男装ホストは未来を見る

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盗難の理由

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教室を出て女子生徒が横切った先を一目散に走って行くと曲がり角を曲がるのと同時に女子生徒らしき姿がみえた。

「待って!逃げないでっ!」

「こ、来ないでくださいっ…!」

「来ないでって言われても、私達はこんな事してる理由を聞きたいだけなの!だから逃げないで!」

その言葉に女子生徒の足が止まりゆっくりとこちらを振り向く。
黒髪を二つに分け結びそばかすが特徴的な女子生徒は腕の中に青の袋を抱き締めていた。

「おい、誰か来るぞ!」

豹の声に耳を澄ますと先程の警備員の足音と同じ音がし、すぐさますぐ横にある用具室に入る。

「お前らロッカーに入ってろ!俺はドアの前で見張ってるから」

「うん!」

女子生徒の腕をつかみ一緒に掃除道具が入っているロッカーに隠れる。

トン…トン…トン…

「今、生徒の姿が見えた気がしたが気のせいか…」

そうドア越しに警備員の声が聞こえると、そのまま戻るようにその場から遠ざかっていった。

「はぁ…」

ゆっくりとロッカーの扉を開けドアの前にいた豹と一緒に女子生徒を一瞥する。

「名前はなんて言うの?」

「…二年の椎名しいな 寧々ねねです」

「寧々ちゃんか。隣にいるのが三年の宮端 豹で、私が…」

「星那先輩ですよね?有名ですから知ってます」
 
「よかった…なら本題切り出すけど、どうしてこんな夜中に学校に?」

すると寧々ちゃんは表情を暗くし俯くとゆっくりと口を開いた。

「…わざとじゃないんです…私はただ…」

「別に理由聞いたからとして責めたいわけでもないんだよ?ただ本当に理由を知りたいだけなの」

「…羨ましかったんです」

「羨ましい?」

「比留間先輩に話しかける勇気も貰った物もそして、告白する勇気も…」

「比留間先輩ってサッカー部の?」

「…はい。ずっと前から比留間先輩に片思いしてて、でも比留間先輩はモテるしだからと言って話しかける勇気もないからただ見てる事しか出来なくて…だけど、周りがどんどん告白してるの見て焦ってしまって…」 

「だから、消しゴムやその抱き締めてる比留間くんの物を盗もうとしたと?」

その言葉に寧々ちゃんは無言で頷いた。

「寧々ちゃん…好きだから勇気がないからって人の物を盗む事は間違ってるよ?それは自分の存在を見てもらうためじゃない。相手からしたら逆に嫌われてもおかしくない事なんだよ」

「でも…でも、それじゃ告白する勇気もない私はどうしたらいいんですか?ただ見てるだけで最初いいって思ってました…でも、だんだん気持ちだけが大きくなってどうしようもないんです。私の存在を気づいてもらうにはもうこんな事しか…」

「好きな気持ちは言葉にしなきゃ伝わらない…勇気がなければ勇気を出せるように頑張るしかない…そうやって今まで比留間くんに告白した女の子達は頑張って来たんじゃないの?人を好きになるってきっと自分の殻を破る事だと私は思う」

「…自分の殻を破る」

「今までの告白したり話しかけてる女の子達をみて自分と比較するんじゃなくて、寧々ちゃんは自分自身を見たことはある?」

「ない…です。」

「自分自身をみるとね、自分の悪いところや欠けてるところも分かるけどそれは反面良いところも分かるようになるって事なんだよ。そうやって自分自身を好きになって好きな人にも好きなってもらう。人に好きになってもらうには自分自身を好きにならなきゃ好きになんて貰えないよ」

「私、意気地無しで勇気なくて自分の思った事口に出来なくて…でも…」

「でも?」

「お花好きで、誰かを助ける事が好きで、何より…比留間先輩を大好きで!他の誰よりも比留間先輩の事大好きなんですっ!」

だんだんと涙を流しながらも顔を上げ真っ直ぐに言う寧々に自然と笑みが零れる。

「ならその気持ち…ちゃんと伝えなきゃね?」

寧々の胸に人差し指で触れトントンと優しく押す。

「はい…!」

 *

その後、盗もうとしていた比留間くんのシューズを元に戻し寧々ちゃんと明日ちゃんと消しゴムを返して奪われた女の子に謝罪をしてちゃんと思ってる事を正直に比留間くんに言うことを約束した。

「…寧々ちゃん、ちゃんと比留間くんに言えるといいね」

学校の帰り道、満月の下で豹と並んで帰りながらふとそう呟く。

「せなの気持ちしっかりと伝わったなら言えるかもな」

「かもって…」

「女の色恋沙汰の気持ちなんか分かるわけないからな」

「あっそ!」

相変わらず嫌味ばかりなんだから!

素っ気ない豹の態度だが、口元は笑っていた。




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