リアルの恋は卒業したのですが猫系エリート商社マンの元カレと駄犬系後輩に迫られて困っています

たまりん

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きっと未練ではないのです

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それから、泉は宣言通り、3日間、私の看病をしながら過ごしてくれた。私の身体は平熱と微熱を繰り返しながらも徐々に本調子に近いところまで、回復していた。

「莉子先輩、莉子先輩!」

1日に何度もこだまするほど呼ばれる自分の名前と
泉の笑顔はとても温かい。

泉はまるで百面相するかのように沢山私を笑わせながら、甲斐甲斐しく世話をしてくれて、ついつい私もそれに甘えた。

「これ、めっちゃ、面白いっす!」

「これ、莉子先輩、絶対好きだと思うんです!」

「髪、俺、乾かしたいっす!」

二人でDVD鑑賞をしてああだこうだと言い合ったり、会社の事を面白おかしく語り合ったり、成功した料理に喜び合ったりした。

まぁ、思いがけず失敗した料理を前にあからさまにシュンとする泉の頭を撫でて、再び嬉しそうにするのに胸を撫で下ろしたりもしたけど…。


まるであの日の事さえ嘘だったかのように、いつも通りな泉。

きっとそんな環境に安心してる自分がいる。

いつも夜が深まると心地良い眠気が訪れる。
そして気がつくと私の身体はいつも丁寧にお日様の匂いがするフカフカの布団に包まれていて、ベッドの足元に敷かれた小さな敷物には泉が大きな身体を丸くして眠っている。

(犬みたい…)

そう思い、呆れながらも頰が緩む。

床の上に敷かれたコットンケット。

「ちょ、泉?まさかそこで寝るの?そこより、ソファーの方が絶対いいから…」

「やっす!…ここがいいっす」

そう言ってもここがいいのだと譲らない泉に、絶対に変なことをしないという条件でそれを許してしまう私も大概緩いし、そこがいいと言う泉もどうかと思う。

でも、この室温を温かく感じる私がいて、少し間抜けで、それでも幸せそうな泉も胸にくるものがある。

カーテンの隙間から月光が差し込む。

(明日からは、泉は会社なんだ…)

私も、もう行けそうな程回復したように思う。
それでも大事をとるよう会社から気遣われてあと二日の休みをもらうことになっている。

何だかんだで、この数日はまるで修学旅行みたいに楽しくて、旅行の最終日みたいな複雑な気持ちになってしまう。

(終わっちゃうんだ…)

そう思うとなかなか寝付けなくて、結局寝たのは明け方になり、目覚めた時、泉はもういなかった。

泉がいたはずの敷物ももう無くて、いつの間にか部屋もキチンと整理されていて、綺麗なのはいい事のはずなのに、突然心細くなった。

「泉……?」

そう呼ぶも時計を見て、固まる。

「10時……」

そうして一人になった事を悟る。

——いつも通りの部屋、自分の部屋。
なのに、色を無くしたように無機質に見えるのはなぜだろうか。

一息つき、寝室をでて小さなダイニングルームに入る。

(あ…)

テーブルに作られたモーニングセットのような朝食の横に、朝、昼、夜と書かれた薬が、小さなラップに巻かれ、それぞれ少し離して並べられているのに気付き、苦笑する。

(子供じゃないんだから……)

柄にもない細かな気遣いに、不覚にもなんだか泣きたくなった。

(行っちゃた…)

そう思った時、そのテーブルにあった置き手紙に気付く。泉の字…。

「おはようごさいます!よく寝てたので、仕事行きます。夜にまた来ます、まだまだ無理せず寝とかなきゃダメですからね!」

泉らしい、ちょっとだけ豪快なそれでも整った筆跡、それに添えられた泉の顔に似せたイラスト…。

(また、来るの……?)

その一言を目にして、沈んでいた気持ちが浮かぶ自分に戸惑う。

(わたし……)

その時、チャイムが鳴って、ハッとする。

(戻ってきた…?)

「泉……?」

そう言って出た玄関で、目の前の男を見上げて固まる。

「しょ、翔……?なんで…」

驚いた声で、自分の名を呼ばれた男は自嘲気味に微笑んだ。

「ごめん、じゃ、なかったってところかな?」


「………」


「でも、どうしてももう一度だけ、ちゃんと直接話がしたくって…」

そう、真っ直ぐに見つめられた私はコクリと頷いた。

「入っても…?」

そう言われて、少し迷った私は首を振った。

「丁度、散歩に出ようと思ってたの…、付き合ってくれる?」

そう切り返した私に、翔は小さな微笑を浮かべて頷いた。

「うん、ここで、待ってる…」

きっと、これから、どういう話になるのかなんて、二人共分かっている。

——たぶん、それくらいには分かり合える過去を共有しているから。


二人して、徒歩で五分程度の公園を訪れていた。

「この公園ってさ、昔にも一緒に来た事あったよね…」

そう切り出す翔に目を細める。

(覚えてたんだ…)

ここは、大学時代に何度か二人で出かけた水族館の最寄り公園だ。今、そのすぐの所に私は住んでいる。

「そう言えば、そうだね…」

なんて、どうでもいい事のように答えながら内心で自嘲する。

多分、まだ翔を引きずっていた頃の昔の私は無意識を装って、懐かしいこの場所に住居を定めたのだろう。

遠い昔の夏の日、花火大会でずぶ濡れになったのもこの場所だったから。

だから、これはある意味必然なのだと自嘲しながら、敢えてこの人の前では、それには触れない。
今更だから…

「思ったより、莉子は近くにいたんだね…」

そう言われて、複雑に苦笑する。

「そう、だね…」

そう言った後、沈黙に包まれる。

翔は黙ったまま、一つ長い息を吐き出した。

「知ってる?莉子の昔住んでたアパート、今は建て替えられて学習塾があるコーポに変わってる…」

「え……?」

私も知らなかった事実。
それを翔が知っている。

その事実に顔が歪みそうになる。
何かのついでに訪れるような立地ではないから。

「どうして俺、莉子の事、もっと早く見つけられなかったんだろうな…」

そう言って池を見つめて微笑む横顔が悲しそうに歪んでいる。

(探して、くれてたんだ…)

そう悟り、思う。

(いつ、私達の距離はこれほどまでに開いたのだろう…)

まるで、ダイヤグラムの上を踊らされるように上がったり、下がったり近づいたり遠ざかったり…。

息を切らせて、どれだけ懸命に追いかけても、相手はそれ以上の速さで加速して追いつけなくて…

もう走れないと涙を流して力尽き、迎えを待つように期待して蹲っていても、交わることはなくて、気付かされた…

(もう逢えないと、もうきっと翔はを歩いてるんだって…)

それでも時は続くから…
何処かに歩かない訳にはいかなくて…

(それでも生きて行かなきゃいけなかったから…)

ただ弱くもなりきれなくて…
立ち止まってはいらなくて…

新たな仮面を被り、歩いていたはずだった。
気持ちは後からついてくると自分を奮い立たせて…。

を…)

なのに、皮肉にも出会ってしまった。

何が二人をそうさせたのか…

(それでも、思うのだ…)

泉の上に落ちて来たあの写真の中に、あの頃の自分のあどけない笑顔を見た時、まるで走馬灯のようにあの頃の自分を冷静に振り返った。

若くて愚かで救いようの無いくらいピュアな自分。
疑うことも、恐れることも、打算も無く目の前の翔に夢中だった私。

——あの頃、私は本当に若かった。

そして、目の前のこの人もまた、不完成に若かったのだ。

だからこそ、あの日々は輝いていた。

答えを必要としていたのも、きっともう昔の事。
答えを求めて足掻いていたのも昔の自分。

それが分かった時、もう許せているんだと思った。
そして、もうのだとも……

(翔の逢いたい私は、きっと私ではない……)

そう思った時、一つの事実に気づいた。

(私は、まだ、ちゃんと告げてはいないのだ…)

自分の身の内にあった大切な思いを上手く翔に伝えきれていない。

逃げてしまったから…

それが互いに互いの存在が未だこんなにも燻り続けている原因なのだと思う。

(もう、逃げてはいけないのだ…。)

たとえ、今更だとしても…

あの頃の自分には出来なくて、今の自分だから出来ることもきっとあると思うから。















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