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二章 《林間合宿編》

私がお姉様!?協力者は最強?ポンコツ?

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突然現れた盗撮魔は予想とは違い過ぎる人物だった。

「お久しぶりです、…っ!」

何故か私の事をと呼び可愛らしくちょこんとお辞儀をする突然現れたクマのぬいぐるみを抱える少女に唖然とする。

「ずっと二人っきりになる機会を伺いながらお姉様コレクションを集めていたのですけど…ようやく二人っきりになれてココは嬉しいです!」

二人っきりになる機会を伺っていた?コレクションを集めていた?全然話が見えない…というか

「お姉様ってまさか私の事…?」

「ええ、勿論!」

銀色の瞳を輝かせながら満面の笑みで即答する少女に頭を抱えたくなった。

…厄介な人に捕まった気分

「でも、その分お姉様のコレクションが沢山出来てある意味ココは満足です」

「あ、あの…さっきからコレクションって何の事?それにこのビデオカメラで撮ってたのってあなたなの?」

「はい!私です!」

それさらっとハッキリ言う事じゃないと思うんだけど

「お姉様と出会ったあの日私は決意したんです」

「あの日?」

「えぇ!?覚えてらっしゃらないのですか!?あの日ですよ!私があの猿達に絡まれていた所を白馬に乗って華麗に助けてくださったじゃないですかっ!!」

「は、はくば?」

私はそんなものに乗った覚えはないぞ?そもそも馬なんて乗れないし…ん?

「今、猿達に絡まれていたって言った?」

「はい!あのお馬鹿な猿達です」

猿達という単語に前に同じ言葉を言っていた人物がいたような気がした。

確か、あれは役職の集まりの時だっけ…?集まりで猿達なんて単語聞かなかったし、向かう途中で誰かが絡まれてたから咄嗟に助けてしまった時の事かな?ん~……あ!

「あの時のロリっ子!?」

「思い出してくれましたか?お姉様!?」

グイッと目の前に迫る特徴的な翡翠色のボブヘアに銀色の瞳、そしてクマのぬいぐるみを抱える少女に記憶が重なった。

あの時絡まれてた子だ

集まりに向かう途中で怖気もせず囲む女子達に猿と言っていたロリっ子の少女だと気づき納得と同時に、その日から付け回されていたと思うとゾッとした。

「あの時絡まれてた子だよね…?どうして付け回してたの?」

「それは……お姉様に恋をしてしまったからですっ!」

「は?」

その爆弾発言に私の思考回路は一瞬にして停止した。

この子は何を言っているのだろう?前に似た言葉を言ってきた奴もいたが、まさか女子からも言われる羽目になろうとは思わなかった。

まさかの展開に顔が引き攣りながらも先を促す事にした。

「それよりも、二人っきりになってまで私に話したい事って何?」

「お姉様、今私の告白スルーしました?」

「告白も何も断るしか私には出来ないわ」

「それなら大丈夫です!お姉様の妹志願なので」

「は?ごめん、理解不能なんだけど…」

「だ~か~ら、お姉様の妹にして頂けるようお許しを貰う為に二人っきりになりたかったのです!私にとってお姉様は唯一無二の王子様であり尊敬すべき憧れの存在なのですっ!なので、どうか私を妹にしてください!!」

「断る!」

「なっ…!?」

グイグイと目の前に迫る彼女に即答で拒否した。

「ど、どうしてですか!?お姉様の為なら何でもしますしどんな要望にもお答えします!お望みならば妹とは言わず……奴隷でも構いませんよ…?」

…こ、この子完全に危ない奴だ

「そういう所が駄目なんだって」

「そういう所?」

いかにもどこが?という表情でキョトンと首を傾げる彼女に更に頭を抱える。

はぁ……どうしたものか

この滅茶苦茶過ぎる状況からどう逃げようか…それだけが脳内に巡っていた。

「とにかく、私は妹を必要してないし、悪いけどこれ以上あなたに関わりたくない。だから、あなたもこれ以上私に干渉しないで」

冷たく突き放す様に言い放ち彼女が口を開く前に背を向ける。

「……星野 桃」

え…?

ポツリと呟かれた言葉に歩もうとした足を止める。

「二年二組・一般クラス普通科、保育園の頃から星七苺と一緒で後ろの席」

え?え?

「幼い頃に両親が離婚し母親と二人暮しをしていたが、高校からは寮暮らし。時折母親に手紙を送るほどの母思い。だが、保育園の頃から友達ゼロ」

なっ…!?

「な、何で…」

堪らず振り返ると彼女は小悪魔的な笑みを向ける。

「ふふっ、お姉様の事なら何でも知ってますよ?例えば、運動が苦手で学力は平均。スリーサイズは上から百四十二・エーの…」

「わわわわぁっ!??わ、分かったからそれ以上言わないで…っ!?」

慌てて彼女の口を塞ぎ言葉を遮る。

「…ぷはっ!これで妹にしてくれますか?お姉様」

「うっ……」

逃げる事は出来ないとばかりに可愛らしく首を傾げる彼女にそれ以上否定する事が出来なかった。

この子…思ってたより遥かにやり手だ

「……保留で」

「保留ですか…?」

何とか絞り出した返答に渋々首を縦に振る。

「そうですか…それでもココは大丈夫です!だって、にお姉様は確定する事になりますから」

「は?」

何故に?とばかりに聞き返すと、彼女ははぐらかす様に話を逸らした。

「直ぐに分かりますよ、ふふっ」

ん?

意味不審なその言葉の意味を私は彼女の言う通りに知る事になる。

 *

何事もなく午前の授業が終わり早めに昼休みを済ませるといつもより早い午後の授業の為、私は東舎一階体育館へと向かった。

「……どい…て…っ」

未だ列すら出来ていない人混みの中をかき分け前へと手を伸ばしながら何とか自分の位置へと辿り着いた。

…もう嫌

全校生徒の半分と言ってもその人数数は四捨五入して言えば二百なわけで、その中を小柄な私が通り抜けるのは至難の業だ。

「あ、やっときたきた!これで全員集合だね!」

その言葉にようやく息が整った胸をなで下ろし顔を上げると傍から見たら美男美女の面々の姿があった。

「いいな~…私もあの中に入りたかった」

「仕方ないわよ、あみだくじだから」

「あ~あ、もっと運があったら良かったのになぁ…」

羨ましそうに愚痴を漏らす女子生徒達に私は一言申したい…

逆だ!運があるのはあなた達の方だよ!代われるものなら喜んで代わりたいわっ!

…と私個人が訴えたとしてもそんな願いが叶うわけもなく、あみだくじによって決められた班に従うしかなかった。
今日の午後から始まる授業は林間合宿での班それぞれの顔合わせを含め当日の話し合いそして、交流を行うものだった。よって、全校生徒が一つの体育館でそれらを行うには狭すぎるという理由で二つに分けられたのだ。そんなわけで、私はというとあみだくじによって同じ班になったはた迷惑軍団…否、美男美女軍団を冷めた目で見ていた。

こいつらと林間合宿なんて地獄でしかない

「コホンッ…では、自己紹介からいきましょうか…?」

一つ咳払いをし仕切る柿本 蜜柑の言葉に真っ先に待ってましたとばかりに木通 檸檬が名乗りを上げた。

「はいはーい!まず俺からね!え~と…この度この班の班長になりました二年の木通 檸檬です!皆、俺に湯煎ゆせんに乗ったつもりで安心して着いてきてね!」

「馬鹿!湯煎じゃなくて大船でしょうが!」

「うっ…どっちも同じだからいいじゃん」

「湯煎と大船じゃ似ても似つかないわよ」

檸檬の間違いな言葉に呆れたように桜桃 小豆が叱咤した。

「あんちゃんは細かいな~」

「細かくない!檸檬がふざけた事を言うからよ」

「まぁまぁ、馬鹿に何を言っても無駄ですよ。あまり檸檬に突っかかると血圧上がりますよ?小豆」

「平気よ、蜜柑先輩。体のメンテナンスは完璧だもの」

ドヤ顔で言い張る小豆に蜜柑と檸檬は疑いの目で見ていた。

「…毎日深夜まで機械扱ってる人がよく言うよ」

「なっ…暇さえあれば女の子のお尻追い回してるあんた達よりマシよ!」

「残念でした~!俺は苺ちゃんしか眼中にないもん!」

「心外ですね…私も檸檬と同じですよ」

「ふんっ、よく言うわ。言っておくけどね、苺はあんた達には宝の持ち腐れでしかないんだからさっさとしっぽ巻いて手を引きなさい!苺の心友としてあんた達なんか私が認めないんだから!」

いつの間にか三人だけの空間になり、私は完全に置いてけぼり状態になってしまった。

これ私居なくてもいいと思うわ

「完全に私達いる意味ないですよね」

うんうん、ほんとそ…

「え……うぎゃっ!?」

不意に隣から聞こえた声に視線を向けるとそこには早朝に出会った翡翠色の髪のストーカー少女がいた。

「な、何で…!?」

「何で?って言われても同じ班だからですかね…?」

「同じ班って…」

「ふふっ、では改めて自己紹介しますね。お姉様と同じA班の保険係になりました、一年白波しらなみココナです。これから、よろしくお願いしますお姉様…っ!」

「ちょっ!?よろしくされたくないから…っ!!」

勢いよく飛びかかってくるココナの額を押さえ付け制する。

「似た者同士なんですからよろしくしましょうよ~!お姉様~!」

「どこが似たもの同士だ!?来るな…っ!」

「同じのお姉様と私は似たもの同士ですよ?」

「え……」

「あれ?お姉様…?」

ココナの言葉に額から手を離し制するのを止める。

同じってどういう事?それじゃまるで私と同じモブキャラ…

ドンッ!

「ひよこちゃん同士で何をお話してるの~?僕もまぜてまぜて~?」

「”ぎゃっ!?”」

「うっ…」

背後からココナものとも肩に手を回し覗き込んできた棗 杏子に驚き反射的に二人でそれぞれの足を踏みつけた。

どこから湧いて出た!?この宇宙人

「二人とも可愛い顔して暴力的って反則だよ~!」

「反則も何も私のお姉様にセクハラは止めてください」

「女子の背後をとる方が反則です」

「これはまた…ズキュンバキュンッ!のセリフ過ぎてメロメロりんだよ~!!」

「”ふんっ!”」

「グハッ…!?」

意味不明な言葉で飛びついてくる棗 杏子にこれもまたなのだが、腹部にぐーぱんちを食らわせたのだった。

まぁ、本当は顔面が良かったけど公共の場でイケメンの顔を殴ったとなれば私の身の方が危ないわ

「きゃぁぁぁっ!!さすがお姉様です!ココの為にセクハラ変態男を退治してくれるなんて…っ!」

「ちょっ…いくら事実そうでも先生なのだから、その様な言動は駄目」

「はい!お姉様」

嬉しそうに返事をすると何故か可愛い子猫の様に腕にくっつき頬ずりをしてきた。

「はぁ……早々に妹確定する事になるってこういう事か」

「はい!同じ班となれば最低でも一泊二日は逃げられませんし、存在感ゼロのお姉様を助けられるのは認識出来る私しかいませんから」

確かに私を助けると言った自称友達(仮)の木通 檸檬が必ずしも助けてくれるとは限らない。また私の存在を忘れる可能性だってある。だが、彼女は…白波ココナは何故か私を信仰し自ら妹志願をする程にハッキリと認識している。そんな彼女自ら助けたいと言ってくれるのは願ったり叶ったりなのだが……信用性に掛けるんだよね

「ん~?お姉様どうかしました?」

銀色の瞳が大きく見開きながら覗き込むココナに肩を竦める。

「決めた」

「え?」

「あなたを妹にしてあげる」

「えぇ!?それじゃ…」

「だけど!…条件がある」

「はい!お姉様の言う事ならどんな事でも従いますっ!」

「私の言う事は必ず聞く事」

「はい!」

「盗撮等、ストーカー禁止」

「は…えぇ!?何でですか!?」

「何でも何も犯罪だからよ。だから、今までのコレクションも没収」

「なっ!?うぅ…お姉様の激レアショットがぁ…」

泣きながら渋々懐から取り出された携帯とビデオカメラを没収し中身のデータを削除していく。

しかし、ここまで撮られてたなんて…

誰にも知られているはずも無いウサギ小屋の近くで昼ご飯を食べている様子やジョギングしている様子等など、隠れて撮っていたにしては沢山の量の写真や動画の数々に顔が引き攣る。

…ん?

「何でこんなものまで!?」

携帯フォルダには保健室で棗 杏子に包帯で縛られていた時の写真まで入っていた。

「あー、それはお姉様を閉じ込めて窓越しにこっそり撮ったやつですね」

「わざわざ説明しなくていい!抹消…!」

「あっ!?うぅぅ……」

削除ボタンを押し完全に過去の汚点を抹消した。

「…せっかく鍵まで閉めてゲット出来たやつなのに」

「ま、まさか…あの時ドアが開かなかったのって…」

「へ?私が閉めたからですよ?」

やっぱりお前かァァァッ!!!

若干薄々そうではないかと推測は立ててはいたもののまさか本当にそうだとは思わなかった。

「……あの時、ドアが開かなかったせいでどんなに苦労した事か」

「お姉様?」

「くっ…次こんな真似したら妹解雇!牢屋入り!」

「うぐっ…誓って一生しませんっ!!!」

バシッ!

「っ…」

必死に懇願するココナにデコピンという処罰を食らわせ許す事にした。

私はそこまで器は小さくない。おおらかな心でいこうではないか。

…と無理矢理自身に言い聞かせた。

その後もココナが集めた私の写真・動画等を削除し続け全て抹消へと至った。

「さようなら…私のコレクション。さようなら…お姉様激レアショット…」

無くなったデータを泣きながら漏らすココナの様子に同情の気持ちなど沸くことは一切無かった。

「最後に…」

「へ…?」

「…私を裏切らない事」

「え、それって…」

「誓えるの?」

「も、勿論です…っ!ココの全てをかけてお姉様を一生お慕い申します!!!」

真っ直ぐに向けてくるキラキラと純粋な瞳には一切の曇りはなく嘘という言葉は当てはまらなかった。

「これからよろしく……白波 ココナ」

「っ~~~~~!!!お姉様、大好きです…っ!」

「おっと…」

勢い余ってタックルしてくるココナをさらりと交わす。

「ギャフンッ!?」

「抱き着く禁止」

「イタタタタ……お姉様のいけず」

見るからにポンコツの可能性しかないこの協力者は鬼が出るか蛇が出るか今の所定かではないが、私は白波 ココナを受け入れる事にした。互いの需要と供給もそうだが…

…たまにはいいのかもしれない。嬉しいと感じるのも…






























































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