マフィアの俺、転生先は“高校生”で心の声が全部聞こえる世界でした。

春森

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元マフィア、カオス家族すぎて心が休まらない。

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マフィアに拾われて育った俺は、人を殺すことしかできない。
生きる目的も、プライドも、信頼できる仲間もいなかった。

「死ね!」

(何だったんだろうな。俺の人生って。“普通の生活”ってやつ、味わってみたかった)

パァン!

頭に弾が命中した。
警備隊にハチの巣にされて、人生は終わったんだ。

***

「……これはどういう状況だ?」

警備隊の容赦ない銃撃で死んだはずの俺は、
なぜか仁王立ちのまま白ヒゲのじいさんと向かい合っていた。

「それがのう。お前さんの転生先、のっとられちまってのう」
「は?」

「そんで、お前さんには悪いんじゃが、次の転生先が見つかるまで待ってほしいんじゃ」

このじいさん……神様ってやつなのか。

「のっとったって誰が? 俺の転生先ってどんなとこだったんだ?」
「うむ。本来、お前さんはとある国の王子の赤んぼに転生する予定じゃった。
じゃが、とある高校生が魔法陣を使って魂を飛ばしてしもうてのう。
結果、お前さんの転生先をのっとられたわけじゃ」

つまり、俺の転生先は、その高校生になったということだった。

「……チェンジで」
「チェンジ不可じゃ。特別に“相手の心が読める”オプションもつけとくから、まぁがんばれ」

「そんなオプションいらんて」
「結構フクザツなご家庭みたいじゃから、ファイトじゃぞー」
「いや待って承諾してない」

「それではゆくぞよ。ひらけぇ、ゴマァ!」

爺さんがまじないを唱えた瞬間、目の前が明るくて、目が開けられなくなった。


***


―――ハッ!

起きたら白い壁と、謎の魔法陣が書かれた用紙が見えた。魔法陣は部屋のいたるところに落ちていて、
勉強机かと思われる場所にはメモがあった。

"イケメン、いのしし、アゴヒゲを豚箱に入れておいてくれ"

「イケメン、いのしし、アゴヒゲ?」

豚箱に入れておいてくれって…どういうことだよ?
鏡を見ると、目の下に濃いクマをつくった、げっそりとした細い男が立っていた。

「…ッ」

骸骨か幽霊かと思ったが、それは自分の姿だった。

「くずちゃぁーん!おはよー!朝ごはんできてるわよ~」

くず…?まさか俺の名前か?

「マリンちゃん~お母さん両手離せないから、お兄ちゃん起こしに行ってくれる~?」

「はぁーい!」

トタトタトタっと軽快な足音が聞こえてきた。
ドアがパーンと開かれる。

「あーっお兄、起きてたの?ガッコ行く用意しよっ!手伝ったげる!」

部屋にはツインテールの女の子がやってきた。この体の妹とは思えない可愛らしい容姿だ。

(えーっと、今日の時間割は~?あ、体育ある日だね。体操服も入れとかなきゃ)

女の子の口は閉じていたにも関わらず、頭の中に彼女の声が流れてきた。

(心の声が聞こえるようにって…じいさん言ってたな。別にこんなオプション能力いらないんだけど)

「お兄、今日の授業で使う教科書とハンカチ、カバンに入れといたよ!合ってるか見ておいて!」

なんか慣れてる…。見た所まだ小学生だよな?
こんな小さい子が慣れるまで毎朝支度を 手伝わせてた のか?この兄貴は。情けないやつだな。

「もーお兄、なにぼーっとしてるの?そこに制服あるの、見えてるよね?着ないつもり?お母さんがしっかりアイロンかけてくれたんだから!着替えて着替えて!えっ、なんでパンツ履き替えないの?ばっちいなぁもう!タンスに入ってるのに~」

パンツと靴下、あと下着を渡してきた。
おお、かなりできる妹だ。助かる。

言われるがままに仕度をしたら、あっというまにそれらしい服装の高校生が出来上がった。妹はボサボサ頭の兄貴に櫛をとおし、ひとまず清潔な兄貴を完成させた。

「行こ!お兄!」

渡された学校カバンを背負って妹と階段を下りた。

こんなにできた妹なら、母親もまともなやつだろうな。

(ふ、ふふ……)

笑い声?

食卓に行くと、丸い髪型をしたショートスタイルの女がコーヒーの準備をしているのが見えた。

(この毒をあの人の飲むコーヒーに入れれば殺せる…ッふーっふーっ。18年も失敗し続けてきたけど、今日こそ任務を遂行するわっ)

…は?

(私は殺し屋ナンバーファイブ。これくらいで怖気づいてどうするの?まぁこの18年間は様子を見ててやったのよ!今日こそタカシさんを殺す!)

いや、まって知りたくなかったかも、その情報。っていうか殺し屋かよ俺の母親。
タカシって誰。

「かおり、コーヒーはできたかい?」
「あ、ええ、もうすぐよ。タカシさん。待っててちょうだい」
「お父さん、今日もお兄の仕度お手伝いしてあげたよ」
「うんうん、偉いなぁうちのマリンは!」

タカシって夫かよ!

(この毒をあの人のコーヒーに入れればイチコロよ…)

この女、夫を殺そうとしてるのか?やばすぎるだろ。

(おいおいおい、まてまてまて…本気かよ?ていうか殺しのターゲットとなに子どもこさえてんだよアンタほんとに殺し屋か?)

(やっぱ無理ぃぃタカシさんを殺すなんてぜったいむり!大好きすぎるぅぅぅ。くぎゅうう)

「……は?」

思わずあきれた声が出てしまった。
なんだか知らんが、毒殺事件には巻き込まれなくてすみそうだ。

「おはよう久豆。朝ごはんできてるぞ」

おお、父親すごい美形じゃん。
母親の顔は……こっちも美人だな。なんで俺のこの体、幽霊みたいなげっそり顔なんだ。遺伝子違うんじゃないか。

まさか朝食に毒が?食べない方がいいか…。


ぐきゅるうるるる。

うまそうだし、食べるか。

パクリ。うま。卵焼きも、パンも、ソーセージも最高だ。コンソメスープもうますぎ。

「あら?今日はよく食べるのね。いつも一口しか食べてくれないのに」
「うん。美味しいから」

「お、美味しいから…ですって?!」


ガクンっ!と母親が膝から崩れ落ちた。

「ど、どうした…?か、母さん」
「母さん!」

なんだ?呼び方間違った?ママ、って呼んだ方が良かったのか?

「う、嬉しい…今までずっとババァって私のこと呼んでたのに…っ」

この体の持ち主、本物のクズだったんだな。

「良かったね、根気よく育てたかいがあったというものだよ」
「そうねタカシさんっ」


(かおりのやつ、完全に油断している…今なら、俺のこの手刃で簡単にかおりの首を落とせる…!)

アンタもかよ?!

(ああだめ、やっぱだめ、俺のヨメ可愛いすぎ無理。殺すのはまたあしたにする~!)

どうやら父も頭がお花畑のようだ。

「なかなかうまいパンケーキじゃないか。腕をあげたのか?」
「ま、まぁねっ、誰かさんが口うるさいから!」

「ま、そうだな…5万円くらいの価値はある、かな?」

(だめ~ダーリン大しゅき~!)

「んもう!やだぁっもう!もう!そんなこと言って!お世辞言っても何もでないんだから~」
「かおりからはマイナスイオンが出てるよ~」

ひしっと抱き合う両親。

一生やってろ。げぷっ、ごちそうさま。
食事は悪くなかった。毒も入ってない。これなら、普通の生活っていうのが味わえるかもしれない。
なかなか悪くない転生先じゃないか。なんでこんなに良い人生を棒に振って、俺の転生先を横取りしたんだ?このカラダの持ち主は。ばかなやつだ。

スタスタと外に出ると、一人の青年が待っていた。

「やぁおはよう。久豆君」
「!」

誰だ?俺の友達か?

(わ~今日もひょろっこい~一発殴ったらすぐ倒れちゃいそう。そんなことしたら久豆君のお母さんにぼっこぼこにされるだろうからやめとくけど。あいさつもできないのか?はー。めんどくさ。久豆ママからお願いされたから仕方なく付き合ってやるけどさー)

「……」
「学校、いこっか。久豆くん」

学校までの案内役として使えばいいか。
害をなすわけではなさそうだし。

(はぁだるいなぁ。どうして僕がこんなもやしっ子の登下校の面倒まで見なきゃいけないんだよー。ちょべりば~)

古い言葉使うなコイツ。

(この子が超超美少年とかだったらまだしもさー)
ん?
(こーんな芋で目の下クマだらけのげっそりくんじゃおかずにもなんないし)

待て待て待て、こいつ・・・ゲイか?!

(ガリガリだからセクハラしても楽しくなさそうだし。あーあ、どっかちんこびんびんにしてくれる男の子現れないかなぁ)

これ以上聞きたくないぞ………。
ん?聞こえなくなった。この能力は感情のシャットアウトができたのか。
よかった。

「今日はいい天気だねーもやし…けほ、久豆くん」

そうだな。チンコびんびん男くん。
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