのとは全く別の不思議男子だった。彼はクラス教室の自分の席で、よく消しゴムや紙製の手作り超小型ロケットか何かを持って、喋っていた効果音から察するに、宇宙空間での戦闘か何かを想定した1人ごっこ遊びに夢中になっていた。他にはカードダスゲームのムシキングにハマっているようだったが、何より彼は灯枇の初恋相手と同じく、物知りで頭が良かった。別の不思議男子の彼に関しても、灯枇はうっかり喋ってしまい、妃鞠と雲母はニヤニヤしながらやはり彼本人とクラスメイト達の前でアウティングした。だから灯枇は必死で否定しているうちに、その彼が好きでは無くなった。
それはさておき、別の不思議男子の彼との、リコーダーに関する思い出とは至極単純な話で、単に授業中、音楽会の練習か何かをしていて、音楽の先生があまりに急かすものだから、たまたま近くに居た灯枇と別の不思議男子の彼は、うっかりお互いのリコーダーを取り違えて吹いてしまい、それに後から気が付いて、ハハハ、うっかりしてたね~。と、笑いながら、正しいリコーダーを返却し合っただけだ。ちなみにヒヲス小学校の音楽室では、所有者不明のリコーダー数本が、忘れた時の貸出用として存在していたので、皆リコーダーを忘れないよう必死だった。だからまあたぶんその時点では、灯枇は、別の不思議男子の彼から、少なくとも嫌われてはいなかったのだろう。
やがて別の不思議男子の彼もまた、どこぞへ転校して行った。灯枇の真の友である新澤 涼しかり、真の漢前である松長 蓮しかり、灯枇が好きになった人物は、転校して行く運命なんだろうか? どうせならもっと嫌な奴らを転校させてくれれば良いものを。まあ小学校ではその後特に何も無く、灯枇は無事、魑魅魍魎集まるマンモス校の、若草市立ヒヲス中学校へと進学させられた。
「ねぇ。血の繋がってない人間は、全部他人だよね?」
「え? まあ…そうなんじゃないの」
灯枇はただ、ひょっとこ案山子の突然の質問に回答しただけだ。こんなのは雑談の一種に過ぎない筈だが、ひょっとこ案山子の頭は早咲きの中二病か何かでおかしな選民思想にでも冒されていたのか、単純な辞書的意味合いで同意しただけの灯枇が、その後少し違和感を覚えた程度に、それからの彼の挙動は、どこか怪しかった。
だがひょっとこ案山子のどこがどう怪しいのか、具体的に説明するのは難しい。灯枇の意識し過ぎと言えなくも無いからだ。ただ何となく、廊下を歩いていたりすると、向こうから歩いて来たひょっとこ案山子は、そのまま妙に近づいてくるような、そんな感じの事が度重なって、実は灯枇の心の中にずっと居た、イマジナリーティーチャーの殿下と水晶が、ひょっとこ案山子は灯枇が好きなのだと囁いて来て、灯枇はその度にあり得ないと否定する。
通常はイマジナリーフレンドと称するそうだが、灯枇の殿下と水晶の場合は、友達というより指導者兼保護者であった。何かしようとする度に、ビビってしまって足がすくんで何も出来なくなる灯枇を心の中で激励し、こうすれば良い。ああすれば良いのだと教えてくれる。
しかし殿下のアドバイス通りに出来た試しはほとんど無く、殿下はそれくらいで灯枇を見限ったりする事は絶対に無いが、殿下が理想とするような、少々陽気なキャラ設定を、灯枇がそのまま現実世界で演じるのは至難の業だった。殿下は灯枇のイマジナリーティーチャーの中では一番の古株で、最初に出現したのは、保育園児の灯枇が親達とはぐれ、動植物園で迷子になった時だった。
「こっちやこっち~」
その時は単なる謎の心の声だが、灯枇が実際に従ってみると、親達が居る所までたどり着いたのは確かだ。殿下はやがて姿形は見えないが、イマジナリーティーチャーとしての設定は固まり、灯枇の心に常駐するようになった。しかしおじさんの殿下だけでは心許ないという理由で、灯枇がどこかへ日帰り旅行した際に、突如水晶と名乗る女子高校生のお姉さんが、まぶたの裏にアニメ風の見た目で現れて着いてきた。水晶は優しいお姉さんで、あれこれ言い過ぎる殿下をたしなめたり、千々に乱れる灯枇の心を、少し落ち着ける事も出来た。
二人の話に毒されたのか、灯枇も単なる観察として、ひょっとこ案山子の様子を伺うようになった。それで気付いて不安になったのだが、当然勘違いや気のせいも否定できない。というのも、灯枇が学校から帰る前に見た、机に入れてあるリコーダーの向きが、朝見たら変わっていただけだからだ。
リコーダーと言えば、非常に今更な話だが、灯枇が昔片想いしていた3人の中の1人と、ちょっとした思い出があった。
その彼は、灯枇が柾谷に指摘されたのとは全く別の不思議男子だった。彼はクラス教室の自分の席で、よく消しゴムや紙製の手作り超小型ロケットか何かを持って、喋っていた効果音から察するに、宇宙空間での戦闘か何かを想定した1人ごっこ遊びに夢中になっていた。他にはカードダスゲームのムシキングにハマっているようだったが、何より彼は灯枇の初恋相手と同じく、物知りで頭が良かった。別の不思議男子の彼に関しても、灯枇はうっかり喋ってしまい、妃鞠と雲母はニヤニヤしながらやはり彼本人とクラスメイト達の前でアウティングした。だから灯枇は必死で否定しているうちに、その彼が好きでは無くなった。
それはさておき、別の不思議男子の彼との、リコーダーに関する思い出とは至極単純な話で、単に授業中、音楽会の練習か何かをしていて、音楽の先生があまりに急かすものだから、たまたま近くに居た灯枇と別の不思議男子の彼は、うっかりお互いのリコーダーを取り違えて吹いてしまい、それに後から気が付いて、ハハハ、うっかりしてたね~。と、笑いながら、正しいリコーダーを返却し合っただけだ。ちなみにヒヲス小学校の音楽室では、所有者不明のリコーダー数本が、忘れた時の貸出用として存在していたので、皆リコーダーを忘れないよう必死だった。だからまあたぶんその時点では、灯枇は、別の不思議男子の彼から、少なくとも嫌われてはいなかったのだろう。
やがて別の不思議男子の彼もまた、どこぞへ転校して行った。灯枇の真の友である新澤 涼しかり、真の漢前である松長 蓮しかり、灯枇が好きになった人物は、転校して行く運命なんだろうか? どうせならもっと嫌な奴らを転校させてくれれば良いものを。まあ小学校ではその後特に何も無く、灯枇は無事、魑魅魍魎集まるマンモス校の、若草市立ヒヲス中学校へと進学させられた。
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