勇者と魔術師 外伝『先祖還り』

文字の大きさ
3 / 3

『先祖還り』3

しおりを挟む
 数十年に一人、あるいは数百年に一人、赤い瞳で生まれる赤子がいる。
 神殿の神術師に見つかると、深淵の魔物の写し身であるとされ、赤子のまま殺された。
 運良く生き延びると、そのうち瞳は普通の人間と同様の色になり、普通の人として生活することができた。
 そして、そのほとんどは旅に出て、深淵の魔物を倒す冒険者となる。

 千年ほど前、とある魔術師が記録を残した。
 深淵の王を倒した冒険者グループに所属の魔術師で、彼は1冊の本に、リーダーである軽戦士のことを書き記していた。
 時折見せる赤い瞳、冷たい肌、深淵の魔物の特殊な能力が及ばない肉体。
 彼に渡した魔道具は、どす黒い力の波動を呼び覚ました。

 神よ、この者の存在をどうか赦してください。
 深淵の王を倒すためには、彼の力がどうしても必要だったのです。
 神への赦しと祈りの言葉を、魔術師は記録の合間に書かずにはいられなかった。

 まだ彼と仲間になって間もないころ、深淵の魔物を倒すために遠出をしたことがある。
 そのときに寄った、深く暗い森の近くの小さな街で、子供に聞いたおとぎ話がずっと引っかかっていた。

 孤高の深淵の王と駆け落ちした令嬢の間に生まれた赤ん坊が、成長して勇者になったんだって!

 まさかそれが、ただのおとぎ話ではないとしたら?
 忌み嫌うべき存在と教育されている深淵の魔物と、人間の恋物語が語り継がれるなど、他の地域では考えられない。
 長い長い時を経て各地へ散らばり薄れた血が、ある日何らかの形で生まれた赤子に蘇るとしたら。
 そう考えると頼もしい仲間の異常な能力も合点がいく。
 
 ああ、神よ。
 彼は私の仲間であり、深淵の王を倒した勇者です。
 間違いなく彼は人間であり、これからもあなたのために深淵の魔物を狩り続けるでしょう。
 どうか、彼の存在を赦してください。

 最後に「先祖還り」と名付け、魔術師は記述を終えた。

 その本は王に渡り、しばらくして王立図書館の隠し部屋に暗号の鍵をかけて厳重に保管されることになった。
 王立図書館の管理者は何代にも入れ替わり、その度に隠し部屋の存在については知らされていたが、内容については知らされなかった。
 何を隠しているのかもわからないまま時が経ち、いつしか暗号の鍵は失われ、誰も入ることのできない隠し部屋になっていた。

 ひとりの天才魔術師が暗号を解いて鍵を開き、本を読んだ後、その本をそっと棚に戻して部屋を出た。
 扉を壁に偽装し、最初にかかっていた暗号の鍵をそっくりそのまま元に戻すことも忘れなかった。
 彼自身も透明化の魔法で姿を消していたため、部屋に入るのも、出ていくのにも、気づいた者はいなかった。
 彼は誰にも気づかれず、それこそ神にすら気づかれずに、王立図書館を去った。
 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

蒼河颯人
2025.04.05 蒼河颯人

これは勇者殿のファミリーヒストリー(大昔の)と言っても良い作品ですね
本編既読済みなら「おおお!!」とくる前日譚だなぁと思いました

2025.04.05

蒼河さんありがとうございます!
そうですね、できれば本編を先に読んでからにしていただきたい内容です!ご説明感謝です🙏
色々補足しないといけないんですけど頭が回ってないです…😂
これを読んでから本編に戻ると、色々とまた見えてくるかも…?ですね

解除

あなたにおすすめの小説

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。