男装ホストは未来を見る

バスの中で揺られながら…

クラスマッチが終わり帰りのバス停まで疲れきった体のまま歩いて向かうとタイミング良くバスが止まり慌てて走って乗り込む。

「うわっ！？満員過ぎっ！」

バスが開くと既にクラスマッチから帰る生徒や他校の生徒で埋め尽くされており星那・理沙・まひる・豹がギリギリ乗り込めるぐらいの空間しかなかった。

「理沙とまひる！奥いって！」

「う、うん…！」

押し流されるように先に乗り込んだまひると理沙は奥の空間に行き、ドア付近にてギリギリ乗り込んだ豹と星那の二手に分かれた。

「うっ…苦しっ…」

周りの男子達に囲まれ押しつぶされそうになっているとすぐ目の前の豹が庇うように押しつぶされながらも星那の体を抱き締めた。

「大丈夫か？」

「う、うん…」

本当は大丈夫じゃないけど…

豹の思わぬ行動に戸惑いながらも抱き締められた反動で豹の胸板に顔を埋める体制に顔をあげることすら出来なかった。

山登りの事件以来何か豹が優しいっていうか…守られてる感するなぁ…

ただの自惚れた思考だと割り切り脳内で頭を振る。

 ＊

「…なぁ、あのロングヘアの黒髪の子可愛くね？」

「うわっ！？ほんとだ！可愛い！」

「でも男と抱き合ってるし彼氏持ちだよな…チッ」

その声は豹の耳に届き、その声の方に睨みを効かせながら星那を抱き締めている腕を更に強めた。

「っ…豹？」

突然の事に戸惑う星那の声が抱き締めている腕の中から聞こえ何でもないように話を切り出す。

「お前…最近隆二さんの様子がおかしいって思わねぇか？」

「え？隆二さん？う～ん…おかしいっていう感じはしないけど、何か更に優しくなった感じはするかなぁ？」

「そうか…」

「隆二さんがどうかしたの？」

「もしかしたら、隆二さんにお前が女だとバレてるかもしれない…」

「え！？で、でもバレるような事は何も…」

「確証はない。俺の憶測に過ぎないからまだ警戒ぐらいしか出来ない」

「そ、そっか…なら気をつけるね」

「ああ…」

不安そうに言う星那に素っ気なく返し最近の隆二の様子を脳内に浮かべる。

店の時も家でも何か妙に気を使ってる感じがしたんだよな…あれは何か知ってるとしか…

「スー…スー…」

すると腕の中から星那の規則正しい寝息が聞こえ見下ろすと、立ったまま疲れて胸に顔を埋めながら眠る星那の姿があった。

この体制でよく眠れるな…

あまりの爆睡ように苦笑いを浮かべながらも星那が苦しくないよう抱き締める片方の腕を頭に回し守るように抱き締めた。

「んっ…」

その抱き締める体制に落ち着いたのか胸板に頬擦りしつつ穏やかに眠る星那を見ると、抱きしめた際に星那の艶やかな黒髪から匂う花の匂いに鼻をくすぐられた。

「今はまだこのまま…」

豹の呟く声は眠る星那には届かず満員バス内の騒がしい空間に消えたのだった。