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二章 《教育編》~夏の誘い~

ライチの悩み相談

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水泳大会から一週間以上が経ち、暑さが増している七月の中旬にて夏休み前という事もあり放課後の生徒会室では書類の片付けや室内の清掃に勤しんでいた。約一人を除いては…‥

「うわっ!?これずっと前のやつじゃん!誰?捨てなかった人」

「その書類はりんりんが後回しにしたやつだよ」

「えー?そうだっけ?」

机の上に積み重なる書類を前に林檎と檸檬は手を動かしながらもたわい無いやり取りを繰り返していた。

「蜜柑先輩、これここであってますか?」

「もう少し右でしょうか?」

「了解です」

蜜柑の指示の元、凌牙は綺麗に拭いた絵を椅子を使い壁に掛け直す。

「えーと…これはこっちのファイルだったか?」

「違いますよ、グアバ。それは最近の紙なので、こっちのファイルにお願いします」

「ああ、分かった」

グアバは窓付近にあるスチール製の引き違い書庫に置いてあるファイルを引き抜きながら放置していた書類を挟んだ。

「…会いたいのに会えない」

「急に何ですか?ライ」

何もせずに自身の机の上で突っ伏しては悩み込んでいたライチを蜜柑は冷ややかな目で見つめた。

「ずっと探してるのに見つからない。会いたいのに会えない…どうしたらいい?」

「もしかして、水泳大会の時に言っていた探し人の事ですか?」

「うん」

「へー、ライくんが他人に興味持つなんて珍しいじゃん」

「だよねー。まさかと思うけど、その探し人って女の子だったりしてー?」

「うん」

「”えっ!?”」

予想だにしなかった返答に話の輪に入ってきた檸檬と林檎は目を丸くした。

「ライくんが苺ちゃん以外の女の子に興味を持つなんて…」

「もしかしてだけど、苺ちゃん以外に好きな人が出来たの!?」

「好きな人…」

好きだけどそうじゃなくて…

「…友達になりたい人」

「友達?」

「うん」

林檎の問いかけに小さく頷くとそれを聞いていた檸檬が口を開く。

「ライくんは、何でその子と友達になりたいって思ったの?」

理由…

「思ってもない事を言ったりちゃんと叱ってくれたり…でも、全部優しいがある…一緒に居ると暖かくて安心する、ドキドキする時もある…あと、笑うと可愛い。困ってるのも可愛いから困らせたくなる」

「それって…」

頬を綻ばせながら語るライチに”友情より情愛の方では?”と檸檬を含めその場に居る全員が思った。

「あ、そうそう!探してる人が見つからないって話だったよね?どのクラスかは分からないの?」

どうしていいか分からない空気に堪らず檸檬が話を切替え問いかけると、ライチは首を横に振った。

「分からない」

「そ、そうなんだ。じゃあ、名前は?流石に、名前は分かるよね?」

名前…そう言えば聞いた事なかった

「知らない」

「”え…‥”」

真顔で答えるライチに檸檬を含めその場に居た全員が言葉を失った。

「どうしたの?」

「ラ…ライくん、そんなに好きな人の名前ぐらいちゃんと知らなきゃ駄目だめだよっ!?」

「わっ‥」

勢いよく肩に掴みかかるなり叫ぶ檸檬に戸惑いながらも口を開く。

「好きな人じゃなくて友達になりたい人」

「もうっ!そんなのどっちでもいいから!名前は大事だよ。その子の名前を呼んだり逆に呼ばれたりされたら嬉しいでしょ?」

名前を呼ばれたり…‥

檸檬の言葉に少しの間が空き考え込むと頬が僅かに緩んだ。

「…嬉しい」

「でしょ!名前を知るのは一番大事な事だよ」

「うん」

「でも、困ったなぁー。クラスも名前も知らないとなると…何年生かは分かる?」

確か、練習や水泳大会で着てたジャージって…

「赤だった」

「赤って事は二年生か…試しに、女子寮の寮母さんに聞いてみたら?二年生で姿形の特徴を言ってみたら分かるかもしれないし」

女子寮か…

「分かった、そうする」

「うん、明日にでも…って何してるの!?」

机の横に置いていた青色の小さな紙袋を持ちグアバ越しにある窓に駆け寄ると、檸檬の驚く声が室内に響いた。

「何って、聞きに」

「今から!?」

「うん。早く名前知りたいし、会いたいから」

「だからって、窓から行く奴があるか」

グアバは窓を開け今にでも飛び出して行きそうなライチのシャツを掴み止めると不満気な声が漏れた。

「ここからの方が近い」

「駄目ですよ、ライ。近くてもちゃんと扉から出入りして下さい」

「でも…」

蜜柑のとがめる声に反論しようと言いかけた口が思わず閉じる。

いつも窓から出入りしてるから今更なんだけど、蜜柑に反論したら行くのが遅くなるから止めとこう

「…分かった、扉から行く」

「是非、そうして下さい」

ライチは窓を閉め扉の方へ駆け寄ると背後を振り向く事なく生徒会室から出て行った。

「嵐みたいだよね、ライくんって」

「確かに。振り回すだけ振り回して、去る時は一瞬だもん」

林檎と檸檬は顔を合わせるとクスッと小さく笑を零した。

「あのやる気を生徒会の仕事にも活かしてくれたらいいですけど」

「それは無意味に等しいですよ、凌牙」

「そうですね」

ライチが出て行った扉の先を凌牙と蜜柑は冷めた目で見つめていると席に座り直したグアバが口を開いた。

「はぁ…何か疲れたな。休憩にでもするか」

「そうですね。丁度、貰い物のクッキーがありますしお茶にでもしましょうか」

「”賛成~!!”」

蜜柑の声に林檎と檸檬が元気良く返事をするとそれぞれ仕事をしていた手を止めライチを除いたお茶タイムが始まったのだった。

 *

「寮母さん、ただいま~!」

「お帰りなさい。明日から夏休みだからって遊んでばかりいては駄目よ?」

「はーい、分かってるって」

まずは、一般クラスの女子寮の寮母さんから聞いてみようかな

生徒会室を後にし一般クラスの女子寮の前へと着いたライチは、寮母と話し終えた女子生徒を見送ると清掃を再開した寮母に近付いた。

「あの、聞きたい事が…」

「あら?あなたは確か、特進クラスの梅木 ライチ君?」

「はい。人を探してて…二年生で銀色の長い髪で小柄な女子生徒を知りませんか?」

「二年生で銀色の長い髪の小柄な女子生徒…?んー…あ!もしかして、桃ちゃんの事かしら?」

「桃?」

何処かで聞いた様な…?

聞いた事のある単語に過去の記憶を思い返す。

『それ、最後の一個。最近は桃が好きだから‥』

『ゲホッゲホッ…‥』

『大丈夫…っ?』

『だ、大丈夫‥っ!』

…あれか

水泳の練習中に桃と交わした会話を思い出し胸の辺りが熱くなる。

桃って名前だったんだ

「梅木君?どうかしたの?」

「いえ、何も。桃の上の名前って何ですか?」

「星野よ。星野 桃ちゃん」

「星野 桃…‥」

小さく呟いた後、ライチの端正な顔が崩れ笑みが零れた。

「あら…」

「桃は今、部屋に居ますか?」

「確か、まだ帰って来てはない筈だけど…」

「そうですか…これ、桃に渡して頂けますか?」

ライチは手に持っていた青色の小さな紙袋を差し出した。

「ええ、いいわよ」

「ありがとうございます。では、失礼します」

ライチは小さく会釈をすると早足でその場から去って行った。

「女の子達が見たらきっと騒いでいたわね」

一瞬、見せたライチの笑みを思い出し寮母は小さく笑った。

 *

コンコンコン…

「ん?何だ?」

窓から聞こえる音にクッキーを口にしていたグアバは振り向くと、そこには先程出て行ったライチの姿があった。

「ゴホッ!?ゲホッゲホッ…ゴクンッ…」

「開けて」

「扉から出て行ったのに何で窓から戻って来るんだ!?」

グアバは胸を摩りながら窓を開けると、ライチは窓枠に手を掛けあっという間に登るなり室内へと着地した。

「ふぅ…」

「ライくん!?さっき出て行ったばかりじゃ…」

「行って戻って来た。それより、何か甘い匂いがする」

「”っ…!?”」

室内に入るなり辺りを見渡し眉を寄せるライチに、檸檬を始めその場に居た全員が息を呑んだ。

「な、何言ってるの?ライくん。そんなわけないじゃん!」

「そうだよ!甘い匂いがするのはきっと紅茶を飲んでたからだよ!」

「檸檬、林檎…口に何かついてる」

「えっ!?嘘!?」

「えっ!?どこどこ!?」

指摘され思わず口元を触る二人にライチは表情を曇らせた。

「僕が居ない間に皆だけお菓子食べてたなんて…」

「”っ…!?”」

今にも泣き出しそうなライチの表情に戸惑いの空気が流れた。

「あ!こんな所に美味しそうなクッキー見っけ!ほら、ライくん口開けて?」

林檎はあたかも偶然見つけたかのように背後に隠していた机の上のクッキーを一枚手に取るとライチに駆け寄り口元に寄せた。

「ん…」

大人しく言われるがままに口を開けたライチに林檎はクッキーを入れると曇っていた表情が僅かに和らいだ。

「美味しい?」

「…‥」

林檎の問いかけに対し、小さく頷いたライチにその場の空気も和らいだ。

「ライくん、まだクッキーあるから一緒に食べよー?」

「俺はもういらないから代わりに食べて下さい」

「俺の分も食べろ、ライ」

「では、私は飲み物を用意しますね。抹茶ラテでいいですか?ライ」

「うん…冷たいの」

「分かりました。少し待っていて下さい、直ぐにお持ちしますから」

林檎のナイスな行動に檸檬・凌牙・グアバ・蜜柑は胸を撫で下ろすと何も無かったかのように口裏を合わせ機嫌を取り戻したのだった。

 *

「はぁ…やっと帰れた」

部活動が終わり帰宅して行く生徒達と同じ様にフラフラの足取りで女子寮へと帰って来た桃は自室に入るなり玄関前に座り込んだ。

「夏休みの準備もこれで何とかなったかな…」

ウトウトと瞼が閉じかけていると不意にドアを叩く音がし目を開ける。

コンコン…

「桃ちゃん、少しいいかしら?」

「寮母さん?」

だるい体を起こしドアを開けると青色の小さな紙袋を手にした寮母さんが立っていた。

「これ、さっき梅木 ライチ君から桃ちゃんに渡す様に言われてね」

何だろ…?

紙袋を受け取るとそっと中身を開け覗く。

白のタオル…?あ!あの時落として行方不明になったやつだ

水泳大会の日にライチから逃げる際に落ち行方不明になった自身の白いタオルを思い出し思わず紙袋の中身を凝視する。

「それ、桃ちゃんのだったの?」

「はい。届けてくれてありがとうございました」

「お礼なら私にじゃなくて持って来た梅木君に言った方がいいわよ」

「そうですね、会った時に言います」

「ええ。じゃあ、私はこれで…」

去って行く寮母の背中を見送りドアを閉めると紙袋からタオルを取り出し顔に近づける。

「あ…ほのかに梅の匂いがする」

洗剤と共に僅かに梅の匂いが鼻をくすぐり自然と頬が緩む。

「わざわざ洗ってくれたんだ…次、会ったらお礼言わないと」

ブー…ブー…ブー…

「ん?」

突然鳴り出した携帯にタオルを机の上に置き、ポケットから携帯を取り出して開くとそこには鳳梨 グアバの名前があった。

何なんだ?一体?

通話ボタンを押し耳に当てると久しぶりに聞いた上から目線の声が耳に響いた。

『俺だ。もう期末も終わったのだから協力させてやるぞ』

させてやる…?

「久しぶりに電話して来て最初にそれですか?他に言い方があると思いますけど」

『何だっていいだろ!?協力させてやると言ったら協力させてやるんだ!』

「あー、はいはい。期末も終わりましたし、協力出来ますよ」

『ふん、最初からそう言えばいいものをわずらわしいにも程があるだろ』

煩わしいのはお前の方だ

「で、本題は何ですか?」

『苺と夏休みに会う事になったんだ。お前にも協力させてやるから来い』

夏休みにヒロインとデートの話か。まぁ、夏休みに入ったら協力するつもりだったし協力してやるか…この弱虫暴君に

「いいですよ。後で日時と時間を教えて下さい」

『分かった、教えてやる』

「はい。では、これで‥」

『おい、待て…っ』

ん?

「まだ何か?」

『その、何だ…お前は俺の名前を覚えているか?』

名前?

「会長の名前ですか?」

『ああ、そうだ』

「鳳梨会長ですよね?」

『会長は名前じゃない!名前だ!名前!』

何なんだ?まったく…

「鳳梨 グアバ先輩。これでいいですか?」

『…‥』

…?

プッ…

「え?切れた?」

返事もなく勝手に切れた電話に首を傾げる。

「勝手に電話して来て勝手に切るなんて…何だったんだ?本当に」

スー…‥

「おや?まだ帰っていなかったのですか?グアバ」

「ああ、その色々あってな…」

何故か携帯を手にしたまま両手で顔を覆うグアバに蜜柑は首を傾げた。

「何かあったのですか?グアバ」

「それがな…好きな人じゃないのに名前を言われただけで鼓動が高鳴って…これは嬉しいというものであっているのか?」

耳まで赤く染まったまま戸惑いの目を見せるグアバに、蜜柑は目を細めた。

「グアバがそう思うのならそうなのかもしれませんね」

「え!?」

「何をどう思うかは人それぞれです。それに、私に聞いてもグアバが欲しい言葉は返って来ないと思いますよ」

「そうだな…」

新しい書類を机の上に置く蜜柑を他所に、グアバは既に切れた携帯を見つめ暖かな気持ちに満たされた。
























































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