精霊殺しの学園生活

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第2章 調査

麒麟2

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 ”いい加減にしろ、若造!”

 そう叫んだ麒麟から雷が放たれる。

 「ちっ!」

 アリスは身体に黒い霧を纏っていたこともあり、麒麟の攻撃を直接受けることはなかった。

 「きゃあっ!」

 しかし、アレクシアは違ったようだ。アレクシアは麒麟の攻撃に直撃してしまい、その場に立つことすらままならなくなった。
 このままではまずいと判断したアレクシアは〈幻影を纏う槍斧ハルバード〉を地面に突き刺して魔法を唱える。

 「”ウォーターウォール”!」

 アレクシアが唱えると、アレクシアの周りに水の壁が現れ、アレクシアを守るように包み込んだ。

 「”グランドウェーブ”!」

 シェリルもアレクシアの状態に気づき、自身も魔法を使ってアレクシアを守る。

 「大丈夫ですか!?」

 「……ええ、なんとか大丈夫よ」

 アレクシアはそう言うが、アレクシアの額には汗が浮かんでいる。麒麟の攻撃をまともに受けたのだ。未だに意識を保っているだけでもつらいはずだ。

 「シェリル! アレクシアの回復を優先しろ! その間、俺があいつを引きつける!」

 「わかりました!」

 アリスもアレクシアの状態が悪いと判断したのかシェリルに回復を優先させる。そして、そのまま麒麟の相手を引き受けた。

 (ちっ! この状況はまずいな……)

 アリスにはすでに余裕がなくなっていた。今までアリアの口調で話していたが、普段の口調に戻るくらいにアリスは追い詰められていた。

 それは麒麟も同様であったのだろう。麒麟も全身に雷を纏い、アリスを迎え撃つ準備をしていた。
 アリスも両手に握る精霊武装に魔力を流し、遠くから麒麟に向けて魔法を放つ。しかし、遠くからでは麒麟に決定打を与えることができずにいた。それは麒麟も同じで、素早く森の中を動き回るアリスを捕らえることができなかった。状況は均衡を保っていたが、その均衡も崩れ去ろうとしていた。

 (このままではまずいな……)

 さすがのアリスも自身の魔力量に限界を感じ始めていた。いくらサウス内でも桁外れに魔力を持つアリスでも、無限ともいえる魔力を持つ麒麟には勝てる通りはない。今でこそ均衡が保たれているが、このままではアリスの敗北は免れないだろう。

 (やるしかないか……)

 アリスも自身の限界を感じ取り始めていた。アリスは覚悟を決め、賭けに出る。

 「”シャドウ”!」

 アリスは麒麟に駆けながら、闇属性魔法”シャドウ”を行使する。すると、アリスからアリスそっくりの分身が現れ、そのまま麒麟に向かって行く。
 しかし、それを黙って見ている麒麟ではない。麒麟はすぐさま雷の槍を自身の周りに展開し、その槍をアリスとアリスの分身に打ち込んでいく。アリスを打ち抜く槍の精度はすさまじく、一人一人、アリスの分身を貫いていく。

 ついに麒麟が最後の分身であろうアリスを打ち抜く。今、この場にいるのはアリス一人となった。麒麟は先ほどよりも多くの槍を出現させ、アリスを打ち抜こうとした。
 アリスは必死に躱すが、槍の数が多すぎて、ついにその槍に胸を打ち抜かれると同時に口から血を吐く。

 「「アリス!」」

 目の前でアリスが殺されるのを見てアレクシアたちは思わず声を上げてしまう。麒麟も勝ちを確信して雷を解除した。
 しかし、麒麟が雷を解除した瞬間、雷の槍に貫かれたアリスは笑みをこぼす。同時にアリスは雷の槍だけを残し、その場から消え去った。

 「「えっ?」」

 ”何っ!?”

 目の前からアリスが消え去ったことにアレクシアたちだけではなく、麒麟も戸惑う。槍に貫かれたアリスが消えたと同時に、麒麟の背後から本物のアリスが飛び出した。

 アリスが行った賭けとは自分の分身を囮にして麒麟の不意を突くことだった。さすがの麒麟もアリスがやられる瞬間を見れば警戒心を緩めると思い、分身を使ってやられる状況を作ったが、どうやらアリスの賭けは勝ったようだ。クロノスの吸収の能力を使い、完全に気配を消し去ったアリスは麒麟の背後を取ることができた。

 一瞬の隙を突くことができたアリスは麒麟を守っている鱗を〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉で切りつける。アリスの攻撃でついに麒麟の鱗が剥がされた。
 麒麟もアリスの攻撃に気づいて、すぐさま雷を張り直す。

 「くっ!」

 アリスはすぐさま麒麟から離れるが、麒麟の雷を右手にくらってしまい〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉を手放してしまう。しかし、アリスは自分の右手のことは考えずに、左手に握る〈光を滅する王剣クラウ・ソラス〉に全魔力を流す。

 「終わりだ! ”グロリアス・レイ”!」

 魔力を込めた〈光を滅する王剣クラウ・ソラス〉を麒麟めがけて全力で振るう。〈光を滅する王剣クラウ・ソラス〉から高熱量の光が放たれた。

 ”ぐっ、ぐおおおーーー!”

 アリスが全力で放った”グロリアス・レイ”は麒麟を飲み込んだ。攻撃を受けた麒麟の叫びが森に響く。

 「……ぐっ!」

 「「アリス!」」

 全力を使い果たしたアリスはその場に立つことすらままならず、片膝を地面に着ける。アリスの容態を心配したアレクシアたちは両脇からアリスを支える。

 「……倒したの?」

 「さあな。でもこれで倒れてくれないとこっちがやばい」

 アリスは額に汗を浮かべながら答える。
 
 アリスの目からは闘志が失われていないが、満身創痍の状態である。今のアリスでは魔法を放つことができないだろう。しかし、麒麟もアリスが放つことができる最高火力である”グロリアス・レイ”を全力で放ったのだ。いくら麒麟であっても致命傷は免れないだろう。

 ”ぐ、ぐおぉ……”

 「「「……っ!」」」

 麒麟のうめき声にアリスたちは凍り付く。麒麟はアリスの”グロリアス・レイ”を受けてもなお、動けるようだった。

 今の状況はアリスたちにとって非常にまずかった。アリスは魔力を使い果たし、アレクシアは麒麟の攻撃を受けて負傷している。残るシェリルは無傷であったが、シェリルは後衛であり戦闘向きではない。アリスたちを守りながら麒麟と戦うのは無謀であった。

 ゆっくりとこちらに歩いてくる麒麟の前に、背後のアレクシアたちを守るように立ち上がる。

 「アリス!?」

 アレクシアが心配するように叫ぶが、アリスの耳には入ってこなかった。

 (……後一発ぐらいいけるか?)

 (駄目だよアリス! そんなことをしたらアリスが死んじゃうよ!)

 (……! 駄目、アリス!)

 クロノスとメーティスがアリスを必死に止めるが、アリスは〈光を滅する王剣クラウ・ソラス〉に魔力を流す準備をする。

 一応、魔力を使い切っても魔法を使うことはできる。しかし、その場合は魔力ではなく自身の生命力を使うことになる。魔力がない状態で魔法を使うのは諸刃の剣であるのだ。

 今もゆっくりと歩いてくる麒麟に対して、アリスはいつでも魔法を放てる準備をする。射程圏内に入ったところで魔法を放とうとするアリスに対して、麒麟は言葉を発した。

 ”……汝ら。何をしにここに来た”

 「「「は?」」」
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