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不登校生と攻略対象者

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「ゆき…」

「ゆきってば!」

「わぁ!?ごめん気づかなかった…」

気づいたら横に真奈の姿があった。

「もう!何度も呼んでるのにゆきったら気づかないんだもん!」

「ごめん、考え事しててさ…」

「考え事?またバイトの事なの?」

「うん、まぁそんなとこ…」

「あんまり思い詰めちゃダメだよ?」
 
「うん、分かってる。心配してくれてありがとう」

上目遣いで心配してくる真奈に笑顔を向けた。
その後、予鈴がなり真奈も席につくと緑先生が入ってきた。
朝のホームルームの中で先ほどまで考えていた事についてまた頭の中で考え始める。
朝の下駄箱にあった自分と同じ転生者だと名乗る人からの手紙について。
同じ転生者のせいでイベントから逃げられずしかも、私の記憶に残るイベントがある場所は違う。
内容にある通りなら新キャラが出てきてゲームの内容が変わったんなら鍵を握るのは新キャラだ。
新キャラの攻略対象が誰なのか?トランプのカードは何なのか?私は分からない。
そして、同じ転生者が私と関わっている人の中にいるのなら攻略対象者かヒロインである真奈しかありえない。
ふと席について緑先生の話を聞く真奈を見たが真奈が転生者だとはどうしても思えなかった。
幼馴染という事もあり、そして何より真奈が私をイベントに逃げられなくする行動が見当たらなかった。
そんな憶測の中で次に考えたのが既に出会っている攻略対象だ。
一番転生者と考えられるのは攻略対象だった。
彼らの事をまだ全部知らない。
そして、同じく知らない新キャラの攻略対象も含まれる。
そう考えた時、私が次にとる行動は二つだ。
まず、まだ知らない新キャラが誰であるか調べる事。
新キャラも含めた攻略対象の中で転生者が誰なのか探りを入れる。
それしか私には道が残っていなかった。
地味キャラでありヒロインのモブでしかない私に何が出来るか分からないけど自分の平凡な生活のためやるしかないと視線を落としていた目を上に向けた。

ドカッ

「痛っ!」

向けた瞬間が危なかった。
途上には出席簿を持つ緑先生の顔があった。

「相浦!また、ぼーとしてたのか?先生の話を聞かないのも大概にしろ」

「すみませんでした…」

「疲れてるなら保健室で休むか?」

「大丈夫です。考え事していただけなので…」

「そうか…何かあったら言えよ?」

「はい」

そう言うと緑先生は教担へと戻っていった。
相変わらず緑先生は優しいなぁ…
緑先生の背中をみながら素直に先生の優しさに頬が緩むのを感じた。
朝のホームルームが終わり次の教室に移動しようとした時、緑先生にまた呼び止められた。

「相浦、また頼みたい事があるんだが…」

「何ですか?また、先生のお手伝い?」

「いや、うちのクラスにまだ来ていない不登校生がいるだろ?」

「不登校生?」

はて、そんな生徒いたか?…
思考回路を総動員させて考えるがそんな生徒は記憶にもなかった。

「おまえいつもホームルームの時、話聞いてないだろ?」

「うっ…すみません…」

「出席確認の時、いつもそいつの名前だけなくてな…朝のホームルームの時みんなに不登校生のそいつの事知っているか聞いたんだが誰も知らなくてなだから相浦に不登校生のそいつの家に行ってもらって会って何で学校に来ないのか話をして来て欲しいんだ。」

不登校生…
どんな人か知らないが新しく出て来た新キャラと関係があるのかも知れない。

「先生、その話お受けします。」

「そうか、ありがとう。やっぱり相浦に頼んで良かった。」

緑先生は、そう言うと私の頭を撫でた。
緑先生のイケメンスマイルに頭にある大きな手はあまりにも心臓に悪い。
赤くなっていく顔を見せまいと私は緑先生に話を振った。

「先生、こんなとこ周りの女子や先生のファンに見られたら大変です…」

「あぁ、そうだな…悪い」

先生は少し名残惜しそうに撫でていた手を離すと申し訳ないと謝る。

「それじゃあ、次の教室に行かなきゃ行けないので失礼します。不登校生の事は任せてください。今日は用事があるので行けませんが明日なら何とか行けそうなので行ってみます。」

「分かった。頼んだぞ。」

「はい」

私は返事をするなり赤くなっていた顔みせまいと踵を返して急いでその場を後にした。

遠ざかって行く雪の後ろ姿を見つめていた緑は先程まで雪の髪に触れていた自分の手を見た。

少しだけでも触れたいと思うのに教師と生徒である以上教師としてしか接する出来ないもどかしさに悩んでいた。

「さっきの行動が精一杯か…」

その呟きは誰の耳に届くわけもなく一人自分自身にいい聞かせるように自分の胸にとどめた…
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