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絆
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灰色の煙がどんどん空に広がりアパートの火はどんどん周りを燃やしていく。
「ど、どうしよう…あ!大家さん!大家さん無事なのっ!?」
慌てて燃えている火のアパート内に入ろうとした瞬間、何者かの腕が伸び体を固定され口をもう片方の腕で塞がれたまま人けのない路地裏に連れ込まれた。
「んっー!!んっー!!」
何もかも身動きが取れず恐怖で逃れようと足をばたつかせ動くが捕まえられた人は男性のようで、力でかなうはずもなくもがいても程なくして力尽きた。
「…少し黙ったままそのままじっとしてくれ」
耳元で囁かれた男の声は何処か聞き覚えのある声だった。
この声…大家さんの息子さんだ!
思わず振り返ろうと首を回そうとするが後ろから抱きすくめられた状態で固定されているので思うように動かなかった。
程なくして消防車が着き消防士の人達の声とホースで水をかける音が聞こえ数分後、鎮火された模様だった。
火が消え鎮火されると直ぐに警察が来て警察官の話し声が聞こえた。
「はぁ…ごめん、こんな真似して」
後ろからため息混じりに謝罪の言葉が囁かれ体は固定されたまま塞いでいた口が離される。
ゆっくりと首を回し振り向くと予想通り男は大家さんの息子だった。
「あの…もしかして火をつけたのって…」
「…これしかなかったんだっ!これしか母を説得出来なかったんだ」
「説得?理由があるんですか?」
「実は、一緒に暮らしたくて…」
「一緒に暮らすならあのアパートでも出来たんじゃないんですか?火なんかつけて燃やさなくても…」
「留学の際に実は向こうの人と結婚して子供が出来たんだが、一人ここでアパートの大家してる母が心配で前に一緒に海外で暮らそうって誘ったんだが断固として行かないの一点張りで…母も歳だしこのままずっと一人にしておけなくて、だからあの父が残した古びたアパートさえなければ首を縦に振ってくれると思ったんだ!」
「それは間違っ…」
「それは違うよ、良一」
すると後ろから声がかかり見ると大家さんが路地裏をゆっくりと歩いてこちらに近づいていた。
「母さん…」
「大家さん生きててよかった…!」
その瞬間、良一から腕が離れすぐさま抜け出すと大家さんに飛びついた。
「ごめんなさいね、せなちゃん…」
星那の背中をさすり申し訳なさそうに言う大家さんに首を横に振った。
「私は平気です。それより大家さんが生きててよかった…」
そう言うと大家さんはどこか悲しそうな顔をしながらも穏やかな笑顔をする。
「良一、私はいくら家族と離れて一人でいても寂しくなんかないし辛くもないんだよ。むしろ、お父さんが残してくれたアパートを残す事が出来てこうやって可愛い住人さんの面倒を見ることが出来て私は幸せなんだよ。良一の気持ちは嬉しかったし一緒にいたい気持ちはあったけど私には大事なもの手放す気にはなれなかった…」
「母さん…ごめん!ごめんなさい…!」
良一はその場に崩れ落ちると泣きわめきながら謝罪の言葉を述べる。
「良一…これを見てごらん」
大家さんは崩れ落ち泣きながら謝罪する良一に近づき座ると懐から若干黒くなった額縁入りの写真を取り出した。
「これは…」
「良一がまだ幼い頃、あのアパートでお父さんと三人で撮った写真だよ」
「あ…」
そこに映るのはアパートの前で幸せそうに笑う三人の家族写真だった。
「この時、良一がお父さんに”将来は僕がお父さんのあとを引き継いでアパートを守るんだ”って真剣な顔してお父さんに言ってお父さんが喜んでたわね。でも、お父さんも亡くなって良一も留学する事になって私がお父さんのためにも良一の代わりに守って行かなきゃって…だからね、アパートは私やお父さんだけのためじゃなくて良一のためにも手放す事が出来なかった。守れなくてごめんなさいね…」
「いいんだ母さん!俺が母さんの気持ちも考えず勝手に燃やしたのが悪かったんだ!悪いのは何もかも俺だ…俺なんだ!」
「ううん…燃えてしまったアパートは返らないけど、アパートよりも一番大切な良一がいるんだもの。私にはもうそれだけで幸せだわ」
「母さん…母さん!」
泣きわめく良一を優しく母の顔で抱き締める大家さんの姿に穏やかな気持ちが胸いっぱいに広がった。
「…物より家族か」
思い出の詰まった物より、切っても切れない親子の絆の方が強いんだとその未来は物語っていた…
「ど、どうしよう…あ!大家さん!大家さん無事なのっ!?」
慌てて燃えている火のアパート内に入ろうとした瞬間、何者かの腕が伸び体を固定され口をもう片方の腕で塞がれたまま人けのない路地裏に連れ込まれた。
「んっー!!んっー!!」
何もかも身動きが取れず恐怖で逃れようと足をばたつかせ動くが捕まえられた人は男性のようで、力でかなうはずもなくもがいても程なくして力尽きた。
「…少し黙ったままそのままじっとしてくれ」
耳元で囁かれた男の声は何処か聞き覚えのある声だった。
この声…大家さんの息子さんだ!
思わず振り返ろうと首を回そうとするが後ろから抱きすくめられた状態で固定されているので思うように動かなかった。
程なくして消防車が着き消防士の人達の声とホースで水をかける音が聞こえ数分後、鎮火された模様だった。
火が消え鎮火されると直ぐに警察が来て警察官の話し声が聞こえた。
「はぁ…ごめん、こんな真似して」
後ろからため息混じりに謝罪の言葉が囁かれ体は固定されたまま塞いでいた口が離される。
ゆっくりと首を回し振り向くと予想通り男は大家さんの息子だった。
「あの…もしかして火をつけたのって…」
「…これしかなかったんだっ!これしか母を説得出来なかったんだ」
「説得?理由があるんですか?」
「実は、一緒に暮らしたくて…」
「一緒に暮らすならあのアパートでも出来たんじゃないんですか?火なんかつけて燃やさなくても…」
「留学の際に実は向こうの人と結婚して子供が出来たんだが、一人ここでアパートの大家してる母が心配で前に一緒に海外で暮らそうって誘ったんだが断固として行かないの一点張りで…母も歳だしこのままずっと一人にしておけなくて、だからあの父が残した古びたアパートさえなければ首を縦に振ってくれると思ったんだ!」
「それは間違っ…」
「それは違うよ、良一」
すると後ろから声がかかり見ると大家さんが路地裏をゆっくりと歩いてこちらに近づいていた。
「母さん…」
「大家さん生きててよかった…!」
その瞬間、良一から腕が離れすぐさま抜け出すと大家さんに飛びついた。
「ごめんなさいね、せなちゃん…」
星那の背中をさすり申し訳なさそうに言う大家さんに首を横に振った。
「私は平気です。それより大家さんが生きててよかった…」
そう言うと大家さんはどこか悲しそうな顔をしながらも穏やかな笑顔をする。
「良一、私はいくら家族と離れて一人でいても寂しくなんかないし辛くもないんだよ。むしろ、お父さんが残してくれたアパートを残す事が出来てこうやって可愛い住人さんの面倒を見ることが出来て私は幸せなんだよ。良一の気持ちは嬉しかったし一緒にいたい気持ちはあったけど私には大事なもの手放す気にはなれなかった…」
「母さん…ごめん!ごめんなさい…!」
良一はその場に崩れ落ちると泣きわめきながら謝罪の言葉を述べる。
「良一…これを見てごらん」
大家さんは崩れ落ち泣きながら謝罪する良一に近づき座ると懐から若干黒くなった額縁入りの写真を取り出した。
「これは…」
「良一がまだ幼い頃、あのアパートでお父さんと三人で撮った写真だよ」
「あ…」
そこに映るのはアパートの前で幸せそうに笑う三人の家族写真だった。
「この時、良一がお父さんに”将来は僕がお父さんのあとを引き継いでアパートを守るんだ”って真剣な顔してお父さんに言ってお父さんが喜んでたわね。でも、お父さんも亡くなって良一も留学する事になって私がお父さんのためにも良一の代わりに守って行かなきゃって…だからね、アパートは私やお父さんだけのためじゃなくて良一のためにも手放す事が出来なかった。守れなくてごめんなさいね…」
「いいんだ母さん!俺が母さんの気持ちも考えず勝手に燃やしたのが悪かったんだ!悪いのは何もかも俺だ…俺なんだ!」
「ううん…燃えてしまったアパートは返らないけど、アパートよりも一番大切な良一がいるんだもの。私にはもうそれだけで幸せだわ」
「母さん…母さん!」
泣きわめく良一を優しく母の顔で抱き締める大家さんの姿に穏やかな気持ちが胸いっぱいに広がった。
「…物より家族か」
思い出の詰まった物より、切っても切れない親子の絆の方が強いんだとその未来は物語っていた…
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