精霊殺しの学園生活

はる

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第1章 始まり

その裏で

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 魔法大会二日目が終わったとき、王アルベルトと”エルフリーデ”の五人が集まっていた。しかし、アルベルトたちの表情は殺伐としたものであった。

 「……についてはどうなった?」

 「イーストの王が情報を持っていると聞いた。それでどうする、アルベルト?」

 「うむ……」

 アルベルトは神妙な面持ちで考え込む。

 「……とりあえず、誰かイーストに行ってもらわねばならないな……ガイア、シェリル、お前たちが行け」

 「「はっ!」」

 「しかし、陛下。イーストに行くなら”不死鳥”だけでいいのでは?」

 「それもそうなのだがな、向こうも色々あるらしい。こちらの助けを必要としているのだ」

 「それでは、私が行けばいいのでは?」

 「それこそ駄目だ、アリス。お前はリーゼロッテの護衛であり、サウスの要でもあるのだ。さすがにお前とガイアの二人を出すわけには行かない。エルシア一人で対処できないこともあるかもしれないしな」

 「えっ、私は?」

 「黙っていなさい、アレクシア」

 この場の雰囲気には似つかない、なんとも緊張感のないアレクシアの声にエルシアが制止をかける。

 「とにかく、ガイアとシェリルは明日、イーストに行け。その他の三人はここに残れ」

 「「「「「はっ!」」」」」





 そして、魔法大会三日目の現在に至る――

 「ねえ、ってどういうことなの?」

 アリスが昨日から抱いていた疑問をアレクシアたちに尋ねる。

 「……さあ?」

 「アレクシアが知ってるわけがないでしょ」

 「ええっ!?」

 エルシアの否定にアレクシアは不満の声を上げるが、エルシアはそんなアレクシアを無視して話を続ける。

 「っていうのはね、あなたは学園に行っていてあまり知らないかもしれないけど今、エデンで不審な動きを見せている奴らがいるのよ」

 「不審な奴ら?」

 アリスは首を傾ける。

 「そうよ。実際、陛下があなたにリーゼロッテ嬢の護衛に付けたのは、そのためでもあるのだから」
 
 「えっ、そうなの?」

 アリスはエルシアの言葉に驚いた。てっきり、いつものアルベルトの親バカのせいでリーゼロッテの護衛に付けられていたと思っていたが、実際は意外と深刻な問題であったようだ。

 「まあ、今は陛下が情報を集めているけど……なかなか集まらないらしいわ」

 エルシアの表情から、かなり深刻な状態だと言うことが読み取れる。

 「それよりも、私たちはサウスを守ることが優先よ。さすがに何もないと思うけど……」

 「大丈夫よ。それにそろそろ決闘が始まるわ」

 決闘場を見るとちょうど、リーゼロッテとリンが決闘を始める寸前だった。

 「決闘開始!」

 審判の宣言と同時にリーゼロッテたちは魔法を唱えていた。

 「流石ね。二人とも、安定して精霊武装を展開しているわ」

 「当然よ! だってリンは私の妹なんだから!」

 「はいはい、わかったわかった」

 自分の妹を褒められて騒ぐアレクシアをエルシアは軽く受け流す。このやり取りも見慣れたものである。

 「アレクシアも静かにしな――」

 アリスが言いかけたその時――

 ドカァァーーーーン!

 「な、何!?」

 突如、会場から爆音が響いた。急いで視線を向けると、そこには巨大な竜がいた。

 「「「なっ!?」」」

 アリスたちは思わず目を疑った。何故なら、そこにいた竜とは――

 「ファフニール!?」

 アレクシアが竜を見て叫ぶ。

 ファフニール――それは、エデンが戦争中であった時だ。戦争が均衡した頃、人類がこの状況を打破するためにとった行動が精霊の改造である。人類は精霊を無差別に捕らえ、自分たちに有利なように改造を施した。そして誕生したのが人工精霊である。人工精霊は元となった精霊よりもはるかに強力な力を持って――いや、元の精霊とはかけ離れた存在となり、戦争で猛威を振るった。その時の一体が厄災の竜と呼ばれたファフニールである。

 「どうしてこんなところに!?」

 エルシアもファフニールを見て動揺している。それもそうだろう。本来、ファフニールなどここにいるはずではない存在――

 アリスは急ぎながらも冷静になり、エルシアたちに告げる。

 「アレクシア、エルシア! 会場の生徒の避難を優先して! 私は――」

 アリスは会場にいるファフニールに視線を向ける。

 「――アイツファフニールを倒す」
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