モブキャラCの私は乙女ゲーム世界で助言役を勝ち取りました

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二章 ゲーム開始

モブから助言役〜懇願の手紙

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まだ日も登っていない朝から学園は危険地帯へとなっている。その為私は前もってリサーチした情報を手に毎朝教室まで移動しているわけなのだが…

「今日は一段と凄いな…」

寮を出ると複数の女子生徒達が行き交う姿が見え危険地帯だという事を物語っていた。そして、前もって仕入れた情報を前に顔が引き攣る。

・グラウンド場、桜桃 凌牙によるサッカー部の練習
・中央舎三階和室、梅木 ライチによる茶道
・中央舎四階楽器室、国光 林檎の楽器の整備
・東舎特進クラス五階コンピュータ室、柿本 蜜柑の秘書仕事
・西舎一般クラス三階家庭科室、星七 苺と木通 檸檬のデザイン中
・西舎一般クラス四階工業室、桜桃 小豆の物作り中

「攻略対象者だけじゃなくヒロインや脇キャラまでいるなら男子生徒も居そうだな…」

情報を書き記した手帳を閉じ寮から一般クラス二年の教室がある道のりを確認する。

まず、下駄箱から上靴を取るには中央舎の一階を必ず通らなきゃいけない。そこは素早くダッシュして取るとして…そこから中庭を通って一般クラス一階にある更衣室付近は危ないから裏に回っていつも空いている更衣室隣の窓から入ったらいけるかも。後は家庭科室側じゃない階段の方を登っていけば…うん、行けるわ。

意を決して脳内で立てた計画通りに動き出す。真っ直ぐに中央舎まで走っていると女子生徒達の黄色い歓声が耳に届いた。

「きゃぁぁぁぁっ!!凌牙くん、カッコイイ~~!」

「あの流れるようなシュートカッコよすぎる~!!」

「汗を拭う姿も凛々しいわ~!」

東舎裏にあるグラウンドで行われるサッカー部の練習は週に四回ありその度に女子生徒達の黄色い歓声が朝から響き渡っていた。

ここからでも聞こえる女子生徒達の歓声って…恐るべしイケメンパワー

だが、そんなパワーは私には一切響くわけもなく足を止めることなく中央舎まで突っ走った。

「はぁ…はぁ……運動苦手の私にはハード過ぎる…っ」

息が途切れ途切れになりながらも何とか下駄箱から上靴を取り変え履くと早々に中央舎を後にした。

「後は中庭から裏に回って…ぎゃっ!?」

中庭に出ると誰かを探しているのか何故か複数の女子生徒達が携帯片手に歩き回っていた。

これは一体何事ですか…?

「…ライチ先輩何処にいるの~?」

は?梅木 ライチのせいか?

女子生徒の呟きに耳を傾ける。

「いつもなら和室で茶道してるのに~…」

「情報だと寮からはもう出たらしいし学校にはいる筈なのにね」

なるほど、いつもなら和室にて茶道しているはずの梅木 ライチが行方不明というわけか……はた迷惑な話だな

無事に教室に着きたい私にとって彼等…乙女ゲー関係者達の予想外の行動には困る。遥かに困る。だが、足取りが分からないのに今更計画変更など出来ず前もって脳内で立てていた通りの道順で裏へと回る。

「……よいっしょっ…と」

思いっきりジャンプして窓枠に手を伸ばすと前もって下調べしていた通り鍵が空いており少しだが開いた。

「あと少し…おりゃっ!!」

少し空いた窓に手を伸ばし思いっきり払うように横にやると人が入る程の隙間が空いた。

「よし、後は登るだけ!」

自身が運動能力がゼロなのは自覚済みだが普通に平凡な生活の為なら馬鹿力でも何でも出せると自負している。

「んー…んー…はっ!?届いた!!」

窓枠に手が届いた隙を逃がすことなくそのまま滅多に出すこともない力を限界まで出し登るとそのまま力尽きたように前のめりに落ちる。

「あ……」

ゴンッ!!!

「”いっ…!?”」

落ちた瞬間に誰かに当たり痛みで頭を抑えつつ目を開けると僅かに濡れた白銀色の髪にアイスブルーの瞳が真っ直ぐに見つめ返していた。

「…てん……し…」

「へ…?」

薄く開いた唇から微かに零れた”天使”という単語に思わず聞き返すと我に返ったのか勢いよく押し返された。

「うぎゃっ!?」

ドンッ…!!

いくら茶道家だとしても体格もよく背も高い男子に対して小柄で華奢な私じゃ敵う訳もなくあっさりと振り払われた。

「……く…っ」

振り払われた私の方がうめきたい所だが先程ぶつかった拍子におでこをぶつけたのか痛みで顔をこばめる梅木 ライチの姿があった。

私も多少は痛いけど石頭だからやられた方が痛いのかも…?

きょとんと目を丸くしながらその様子を見ているとそれに気づいたのか一瞬鋭く睨まれ直ぐに出口に向かって歩き出す。

本当はこのまま素知らぬふりでもして関わりたくないけど、ぶつかってきたのは私だし…

おでこを抑えながらよろけながら歩く彼にいたたまれなくなってしまった。

「ぁ……あのっ!」

意を決して声を掛けたが見向きもせず彼の足が止まることはなかった。

もう!私だって嫌なんだから…っ!

半ばやけになりながらも再度口を開く。

「待って…っ!!」

廊下中に響く程の声で叫ぶとようやく彼の足が止まった。

今だ…っ!

慌てて彼の元へ駆け寄り前に回る。

「あの、さっきはぶつかってしまってすみませんでした」

謝罪の気持ちを現す様に勢いよく頭を下げ恐る恐る見上げる。

…おでこ赤くなってる

前髪から僅かに見える赤く染まったおでこに無意識に手を伸ばす。

…バシッ!

「っ……」

勢いよく叩かれ振り払われた手に息が詰まる。

「触るな」

冷たく放たれた言葉は一瞬にして心を冷たくしたが此方にも意地というものがある。

「私だってしたくてするんじゃない…っ!嫌でも私のせいでこうなったのなら少しでも助けたいだけ」

冷たく突き放されるのを覚悟に言い返すと予想とは違う反応が返ってきた。ゆっくりとアイスブルーの瞳を閉じ私の背丈に合わせて膝を着く梅木 ライチの行動に戸惑いを隠せなかったがこれは彼なりの承諾という形に受け取る事にした。

それならそうと早く手当てしないと…

鞄から念の為に持ち歩いている救急箱ならぬ救急ポーチを取りその中に入っている冷却シートを取り出す。

「少し冷たいですけど我慢してください…」

白銀色の前髪をゆっくりと上げ赤く染まったおでこにそっと冷却シートを貼る。

「ひ…っ…」

「ぁ……」

冷却シートの冷たさで閉じていた筈の瞼が開かれ至近距離でアイスブルーの瞳が見つめられた。

「……空みたい」

真っ青な空色にも似た綺麗なアイスブルーの瞳に不意に素直な言葉が漏れると目の前で一気に耳を赤くし固まる彼に目を丸くすると直ぐに触れていた手を払われた。

…バシッ

「っ……」

振り払われた手を擦りながら見上げると何事もなかったかのようにすくっと立ち上がり出口へと歩いて行った。

「…あれ?でも何で更衣室付近に居たんだろう?」

不意に疑問に思い彼の姿を思い返す。

濡れていた髪に手には鞄と…袋?

白色の袋を持っていた事を思い出し首を傾げながらも更に思案する。

もしかして、プールで泳いでいたとか…?

この学校には水泳部の為も兼ねて水泳の授業もあり中央舎に温室プールが備えられている。勿論、無断で使用するのは以ての外なのだが…

…絶対無断で使用したよね

彼のまだ濡れていた姿や持っていた袋から察するに明らかに温室プールを使用していたのは明白だった。

「とにかく私も何も無かった事にしておこう。色々関わりたくもないし…」

この事を先生に進言してしまえば彼と関わった事など学校内で広まる事は明白であり、何より私が(棗 杏子を除いて)先生に話かけた所で気づかれる可能性はゼロに近いのだから無駄な体力は使いたくない。

そう脳内で結論づけると散らばった鞄を片手に教室へと向かった。

 *

桃が教室へと向かった頃、西舎を出て裏から東舎へと向かっていた梅木 ライチは先程の出来事が脳内でグルグルと回っていた。

「あの銀髪の少女前にも何処かで見たような……くっ…」

昔の記憶と探るように銀髪の少女の面影を思い出そうとしたが何故か酷い頭痛に襲われ阻まれた。

「何故だ…?だが、あの時口にしたのは確かに…」

”天使”その言葉を口にするのはこの世で一人だけだった。だが、何故その言葉を銀髪の少女にも口にしたのか…?無意識に発せられた自身の言動に困惑した。

「それに…」

自身よりも遥かに小さな紅葉の葉のような手や真っ直ぐに覗き込む碧色の瞳を思い出し普通なら以外には一切思う事もない暖かな感覚が心を巡った。

「銀髪の少女……調べてみる価値はありそうだ」

朝日の日差しが濡れた白銀色の髪を照らしながらふと見たげた自身の瞳と同じ色のアイスブルーの空に小さく笑みを浮かべた。

 *

…今日の日記より、『最悪な日常』

毎朝のように彼等に関わらないように避けては無事教室に行っていたのに生徒会監査であり茶道家でもある梅木 ライチに出会してしまった。彼はどうやら無断で温室プールを使用していたらしく朝から女子生徒達が探している間泳いでいたらしい。まぁ、私には関係ない事だから興味ないが。その後、無事に教室に着いたのだが相変わらず桜桃 凌牙により授業中ずっと睨まれっぱなしで迷惑にも程があった。昨日と違い追求されないだけでもマシだったけど…これから先も睨まれっぱなしだと思うと気が重い。そして、至福の時間だった屋上でのお昼ご飯は木通 檸檬によって地獄の時間へと変わった。屋上に着くなりまるで待ち構えていたかのように当たり前にいる彼の姿に踵を返して帰ろうとしたが屋上の外はタイミング悪く既に他の攻略対象者達によって占領されていた。逃げ場なくして諦めて彼と一緒にお昼ご飯を食べる事になったが平然とお弁当を持っていないと言う彼に怒りしか湧かなかった。こいつもしかして私のお弁当を食べる為に屋上に来たのでは…?などと思う程の彼の態度に嫌々ながらも半分与える羽目となったのだ。そして私は決意した…屋上以外の場所を探そうと。

…以上が今日の日記なのだが、改めて思うと非常に悪化し過ぎている。

「このままいけばモブ生活は消えてしまうわ…」

最悪表舞台にだけは断固として立ちたくない。

…コンコン

「桃ちゃ~ん!お手紙来てるわよ~」

玄関から寮母さんの声が聞こえその言葉に一気に気持ちが浮上した。

「い、今行きます…っ!」

お手紙と聞いて思い浮かぶのは離れて暮らす母の顔だった。寮暮しの為、時折心配して送られてくる母からの手紙はストレスでしかない学校生活をする私にとって唯一の楽しみであり癒しだった。

今日はどんな事書いてるんだろう?早く読みたいな…

…ガチャ

「桃ちゃん、こんばんわ。今日は五通もお手紙が来てるわよ!」

「へ?五通…?」

寮母さんからお手紙を受け取るなりウキウキだった気持ちは一気に急降下した。

「こ、これは…」

「じゃあ、風邪ひかないように早めに就寝しなさいね!」

「あ、ちょっ!?寮母さん…っ」

あっという間に行ってしまった寮母に落胆しながら五通の手紙を片手に部屋に戻るなり机の上に広げる。

「…とにかくこの中に母のものがないのは確かだわ」

全て星野 桃と書かれた自分宛の手紙は用紙がどれも違った。高級そうな薔薇の印が押された黒い手紙にすみれの押し花が貼られた薄い紫色の手紙や習字の文字で書かれている和用紙の手紙、白に緑のストライプがある手紙や真っ赤な用紙に銀色のラメが入ったお手紙と様々なお手紙があった。だが、中身はどれも同じな様で…

「…最悪」

思わず中身を見るなり顔が引き攣った。中身は彼等全員ほぼ同じような内容の懇願書であり私に対する協力要望だった。勿論、その協力はヒロインである苺との恋の協力であった。

一通目、生徒会会長鳳梨 グアバ
『昨日も頼んであげた通りお前しか協力出来るやつはいない。嫌だと言ってもお前に拒否権は与えない。分かったら大人しく俺様に協力しろ。追伸、協力しなければお前を捕らえて無理にでも協力させてやる』

「本当は生粋のヘタレのくせによく言うわ」

本心はヘタレ感満載に懇願してそうなグアバに内心呆れた。

二通目、生徒会副会長柿本 蜜柑
『先日、お頼みしたように私と取り引きをし互いに利益を得た上で裏で鳳梨 グアバの力になって頂きたい。勿論、あなたの願いは必ずお叶え致します』

「私の願いはあなた達と関わらない事です。それに、主人の願いを叶えたいというがこの腹黒メガネの事だからそれが本心かどうかは定かじゃないな」

三通目、担任兼生徒会顧問棗 杏子
『もものん元気~?昨日のお願いをどうしても叶えて欲しくてさ~、頑張ってお手紙を書きました!パチパチパチ!それで、そのお願いというのが僕の好きな人とのらぶらぶを協力して欲しいなぁ~って!もものんのらぶらぶぱわーをどうか僕にちょ~だいっ!』

「どうやら私は宇宙人から手紙を貰ったらしい」

あまりにも意味不明すぎる言葉に人間ではないと考えた。

「もものん定着してるし、大体らぶらぶぱわーって何でしょうか?そんな人間離れしたパワーあるわけないです」

四通目、生徒会会計木通 檸檬
『桃ちゃ~…』

「パス!」

読むまでもなく檸檬の手紙を直ぐに閉じた。

五通目、生徒会監査梅木 ライチ
『突然手紙を送って申し訳ない。実は、君に折り入ってお願いがあってこうして手紙として送った次第だ。俺にはある悩みがあるのだが出来れば協力してくれたら幸いです。追伸……ありがとう』

「梅木 ライチまで来るなんて思わなかった…というか朝の出来事なんて消去したのにまんまと掘り返されて他の攻略対象者達と同様お願いなんて…」

あまりの状況にこめかみを押さえる。

「悩み事なんて皆と同じだろうし…はぁ……」

他の攻略対象者達とは違って最後に添えられた朝の冷却シートへのお礼の言葉など誠実極まりない内容だが中身は対して皆と変わらない事から溜息しか出てこなかった。そして、同じように皆携帯のアドレス入りという事から登録しろという意味だと察した。

「もうこうなったらやるしかないのかも…」

諦めに似た気持ちでいつもは母に送るために使う便箋びんせんと桃色の封筒を五つ取り出し書き出しそれぞれ同じ文面だけを記し封筒に入れた。

内容はこうだ…

『私は裏でしか協力しない。それが無理だと言うのなら死んでもお断りします』星野 桃
























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