【完結】好きでごめんなさい

好きでごめんなさい⑧

　◇◇◇

　家庭教師のアルバイトだが、今日、教え子から告白されるというアクシデントが起きてしまった。
　そのせいで、現場を目撃した母親から「もう来ないでほしい」と言われ、突然収入源がひとつ失われてしまった。

　課題を終えたコウヤは、家計簿を取り出し、今後の給料や生活費を電卓で計算して書き込んだ。
　今週中には二期分の学費を納入しなければならない。計算を終え、胸に手を当ててふうと安堵する。
　どうにか、来年の授業料は払えそうだった。

　しかし、節約生活は終わらないのだと肩を落とす。
　二期分の貯蓄が貯まれば、久しぶりにお菓子作りをしようと考えていたのに――と、がっくりとうなだれた。
　これからも、一日の食費は300円以内に抑えなければならない。

　大国が用意してくれる食費を、少しでも自分の食事の足しにできたらな、と考え、ぶんぶんと頭を振る。
　いや、しっかり別にしなければ。

　大国の金で購入したもので、使わせてもらっているのは野菜の皮など、捨てて当然のものだけだ。
　基本的には、大国とコウヤの食費は完全に別で計算している。
　ウソをつかず、常に正直でいたいコウヤの性格もあるが、少しでも大国の金で買ったものを知られたら、別れを切り出されるのではないかと心配している面もある。

　大国は、食費として毎月机に数万円を置いている。
　しかし、その中にコウヤの食費は含まれていない。
　初めて封筒に食費を入れてもらったとき、「一緒に食事をしてもいいか」と確認したところ、「別に決まっているだろ」と機嫌を損ねたのだ。
　以来、一度も大国の金で食事をしたことはない。結婚してから一緒に食事をしたのは今日が初めてだが、今回食べた分は後で封筒に入れて返すつもりだった。
　毎月末には、レシートとともに残高とメモを添えて、大国に返している。

「家賃とか電気代が浮いてるだけでもありがたいんだから……」

　借金の多い両親と離れて生活したいと思ったコウヤだが、一人暮らしでは出費がかさみ、学費を捻出するのも容易ではなかった。
　結婚して一緒に住むことになるとは知らなかったが、おかげで、出費は食費と交通費だけで済む環境にある。

　時刻を見ると、もう夜の十時を過ぎていた。


　◇◇◇