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二章 《教育編》~夏の誘い~

潜入!逃げ場なしの生徒会室!?

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『…これ以上俺達には関わるな』

ごめん、その忠告は聞けそうにないや

桃は桜桃 凌牙の言葉を思い出しながら目の前にある”生徒会室”と書かれたプレートを見つめると手の中にある小さなを握り締めた。

今なら誰も居ない。今しか入れるチャンスはない

水泳大会の翌日、授業が終わり生徒達が各々部活や帰宅をしている頃生徒会室は静寂に包まれていた。何故なら、この時間帯は生徒会メンバー全員が校長室に呼ばれその後職員室にて水泳大会で勝利した白組のクラスの教師達へと優勝商品の贈呈が行われる事になっていたからだ。

スー…

…探すとしたら棚辺りかな?

誰も居ない事を確認し開けた扉を閉めると静かな足取りで棚のある部屋の端へと近づく。

古びた木製の棚か…

複数の引き出しがある長方形の木製の棚に手を掛け片っ端から開けては確認し閉めていくが怪しい物は一切なかった。

んー…あと、怪しい場所って言えば…

棚から離れ当たりを見渡すと窓付近にある正方形の小型なスチール製の引き違い書庫に視線が止まった。

探してみるか

書庫に近づき屈むと戸に手を掛ける。

あ、開く…この鍵じゃないって事か

鍵穴のある書庫に手の中にある小さな鍵を見比べた。

可能性があるとすれば中だけど…

開けた書庫の中をのぞき込むと綺麗に整理整頓されたファイルや書類の数々があり更に奥を覗くと正方形の木箱が一つ置かれていた。

木箱?

手を伸ばし木箱を取り出すと中心に鍵穴の様なものがあった。

これって…

手の中にある小さな鍵を見つめ息を呑む。

生徒会会長である鳳梨グアバが部屋の前で泣きついてきた一件の際に柿本 蜜柑から言われた”迷惑の謝罪”という物は期末テストが終わったその日の帰宅後に寮母を通して渡された。蜜柑の”迷惑の謝罪”という物は真っ赤な薔薇のシーリングスタンプが押された白い封筒だった。その中身を開くと小さな鍵と共に一言メーセージが添えられていた。

『貴方が知りたい事を教えます』

…という謎のメーセージは桃が生徒会室に潜入するきっかけとしては十分な言葉だった。

知りたい事…私が知りたいのはゲーム内容にはなかった攻略対象者達の過去。そして、ヒロインである星七 苺に対する違和感の謎

「っ…」

意を決して、手の中にある小さな鍵を木箱の鍵穴へと挿し込む。

ガチャッ…

「開いた…っ」

恐る恐る木箱のふたを開け中身を見るとそこには見たことも無い淡い色で彩られた可愛らしい花々が描かれている絵本が一冊あった。

「”果実のプリンスと蜜華姫”…?」

中心に書かれた聞いたことも無いタイトルに首を傾げる。

「一体どんな話なん‥」

…コ…ッ……

「っ…!!?」

絵本の中身を開こうとした瞬間、生徒会室に近づく足音が聞こえ急いで絵本を取り出すと木箱の蓋を閉め元の場所に戻し戸を閉める。

今、ここを出たら危険過ぎるし…もう身を隠すしかない…っ

 *

…バンッ!

「んー!やっと終わった~!」

「りん、扉は強く開けるものではないですよ」

「むぅ…強く開けたのは謝るけど、やっとあの長~い校長の話から解放されたんだよ?仕方ないじゃん!」

「俺もりんりんに同感!その後だって校長が職員室に行って渡せばいいのに何で、生徒会が渡さなきゃいけないのか分からないし」

「ほんと面倒だよね。あ~あ、僕もライくんやりょんくんみたいにサボりたかったな~」

林檎に続いて檸檬までもが不満を漏らす姿に蜜柑は溜息混じりに肩を落とした。

「はぁ…生徒会の仕事をこうも投げやりだと先が思いやられますね。それに、ライは茶道部で部長ですし凌牙はサッカー部で試合が近いのですから参加出来ないのは仕方ないのですよ?」

「僕もヴァイオリンのコンサート近いもん」

「俺も夏のコンテストがあるんですけどー?」

「りんのコンサートは九月に入ってからですよね?檸檬もコンテストに出す服は夏休みに制作すると聞きましたが?」

「”うっ…”」

蜜柑のぐうの音も出ない言葉に林檎と檸檬は苦虫を噛み潰したような顔をするとそれ以上の反論を止めた。

「お前ら少しは身の程を知れ。蜜柑に勝てると思ったら大間違いだ」

いつも蜜柑先輩に反論しては言い負かされてる人がよく言うよ

席に着き、さも当たり前の様に言うグアバに檸檬は呆れた視線を投げかけると自身も席に着いた。

「はぁ…引き出しのお菓子でも食べよっかな…」

カタッ‥

ん…?

引き出しに入れていたチョコのクッキーが入った袋を取り出し閉めようとした瞬間、机の下から赤い線が入った上靴が見えクッキーの袋を持つ手が止まる。

もしかして…誰か居る?

クッキーの袋を机の上に置き恐る恐る覗き込む。

「……っ!?もっ…!!?」

グイッ‥

「っ…」

机の下を覗き込むなり膝を抱え座り込む桃の姿に思わず声が出そうになり慌てて片手で口を塞ぐと、桃の手がズボンの裾を引っ張り小さく首を横に振った。

「何?どうしたの?下に何か‥」

「うわぁぁぁぁっ!!?」

グイッ!

「うぷっ!?」

隣に居た林檎が訝しげに机の下を覗こうとした瞬間、直ぐに林檎の頬を両手で挟み顔を上げさせる。

「りんりんの肌すっごくスベスベで綺麗だね!さすが、りんりん!手入れもちゃんとしてるなんて凄いよ!」

「それって、褒めてるの?けなしてるの?どっち?」

「褒めてるに決まってるじゃん!」

手を離し笑顔で何度も頷くと、林檎から疑いの目が消えた。

「ふ~ん…それならいいけど」

あ…ぶなかったぁ~!あと少しで机の下に桃ちゃんが居る事が…ん?そうだ!桃ちゃんが机の下に居るんだった!?

「うわぁ…れ~くん、その顔気持ち悪いんだけど」

いつも嫌味にしか聞こえないりんりんの言葉も今は全然痛くも痒くもないや

机の下に桃が居る状況に檸檬の笑みは益々深まった。

あ、そうだ!メールや電話だと音が鳴っちゃうけど筆談だったら…

引き出しからノートを取り出し定規を使いながら白紙のページを切り取ると小さくした正方形の紙を二枚作る。

「れ~くん、それ何してるの?」

「んー…小さな折りづるを作ろうと思って…」

「折り鶴?ついに、頭までおかしくなったの?」

「ただの暇つぶしだって」

怪しまれない様に表面的には折り鶴を作って終わったら二つ目の折り鶴を桃ちゃんに…

折り鶴を作り終えると引き出しを開け一つ入れると、もう一つを手の中に隠し引き出しを閉めるのと同時に机の下に投げ込んだ。

胸元のポケットにボールペンが挿してあったから大丈夫だと思うけど…

怪しまれない様に自然に片手だけを机の下に入れ手を開くと、直ぐに小さな紙が手の上に乗せられた。

バレないように自然に…

乗せられた紙を握りしめ自然に机の下から片手を上げると袖で隠しながら手の中にある紙を開く。

『たすけて』

ですよね…‥

「はぁ~…」

桃ちゃんをここから逃がすにはどうすれば…

「何?今度は、深い溜息なんかしちゃって。こっちまで暗くなるから止めてよね。罰として、このクッキー貰うから」

「りんりん…」

「うっ‥溜息した罰なんだから自業自得だよ。クッキーは返さないからね!」

潤んだ瞳で見つめる檸檬に、林檎は思わず奪ったクッキーの袋を抱き締めた。

「ううん、クッキーはりんりんにあげるよ。むしろ、りんりんに食べて欲しい」

「は?何言って‥」

ギュッ‥

「っ‥!?」

突然、手を握られ抱き締めていたクッキーの袋が膝の上に滑り落ちた。

「りんりん、ありがとう!おかげでいい事思いついたよ!」

「さっきと違う意味で気持ち悪いんだけど」

至近距離でキラキラと目を輝かせる檸檬に、林檎は眉をひそめ怪訝な顔をした。

「これから、俺の部屋でりんりんも蜜柑先輩も会長も生徒会メンバー全員でお祝いパーティーをしよう!」

「”お祝いパーティー?”」

手を握られている林檎も含め新しい書類に目を通していた蜜柑や終わった書類の片付けに勤しんでいたグアバは突然変な事を言い出した檸檬に目を細めた。

「お祝いって何のお祝いだ?」

「それは勿論、期末テストが無事に終わったお祝いとか水泳大会でライくんが活躍したお祝いに決まってるじゃん!」

「お祝いかぁ…」

笑顔でそう言う檸檬にグアバは肩を竦めた。

「お祝いは分かりました。ですが、私は檸檬の部屋でお祝いをするのはいささか不安です」

「不安?どこが?俺の部屋、特進クラスだから一人部屋だし皆入れるよ」

あっけらかんとする檸檬の返答に蜜柑は眉をぴくりと動かした。

「そういう事ではないのですよ。檸檬の部屋は布切れや洋服ばかりが溢れていて足の踏み場すらないのでお祝いが出来るわけがないと言っているのです」

「それは、デザインのアイデアの為で色々とあるだけでお祝いぐらい出来るよー!」

「そうですか…では、少しも足の踏み場がないと分かれば私が片付けても宜しいという事ですね?」

「え!?だ、大丈夫だよ!そんな事にはならないし…‥多分」

「ほんとにいいの?れ~くん」

「へ?」

「蜜柑先輩が片付けだけで済むとは思えないよ」

「うっ…」

林檎の言葉に部屋にある数々の布切れや洋服達を思い出し危機感を感じた。

いや、でも…こうしないと桃ちゃんを逃がせないし…‥

軽く頭を横に振り嫌な予感を振り払うと再度笑みを浮かべる。

「それでも、俺の部屋で皆で一緒にお祝い出来る事の方が嬉しいし」

「珍しいね。れ~くんが諦めないなんて」

「だって、お祝いパーティーだからお菓子が沢山出てくるじゃん?それに絶対釣られない生徒会メンバーは居ないから全員参加確定でしょ?だから、最近色々と忙しかったのもあるし皆で集まる機会なかったから全員一緒に居れると思うと嬉しくて…」

「”檸檬(れ~くん)…”」

「よし!じゃあ、今すぐ俺の部屋に集合ね!」

「”は?”」

しんみりとしていた空気が一瞬にして変わり三人の動きがピタリと止まった。

「今すぐってまだ仕事が終わってないですし…」

「それ、後でも出来る仕事でしょ?蜜柑先輩」

「それはそうですが…」

「善は急げだよ!部屋の鍵は空いてるから先に着いた人から入っていいよ。あと、りんりんと蜜柑先輩は美味しい紅茶とお菓子の持参を宜しくね!会長は美味しいお菓子の貰い物があったら持って来てね!俺は棗先生とライくんと凌牙くんにお祝いパーティーの事を教え‥」

コトッ‥

急いで机の上を片付けていると手前に置いていたボールペンが床に落ちてしまい苦笑いを浮かべながら三人に向き直り口を開く。

「ごめん、先に行ってて。俺もボールペンを拾ったら直ぐに行くから…っ」

「そこまで言うなら、お前も上物のお菓子があると思っておくからな」

「言い出した人が遅刻するのは止めてよね」

「早く来ないと洋服の数々がどうなっているか分かりませんよ、檸檬」

最後の言葉が一番怖く感じるんだけど…

グアバ・林檎・蜜柑が出て行くの見送り息を着くと、床に片膝を着き机の下を覗き込む。

「凄い演技力だね」

顔を見合せた側から真顔で言う桃に苦笑いを零しながら床に落ちたボールペンに手を伸ばす。

「全然凄くなんかないよ。取ってつけた様な言葉しか思いつかなくて、これでも結構焦ってたし…」

ボールペンを拾い胸元に挿し込むと少しの間が空き桃が口を開いた。

「…‥ありがとう」

「…?」

「私の為に頑張って言葉を考えくれて、ありがとう」

「っ…」

大して笑みを浮かべるわけでもなく真顔のまま素直にお礼の言葉を口にする桃に思わず息を呑むと引き寄せられる様に艶やかな銀色の髪とその柔らかな頬に手を伸ばす。

あー…何でこんなに…‥

触れた頬から伝わる熱を感じながら銀色の髪で隠れたおでこにそっと唇を寄せる。

…‥可愛いのかな‥?

唇を離すと手の中で赤くなる桃に鼓動が脈打つ。

「明日の昼休み、屋上に来て」

「…?」

「その絵本の事を教えてあげる」

「っ…!?なっ‥」

…バタッ‥

桃が目を見開き慌てて声を発するのと同時に、檸檬の手は離れ鞄を片手に生徒会室を去って行った。

「まさか、バレてたなんて…‥」

制服のシャツの中に隠していた絵本を背中から取り出すと、桃は力が抜けた様にその場にへたり込んだ。




















































    
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