タイマヲマイタ 【高校生時代】

タイマヲマイタ

　高校の視聴覚教室という部屋は、例えるならどこぞの大学辺りでよく見かけるような構造だった。
造り付けの横長机が段々畑の如く並び、その各座席は後ろの長机に備え付けられた一枚板の折りたたみ椅子で、しかし座ると縦横共に、何だか妙に狭かった。
視聴覚教室の名の通り、当然ながら映写機やらスクリーンやらが備え付けてあって、灯枇あけびの学年は、ある時何故かONEPIECE映画の一部始終を見せられて、感想を書かされた事もあった。

　そしてその日は、違法薬物についての講習会が行われていた。無論ダメ絶対には違いないのだが、灯枇あけびはその中で、非常に興味を惹かれる内容があった。

　それは、とある山中で押収されたという栽培大麻についての話だった。捜査の結果、何とその犯人は高校生だったのだという。高校生は、その辺の森や林なら見つかるまいとして、実際通報されるまでの間に大麻はある程度育っていた。結局売る前に発見されて捕まった訳であるが、警察の見立てでは、その量の大麻であれば時価一千万は下らないだろうとの話だった。

　灯枇あけびが聞いた時点で数年前の話であるが、その高校生は当時、一体どのようにして大麻を手にし、何を考えてそれを蒔いたのだろうか。そこには確実に反社会的勢力の介在があったはずで、高校生は使い捨ての駒に過ぎす、逮捕という結果からして明らかに、その後の将来に暗い影を落としたに違いない。ひょっとすると高校を退学処分になった可能性もあるのではないか。大体その辺の山にだって土地所有者が居て、定期的に草刈りやらで結構管理しているものだ。ハイリスク極まりない。


ただ、そんな夢物語あり得ないとしても、同じく高校生である灯枇あけびも、ついふと考えてしまった。
もしそれだけの大金が手に入れば、何ができるだろうか？　果たして進路は自由になるだろうか？


だからもし、弟の森次しんじが小学生時代に女の子と間違えられて不審者から声を掛けられた様に、仮に儲け話を持ち掛けられて魔が差してしまえば、ひょっとするとタイマヲマイタのは灯枇あけびだったかも知れない。