マフィアの俺、転生先は“高校生”で心の声が全部聞こえる世界でした。

春森

文字の大きさ
5 / 6

ネコとタチの店で、腹バージンの真相を聞いた日。

しおりを挟む

昨日の映画内容、なぁーんも頭に入ってこなかった。
すばるさんのシーンのたびに、この俳優の腹は唾液でべちょべちょなのだということを思い出してしまい、全く集中できなかった。

「どうした久豆、元気がないな?」

この美形父は息子をよく見てるな。いや、暗殺を生業としてるから、表情観察に長けてるってだけかもしれないけど。

「この店のカフェの無料券をもらったんだ。なかなかうまいコーヒーが飲めるぞ。気分転換に行ってみなさい」

父、良い人だな。
俺はスマートフォンの地図を頼りに即隣町のカフェ、「ネコとタチ」に行ってみた。
店に到着してから、店名に問題があることに気づいた。
店名からしてゲイしか集まらなそうだけど、大丈夫?

カランカラン。
「いらっしゃいませー。おひとり様ですか?」

ウェイトレス可愛い。よかった、女の子だ。マッチョな男性店員が出たらどうしようかと思った。

「はい」
「こちらの席へどうぞ」

木目が多くて、落ち着いた空気のカフェだな。
メニューには軽食と複数のコーヒーの種類。
とりあえずホットサンドとアメリカンコーヒーを選んだ。
むっちゃくちゃうまかった。

(うまぁ、ここのコーヒー)

わかる、うまいよな、ここのコーヒー
ん?この声……。御影すばるじゃないか?! 

斜め向かいに座ってた!
こんなところでなにやってるんだ?

なんだよそのチョビヒゲとうんこ巻みたいな帽子!
ださいにもほどがあるし、正体隠せてないぞ!
周りの人間の声を聞いてみるか。

(すばる変装やばくない?)
(ね、あいかわらず変装へたー )
(歴代の変装の中では一番マシかもだけどね)

……バレてる。
おいおい、周りに気づかれてるぞすばるさん。ていうかこの俳優の変装がヘタなのは周知の事実になってるのか。
しかも今日のはマシな方なのかよ。

(今日の躾…いや、デートなくなったし、暇になっちゃったな。ただのスポンサーのクセに、時間があったらすぐ躾…じゃない、デートに誘ってくるから本当に面倒だ。今からどうしようか。ひまだし、主人公ごっこでもするか)

躾ってなに。いつもなにされてるんだこの人。恋人いたのか。

(俺は俳優、御影すばる。本名佐藤タケル。本名を気に入っていたが、もともといる芸能人と丸被りしてるからという理由で事務所に芸名を御影すばるにされた)

なんかプロローグ始まった。

(劇団アグレッシブンに入団し、子どもの頃から演劇を楽しんできた。これを仕事に出来たらどんなに良いかと思うようになっていた。大学で就職活動をしていた時に転機はやってきた。俺は芸能事務所からスカウトを受けたんだ)

へぇ、そうだったんだ。

(演技で食べていけると聞いて、俺は一も二もなくその仕事に飛びついた)

演技が好きだったんだな。

(そして俺は思い知る。ちょっと演技ができるくらいでは、生き残れない世界だった。
そこで俺は、とびついてしまったんだ。芸能界の裏の仕事、枕営業に)

ああどうしよう、聞きたいような聞きたくないような。
すばるさんじゃなかったら絶対聞きたくないけど…なにをされてしまったんだろう……。

(俺は研修を受け、立派な枕営業マンになった)

枕営業マンってなんだよ。

(マネージャーは言ったんだ…。「【株式会社超安眠】の代表営業マンとして、うちの枕をとあるスポンサーに一万個販売してきてほしい」と。)

そっちの枕営業かよ!
なんだよ心配して損した。
ただ健全に枕の販売営業してただけじゃないか。ややこしい言い回しするなよまったく。

(俺が所属していた芸能事務所は子会社を持っていた。売れない俳優や女優は【株式会社超安眠】の営業部署に回されたんだ。歩合制だったが、なかなか金になった。もう俳優の道いいやって思うくらい)

そんなに稼いだんだ。

(俺は芸能界きっての枕営業ナンバーワンになった)

まじか。

(そして、俳優よりも営業の仕事の方が向いていることに気づいた。俳優では食べていけない。なら、趣味として劇団で演劇を続け、営業一本で生きていこうと。そう決心したころ……あの男と出会ってしまった……)

ゴクリ。あの男?

(飲食店のほか、あらゆる事業を展開している男がいた。大手芸能会社の子息で、芸能界では強い影響力を持っていた。その男が今後寝具や家具販売にも手を出そうとしていると聞きつけた俺の上司が、販売営業に行くように指示をしたんだ。相手は俺よりちょっと年上の男だった。背も高く、顔も良かった。ちょっと悔しくなった。自分と年がそんなに変わらない人間が、大成功を収めている事実に、どうしてか腹が立った。同時に、本当に俺がやりたいことで稼いでいたら、こんな想いはしなかったんじゃないかと思うようになった)

おお。シリアスな展開だな。

(そいつは俺を見て、言ったんだ。"お前のスポンサーになってやってもいい。見返りは、お前の体で"と。こんな金持ちのスポンサーがつけば、月9ドラマも夢じゃないかもしれない。だけど、枕営業なんてやりたくなかった俺はすぐに断った。枕営業しにきたんだけど)

えぇいややこしいこと言うな、集中して聞けないだろ。

(でも、あいつは引き下がらなかった。”映画主演、やってみないか?”と人参をたらしてきやがった!もちろんやりたいと言ったさ!そしたら、あの悪魔の契約を提案されたんだ。”君の腹バージン、くれないか?”と……!)

なんだよ腹バージンって。

(映画名はセフレオーディションだった)

なんてタイトルだよ。誰が観るんだよ。

(おれは一も二もなく応えた。「やります!やらせてください!」と)

どうしてその映画タイトルで前のめりで即答できたんだ。

(そして…その夜!俺の腹バージンは奪われたんだ……!)

だからなんだよ腹バージンって!ていうかセフレオーディション逆に気になるんだけど。

(そいつは芸能界きっての大物スポンサーだった。そいつが芸能人全員に「人前でひじをついて食べるな」と言えば、皆ちゃんと肘をついて食べないようになったし、「ゲップを人前でするな」と言えば、みんなゲップは音を立てないように気を付けるようになった)

いや芸能人なら当たり前だからそれ。

(それから毎日…あいつはお腹に口をつけて…ブゥゥゥ!とやるようになった。俺の腹は、毎朝アイツの唾液まみれで……うぅ俺の腹バージン…)

なぁ、腹バージンって、あれか?赤ん坊がお母さんとかの腹に口付けてぶぅぅぅ!ってする、あれ?
そのスポンサーに毎朝それされてるってこと?
それくらいでアンタ大打撃受けてんの?

(同じマンションで住むこと。それが映画俳優として成功するための、もう一つの条件だった。毎朝バブりたいから、と)

それはきついな。

(あいつがバックについてくれたおかげで、映画だけでなくCM、月9ドラマ、果ては日本アカデミー賞 優秀主演男優賞までもらえる地位まで上り詰めた)

よかったじゃないか。

(だけど、俺の生活は一変した。悪い方向へと。躾が始まってしまったんだ)

ど、どうなったんだ。ゴクリ。

(毎日夜中までパチンコ天国だった生活は終わった。夜は23時就寝、朝は7時起きに切り替わり、肌に悪いからとタバコと酒までやめさせられた。パチンコに行けば携帯に搭載されたGPS機能が発動し、小学生が持ってるあのビービーうるさい音が携帯から鳴る仕組みにされてしまった……人間らしく躾けてやると言われ、毎食家では和食しか食べさせてもらえないし)

良くなってるからそれ、ていうかパチンカスだったのかよ。

(カップ麺を禁止され、果物と野菜まで食わしてくるし!あいつは最低な男だ!腹いせに、俺は毎日あいつの財布から一万円を盗み、他人の金でこうしてカフェタイムを満喫している)

最低なのはお前だよ。

(芸能事務所は未だに枕を営業販売してくるように俺をコキ使うし、同居人のスポンサーには毎朝腹ブゥゥゥ!をされるし…ぐすっ)

いっそ転職しろ。

「グスッ」

(え?!すばる泣いてない?!)
(なんで?)
(話しかけちゃう?!)

やばい!この店内みんなすばるファンか!
ざっと100人、みんな女だ!
なんでこんなに女がいるんだ?ここの店名”ネコとタチ”なのに!

すばるをこっそり追っかけてきたけど、泣いてるなら、話しかけていいよね?ラッキー、みたいな声ばっかりだ!お前らストーカーしてたのか!
うお、全員立ち上がって泣きべそかいてるすばるさんの方に!

大変なことになるぞ。どうする、俺が助ける方法はあるか?

カランカラン。
「いらっしゃいませー」

誰だ?またすばるさんのストーカーファンか?

(やだぁ!かっこいー)
(すごい男前。モデル?)
(全米俳優みたいな男が入って来た)

確かに男前だな。女が全員ガン見するくらい。
すばるさんがギョッとした顔で男を見上げてる。知り合いか?

「まさるさん!躾…じゃない、デートは今日、なくなったはず……なにしに来たの……っ?」

……アンタが腹バージン泥棒かよ。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

悲報、転生したらギャルゲーの主人公だったのに、悪友も一緒に転生してきたせいで開幕即終了のお知らせ

椿谷あずる
BL
平凡な高校生だった俺は、ある日事故で命を落としギャルゲーの世界に主人公としてに転生した――はずだった。薔薇色のハーレムライフを望んだ俺の前に、なぜか一緒に事故に巻き込まれた悪友・野里レンまで転生してきて!?「お前だけハーレムなんて、絶対ズルいだろ?」っておい、俺のハーレム計画はどうなるんだ?ヒロインじゃなく、男とばかりフラグが立ってしまうギャルゲー世界。俺のハーレム計画、開幕十分で即終了のお知らせ……!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...