男装ホストは未来を見る

Shell

文字の大きさ
29 / 108

能力の欠点

しおりを挟む
近くの駅の公衆トイレでバイト用に男装をし脱いだ制服やスクール鞄をリュックに詰め込むと慌ててお店に向かって走った。

ガチャ

「あ、せなさん!実は、明さんが少し変なんです」

お店に着くと入口の掃除をしていた後輩ホストが心配そうな表情で詰め寄った。

「変?明なんていつも変みたいなもんじゃねーか。気にすんな」

適当に言ってその場を後にしそのまま更衣室に向かう。

ガチャ

「うわっ!?」

バタンッ!

更衣室のドアを開けた瞬間、中で丁度着替えていた上半身裸の隆二が目に入りすぐさま閉め直す。

びっくりした~~~!
隆二さんが今の時間着替えてるの忘れてた。
ここは出直した方がいいよね…?

寄っかかっている更衣室のドアから離れようとした瞬間、突然更衣室のドアが開き寄っかかっていたためそのまま後ろに倒れると着替え終わった隆二さんの胸板が支えとなった。

「っ…」

「何勢いよく閉めてるんだ?着替えるなら入ればいいだろ?」

その声におずおずと見上げるとすぐ途上に隆二さんの顔があり思わず固まる。

「あ、えっと…つい閉めてしまって…」

「そうか、もう着替え終わったから早く入って着替えろよ?」

「は、はい…」

隆二は星那の肩を優しく叩きその場を後にしていった。

「はぁ……」

急な事に力が抜けその場に座り込む。

分かってたのにやってしまった…

いくら未来がみえたとしてもそれを忘れてしまったりすれば元も子もない。
そんな予知の能力の欠点に再度危機感を覚えた。

 *

ガチャ

着替えが終わり休憩室に入ると後輩ホストが言っていた変な明がテーブルの前をウロウロと悩んだ様子で歩いていた。

「明、何やってんだ?」

「あ、せな。今はお前に構ってる暇はねぇんだよ」

「あ、そう」

まるでいつもは構ってあげてるみたいな言い草に若干イラつき放置しようと椅子に座るが、ずっとウロウロしている明が気になって集中出来なかった。

「あのさ!ずっと後ろでウロウロされても気になって仕方ないんだけど?何かあるなら聞くから理由ぐらい話せよ」

「はぁ?お前なんかにこの俺が相談なんかするかアホ!お前に相談するんならお店に来る客だけで充分だっつーの!」

「ほう…もういい!どうせ明の事だから妹ちゃんの事だろうからね!」

「なっ!?な、何で分かんだよ!?」

図星か…

明が悩み事と言ったら妹ちゃん…つまりひのちゃんの事しかないのは一目瞭然だった。

「お前は顔に出やすいんだよ、ばーか!」

「なっ…何考えてるか分かんねーお前よりマシだっつーの!」

何か明といい合いするだけで疲れてきた…

しょうもない言い合いに馬鹿げてきて座り直すと話の本題を切り出す。

「はぁ…それより妹ちゃんと今度は何があったんだ?」

ま、だいたい予想はつくけど…

朝の交差点での兄妹喧嘩を思い出しきっとその事だろうと結論付けた。

「ひのが事故らねぇようにって朝わざわざ俺が交差点まで送ってる事が気に食わねぇっていいやがって、明日も同じように着いてきたら口聞かないって言い出しやがってよ…兄として妹を守るのは当然の事なのに何で分かんねぇだよ!」

まぁ、明がそこまで心配するのも分かる。

明とひのちゃん兄妹は両親を交通事故で無くしており、だからこそたった一人の家族であるひのちゃんを大切に思うあまり明は若干過保護になっていた。

「ひのちゃんはお前の気持ちちゃんと分かってると思うぞ?」

「でも、じゃあ何で俺を遠ざけようとするんだよ?分かってねぇ証拠じゃねーか!」

「ひのちゃんももう高校生でいい歳だぞ?自由ぐらい少しは欲しいって思っての発言なんじゃねーか?」

「高校生でも俺からしたらまだ幼い妹なんだよ!自由だって少しはあげてるつもりだし…」

「はぁ…そんなんでひのちゃんに彼氏なんか出来たらどうすんだよ?」

「はぁ?彼氏なんか俺が許すか!」

ドンッ

思わず足で明の足を蹴る。

「いてっ!」

「アホかお前!恋愛ぐらい自由にさせてやれよ!そんなんでよく自由はあげてるなんて言えたな?」

「うっ…」

図星をさされ思わず口ごもる明に更に話を続ける。

「それに、そんなに心配ならひのちゃんにバレねぇように隠れてついていけばいいだろ!お前が一緒にいるっつー事が気に食わねぇだけでお前の気持ちを遠ざけてるわけじゃねぇんだからよ」

「た、確かに…」

「はぁ…」

本当、ひのちゃん苦労するなぁ…こんな馬鹿な兄がいて。

その場にいないひのちゃんに向けて同情の気持ちを向けたのだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...