マフィアの俺、転生先は“高校生”で心の声が全部聞こえる世界でした。

春森

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転生したら“クズのうんこ席”だった件について。

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びんびん君は一学年上のお兄さんだった。

「君のクラスついたね。じゃあ僕はコッチだから」

クラスまで案内してくれるとか、いいやつじゃないか。びんびん君だけど。
手ぐらいはふってやるよ。

「うん、またね」
「?!」

なに驚いた顔してるんだ? 返事の仕方がまずかったか? 手を振るのは子どもっぽかったか?

「…なに?」
「えっ?! い、いや…なんか雰囲気変わったね?」
「そうかな」

親といい、こいつといい……反応がいまいちだ。普通ってこういう返しするもんじゃないのかよ? 俺が思う“普通”ってのがおかしいのか?

「…なんかやばい薬でも飲んだ?」
「飲んでないよ」

まどろっこしい。とっとと自分のクラスに行ってくれ、びんびん君。

「そ、そう……じゃ」

さて、初めての学校だ。前世でも行ったことがなかったから、実はワクワクしてたんだよな。イタリアで日系のおっさんに日本語習っといてよかった~。

さて、俺の席はどこだ?
入った途端、ザワザワとしていた音が瞬時にやんだ。

一席だけ、花が生けてある。
死んだやつでもいるのか?

近づいてみたら、机に「クズのうんこ席」と書かれていた。

ああ、俺はクラスでいじめられてたのか。だから人生に嫌気がさして、ヘンテコな魔術を書いて俺の転生先を奪ったんだな。

席が分かったから助かったけど。

ガタンと椅子を引いてそこに座った。

……花瓶、邪魔だな。

花瓶を後ろのメダカを飼育している棚に置いてから、自分の席に座った。

みんながこっちを見ている。
なんだよ? 花瓶なんて邪魔だろ。

次は「クズのうんこ席」が目に入る。ノートを取るたびこれが目に入るのはなんかイヤだ。

臭くない雑巾を教室から探し出し、からぶきで拭いてみる。結構消えたのでキュッキュッと何度か机をこすってみた。

完璧には消えなかったが、かろうじて文字が認識できないくらいにはできた。

「これでよし」

周りを見ると、まだこちらを見ていた。
何かを恐れているようだ。

「山田くん…どうしてメガネ君の席を綺麗にしてあげたの……?」
「え?」

その時、ガラッと一人の高校生がやってきた。
彼はスタスタ歩いて久豆のところまでやってきた。

「そこ僕の席なんだけど」

あっ、やらかしたー! お前がクズのうんこ君だったのかよ! 俺のことだと思っちまったじゃねーか! まぎらわしいぞメガネ君!

「あ、ああゴメン。どくよ」

なら俺の席はどこなんだ?

「山田くん、そっちでしょ」

メガネ君が隣の席を指さしてくれた。助かった。

「そうだった。うっかりしてたよ」

はぁ。はずいな。

「ここの花瓶とか、机のラクガキ片づけてくれてありがと」

えっ。

「あ、ああ。なんか、邪魔だったし」

俺の席だと思ったから、とは言えない。

だからみんな俺のこと見てたのか。言ってくれよ。もう変なことしないように感情読み取り能力ONにしとこ。

(大丈夫かなぁ、山田くん、殺されるんじゃない?)

なんだよ、この心の声。あの女子からか。

(ねー。明日もしかしたら標的、山田君になっちゃうかも。あんま話しかけないようにしとこ)

なんなんだ? この学校は。
気分が悪い。
心の声は臨機応変にONとOFFを切り替えて使っていくとするか。


***

授業は見事になにもわからなかった。1時限目は数学の授業だった。

「山田、お前、頭だけは良かったのに…本当にこの問題、わからないのか?」

わかんねーよ。可哀想な子を見るような目はやめろ。ていうか座らせろ。こうやって黒板の前に立たされても何も書けないんだからな、俺は。くそ、わかったよ、答えを書けばいいんだな? アンタの頭ん中、のぞくぞ。お前のせいだからな。

(俺のサボテン元気かな。おかしいな。こいつ、いつも言動も見た目も変だけど、こういう問題だけは解けるやつなのに。はぁ…帰って俺のサボテン眺めたい。お前は賢い奴なんだぞってクラス全員に知らしめる時間なんだぞ? なのに…俺のサボテン干からびてないかな。答えは4なんだけどな)

サボテンに心持っていかれすぎだろ。まぁいい、「4」だな。

カカッと黒板に4を書くと、男性教諭は大いに喜んだ。

「そーそー! やっぱりわかったか! はっは!」

小学校もまともに通ったことないやつに解かせようとするな。サボテン頭め。

「おっ、チャイムだ。サボテン…じゃなかった、今日のところはちゃんと復習しておくように」

――ブォォォォン!!

なんだ? バイク音か?

生徒たちがいっせいに窓から外を見ると、校舎内にバイクを乗り回して生徒が見えた。
俺が持ってる体操服と違うから、他校だろう。
いや体操服でバイク乗って校舎走り回るなよ。どんだけ馬鹿なんだ。

「何をしてるんだね!」

初老を迎えた男が、恐れもせず注意をした。ここの教員の一人みたいだ。

「センコーか? 山田久豆を出せ」

俺目当てかよ。めんどくさいぞ。しゃがんで隠れておこう。

…ん?池面?
胸元に“池面”って書いてある!
まさか、机のメモにあった “イケメン、いのしし、アゴヒゲ” のイケメンか?!

その時、池面のゼッケン男が教員のネクタイをひっぱった。

「山田久豆を呼んで来いって言ってんだろうがよぉ! アァ?!」

おいおい! 誰か助けに行けよ! なんで誰も行かないんだ!
急いで一階まで降りて、考えるより先に池面に叫んだ。

「山田は俺だ! その手を放せ! おじいさんには優しくしろって学ばなかったのか?!」

「っけ、おせーんだよ。待たせんなっつの……待ちすぎてクラゲになるところだったじゃねーか!どうしてくれんだオオ?!もう手がふにゃふにゃになっちまったぞ?!」

こ、こいつ頭大丈夫か?

「一発殴んねーと気がすまねぇ……!ヤらせろよ!」

池面が目にも止まらぬ速さで腹を殴ってきた。

「ぐ、っふ……!」

くそ、今のパンチ、見えてたのに、ぜんぜん動けなかった。このカラダ、貧弱すぎる!めちゃくちゃ痛ェ……!

「おい君!やめたまえ!」

初老の教師が制止に入ってきた。
いやあんたはいいからほかの教師呼んでくれ、あんたの骨折れたらどうすんだよ!

ギャラリーで、全校生徒が「勝本先生、そいつ殴っちゃえ!」「正当防衛!」「ぼっこぼこにしてやんなー!」などと窓からヤンヤヤンヤしてる。

いやお前らはまずほかの先生呼んでこいよ、あと警察に電話しろ。
仕方ない、俺が……あっ携帯持ってないわ。

「よそ見してんなよな!」
「ぐあ!」

もう一発殴られた。今度は顔に。

殴られて完全に頭にキタ。
死ぬまで殺し合いを続けてきた俺をよくも殴ったな? やられたらやり返されるんだぞ。分かってやってるんだろうな? お望み通り、お前を殴ってやる!

「なに構えてるんだよ! はんっ! お前みたいなヒョロ男に殴られても痛くもかゆくもねーよ。ほら、殴らせてやるよ。このガードをお前なんかに崩せるかな?」

一発俺を殴れたことで気分がよくなったみたいだ。俺に何の恨みがあるっていうんだ。このカラダはコイツとどういう関係だったんだよ?
知ったところで、一発は絶対殴るけど。

池面が両腕で壁をつくって、手のひらをクイクイ動かして挑発してくる。

「後悔すんなよ、池面くん」

人を殴るっていうのは、こうやるんだよ!

ポキャッ

シーン。

変な音が鳴った。俺の腕から。


「ッぐ…ぅッ……いっでぇぇぇぇぇぇ!」

俺の骨が、逝った。痛すぎる痛すぎる、何してんの俺!
池面を殴っただけだぞ?!相手はノーダメージっぽいし!

「山田!」
「山田くん!」

このカラダ、弱いってぇ……。

もう誰かを助けるとかどうでもよくなって、その場に倒れた。
あまりに痛すぎて、意識が朦朧としてきた。

「このッばかもんがぁ! 山田くんになにするんじゃい!」

いや、今のは勝手に俺が攻撃して自分で腕を負傷したから、こいつは何もしてないんだ先生。

窓から首を伸ばしたギャラリーが「勝本せんせーがんばってー」と黄色い声援を送ってくる。
いや、はやく携帯で警察電話しろって。

勝本先生がジャージを脱ぎ、池面をおさえこんだ。勝本のカラダはボディビルダーのごとくムッキムキだった。

まじか。俺、出てくる必要なかったじゃん。
意識が遠のく中、池面の声が頭に響く。すぐに心の声のほうだとわかった。

「コリャ!ワシを噛むな!」

うっすら見えたのは、初老が生徒を抑え込み、口を塞いでいるシーンだった。

「フガッモガッフガァッ、モガァァアアアア!」

(山田! 山田死ぬな! お前に久しぶりに会えて気が立っちまってつい殴っちまったが、俺、恥ずかしかっただけなんだ!告白しに来たんだけなんだ! 山田ァ!)

お前も……ゲイかよ。

ガクッ。

そのあとどうなったのか、俺は覚えていない。


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