モブキャラCの私は乙女ゲーム世界で助言役を勝ち取りました

Shell

文字の大きさ
17 / 85
一章 幼少期編

アップルパイは恋の味

しおりを挟む
「桃ちゃん、お待たせ!大丈夫だった?」

「うん、何ともないよ」

「良かった!受付によるともう乗らなきゃいけないらしいから改札口に行きましょ」

「はい」

結局、どうする事も出来なかったアップルパイを片手に母から手を引かれ改札口まで向かうと父が名残惜しそうに問いかけた。

「桃、パパは寂しいよ。桃と離れるなんて…」

「私は寂しくないよ」

「そうだよな。ママがいるもんな?」

「うん」

「でも、パパが恋しくなったらいつでも電話してくれていいんだからね?」

「うん」

一切するつもりないけどね

「んじゃ…またな、桃」

「んっ…」

名残惜しそうに最後に瞼にキスを落とし父は去って行った。

「桃ちゃんは泣かないのね?」

「うん、別に…」

返事をしながら母を見上げるとそこには薄ら涙が見え胸が締め付けられた。

あんなどうしようもないダメ男でも好きだったんだから悲しいよね…まぁ、私は涙なんて…

「うわぁぁぁんっ!行かないでぇ…!」

「へ?」

不意に聞こえた泣き叫ぶ子供の声に驚き視線を巡らせると改札口の前で両親の服を掴んで泣き叫ぶ男の子か女の子か分からない程の美形の子供がいた。

「りん、ママとパパは仕事なの。お願いだから離して?ね?」

「嫌だぁ…!僕も一緒に行くもん!」

「仕事だからりんを連れていく事は出来ないんだよ。パパ達の言う事を聞いてくれ!」

「ふっ…うわぁぁぁんっ!!」

くすのき、あとはお願いね?」

「はい、お任せ下さい」

「りん、帰って来たら沢山遊んであげるから大人しく待っているんだぞ?」

「楠の言う事をしっかり聞いてね?」

「…っ…うん」

りんと呼ばれた子供の返事を聞くと両親達は飛行機へと向かった。

「ママ、ちょっと行ってくる」

「え、ちょっ…桃ちゃん!?」

母を残し立ち尽くすりんの所へと向かうと手に持っていたアップルパイを差し出した。

「これあげる」

「え…?」

「甘い物でも食べて元気出して?今は一人でもきっといつか貴方を好きな人でいっぱいになるから」

「そう…かな?」

「うん、私が約束する」

りんに小指を差し出すとりんの小指が絡まり指切りげんまんをする。

「嘘ついたら針千本の~ます、指切った!」

「ねぇ、また…会える?」

「う~ん、それは分かんないけど互いに覚えてたらきっとまた会えるよ」

「分かった!じゃあ絶対忘れないからね!」

「ふふっ、期待せずに覚えておくよ。バイバイ!」

「またね!」

薄い桃色の髪に大きな黒い瞳を持つりんと呼ばれていた泣きぼくろが特徴的な子に手を振りながら今日の事を記憶の奥にしまった。

「桃ちゃん、あの子と何してたの?」

母の元へ戻ると何故かニヤニヤ顔の母がいた。

「別に。ただの人助けだよ」

「ふ~ん、人助けねぇ~?」

「な、何?」

「別に~、桃ちゃんも隅に置けないなぁと思ってね」

「そんなんじゃないからね!それに、桃は顔が良すぎる人とは恋をしないんだもん!」

「それはママも賛成。イケメンを好きになっても泣きを見るだけよ」

「うん、分かってる」

母が悲しげな顔を見せたのはその日が最後だった。そして、父とは一生会うこともなく母と二人で再スタートを切ったのだった。

 *

桃が去って行った後、アップルパイを手に初恋をした少年がいた。

「可愛らしい方でしたね?林檎りんご坊っちゃま」

「うん!名前聞きそびれちゃったけどね」

「その箱には何が入ってるんですか?」

「ん~、何だろう?…あ!アップルパイだ」

「まぁ、美味しそうですね!」

「うん、食べるのが楽しみだよ。…ん?”マイ・スターへ、愛を込めて”?」

「きっと林檎坊っちゃまへのメッセージですよ」

「えへへっ、そうだといいな」

りん…いや、林檎少年はアップルパイの箱を大事そうに抱えまた銀髪の少女に会える事を指切りした小指に願いを込めたのだった。




















しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...