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【9】甘い告白

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 オンエアの翌日、勇士郎は早起きをしてまずはシャワーを浴び、しっかりと朝食を取ってから、外出の支度をした。
 玄関を出ようとしたら、思いがけず雪が降っていて、勇士郎は慌てて部屋に戻り、マフラーとコートをより厚手のものに変えてから、傘を持って家を出た。
 夜の間から降っていたのか、すでに道路も家々の屋根も、真っ白に覆われている。
(バスとか電車、大丈夫やろか……)
 勇士郎は、温人が住む埼玉の町までの道のりを考えて少し不安になった。けれど、もし電車が途中で止まってしまっても、タクシーなど他の方法で行けばいい。
 勇士郎はどうしても今日、温人に逢いたかった。約束もしていないけれど、なぜだか必ず逢える気がしていた。
 最寄の駅まで行くバスに乗るため、いつもの公園に足を踏み入れた。この公園を抜けるのが、バスターミナルへの近道なのだ。
 すっかり葉を落とした木々が、白く雪化粧されていて、まるで水墨画の世界に迷い込んだみたいだ。
 この寒さと雪のせいだろう、公園には人影がなく、積もったまっさらな雪の上を、ブーツの底でサクサクと音を立てながら歩く。
 公園の中ほどまで来たとき、勇士郎はふと足を止めた。そこにあるのは屋根を白く覆われた東屋だ。その柱にもたれて行き倒れていた温人に声をかけたあの夏の日が、もう随分と前のことのように思われる。
 早く温人に逢いたくて焦燥に胸が騒いだとき――。
「ユウさん」
 ふいに名を呼ばれてハッと顔をあげた。懐かしい声に、胸の奥がキュウッと痛くなる。
 傘をあげ、おそるおそる声のした方を見ると、そこに立っていたのは、とても背が高く、澄んだ目を持った、勇士郎が逢いたくて逢いたくてたまらなかった男だった。
「うそ……、どうして」
 茫然と呟きながらも、勇士郎の足はすでに彼のもとへと歩き出していた。
 夢じゃないだろうか――。
 真っ白な世界に包まれていると、これがとてつもなく都合の良い夢のように思えてくる。
 けれど温人はいつまでたっても消えたりせずに、勇士郎がすぐ傍に辿りつくまで、穏やかな笑みを浮かべながらそこに立っていてくれた。
「温人……、どうして……」
 手を伸ばせば触れられる所まで来て、勇士郎は瞬きを忘れたように、愛しい男の顔を見上げる。
「あなたに、逢いに来ました」
 黒い傘をさした温人は、最後に言葉を交わした日よりもずっと大人の男の顔をして、包み込むような眼差しで勇士郎を見つめていた。
「どうしても、あなたを忘れられなかったから」
 静かに告げられた言葉に、勇士郎はちいさく唇を開き、そのまま言葉を忘れたように、潤み始めた瞳を揺らした。心臓がどきどき、どきどき、と高鳴り、それは脈打つたびにどんどん加速してゆく。
「埼玉に戻ってから、また眠れなくなりました。でもそれは悪夢のせいじゃなくて、ユウさんのことを考えてしまうから。最後の日に見たあなたの悲しそうな顔が、目に焼き付いて離れなかった。夜になるたびに、あなたが泣いてるような気がして」
 勇士郎は熱く滲んだ涙を懸命に堪えながら、温人の目を見つめ続けた。
「本当はすぐにでも逢いに行きたかった。でも自信がなかったんです。俺といて一つでも、ユウさんにとっていいことがあるのか、また困らせるだけなんじゃないかって。だけど昨日のユウさんの、あのドラマを観て、やっぱり諦めたくないと思ったんです」
 勇士郎がハッと目を瞠ると、温人は微笑んで頷いた。
「あの時、ユウさんが言ったでしょう。ほんとに自分の大切なもののために生きろって。俺、そのことちゃんと考えました。何度も何度も。離れてからずっと。家族のこととか、結婚のこととか、将来のこととか、ユウさんが言ってくれたことの意味を、真剣に」
「……」
「でもやっぱり何度考えても、ユウさん以上に大切なこと、俺にはないんです。だから来ました。あなたにそれを伝えるために」
 ついに堪え切れなくなり、勇士郎の頬を涙が伝った。
 温人は冷たい指先でそっとそれを拭うと、勇士郎の傘を畳み、そのちいさな身体を自分の傘の中へと引き入れた。 
 その瞬間、勇士郎は焦がれてならなかった広い胸に、顔を埋めて泣いた。
「……おまえに、抱かれたあと、ほんとは凄く後悔した。死ぬほど、後悔したんや。きっとオレは、おまえを、忘れられなくなる。会えなくなっても、この先ずっと。……それが判ったから」
 苦しげに肩を震わせる勇士郎の背を、温人は静かに、優しく撫でてくれる。
「でも、温人がレコードくれて、……こんなに、オレのこと想ってくれる、ひ、ひとは、他に、おらんて思った。…逢いたくて、すごく逢いたくて、…でも、オレはまだ、中途半端やったから、せめて、おまえに恥じない、ようなもんを、書こうと思ったんや。…それで全部ちゃんと終わったら、逢いに行こうって。好きやって、伝えようって」
 温人の手がふと止まって、そのあとすぐに強く抱き締められる。
「ほんとですか…、ユウさん、ほんとに俺を?」
「好きや、ほんまに、ほんまに、温人が大好きや…!」
「嬉しいです、ユウさん……!」
 温人が声を上ずらせるのを聞いて、喜びが全身を駆けめぐる。キスがしたくて伸びあがるけれど届かなくて、泣きながら見上げると、温人はたまらないといった顔で勇士郎の頬を優しく包み込み、身をかがめて素早くキスをしてくれた。
 そして真っ赤になった勇士郎を、東屋の屋根の下へと導き、少しだけ濡れたベンチに腰掛けると、勇士郎を自分の膝の上に横抱きに乗せてしまう。
「な、なに、温人、恥ずかしい」
 すると温人は持っていた鞄から赤と緑のギフトバッグを取り出して勇士郎に渡した。
「なに?」
「プレゼントです。絶対ユウさんに似合うと思って買ったんです。クリスマスの時に。渡せないって判ってるのに」
「……開けてええ?」 
「はい」
 リボンを丁寧に外し、中からなにやら温かい手触りのものを取り出す。
 出て来たのは、綺麗なベージュ色の、ニットキャスケットだった。
「ええー、ほんまに? ありがとう」 
 早速被ってみる。少しゆったりとしていたが、それが勇士郎のちいさな顔と大きな目をいっそう愛らしく引き立てた。
「やっぱり…、すごく似合う」
 温人が満足そうに目を細めながら、ツバの下に前髪を入れてくれる。
「ありがとう…すごい、嬉しい」
「髪の毛、伸びましたね」
「うん。でも、温人に切ってもらった髪を、他の人に切られてしまうんがイヤやったんや。…だから、また温人が切ってくれる?」
 首を傾げて訊くと、温人はいっそう甘く弛んだ眼差しで勇士郎を見つめた。
「もちろんです」
 ふと沈黙が落ちて、勇士郎が恥ずかしげに目を伏せると、温人は左腕でしっかりと勇士郎の腰を抱き寄せ、細い顎を指先ですくうと、短いキスをした。
「あっ……」
 勇士郎が思わず手の甲で唇を隠すと、温人は愛おしげに微笑み、その手のひらにもキスをした。
「は、温人、」
「大丈夫です。誰も来ないし、これ被ってたら、ユウさんの顔も見られません」
 ここで温人が帽子をくれた意味に気付いて、勇士郎はカアッとまた赤くなった。なんだか初めて出逢った頃よりもずっと、温人が余裕のある男に見えて、悔しいような、惚れ直すような複雑な気持ちになる。
 けれど、イヤですか? と甘く訊かれたら、首を横に振るしかない。
 冷たい唇がまた振って来て、温人のコートに包まれるように抱き締められながら、そこだけ熱い濡れた口内を貪られる。くちゅりと恥ずかしい水音が小さく響いて、ゾクゾクッと全身が粟立った。
「ぁふっ…ん……んん…ぅ……ふ……っ」
 気が付けば勇士郎も夢中で温人の胸にしがみつき、もっともっとと激しい口づけをせがんでしまう。
 雪は次第に大きなぼたん雪へと変わり、熱い息を交わす恋人たちを、白いベールのなかに、静かに包んでくれた。


 マンションに戻り、二人とも冷えたコートを脱いでハンガーにかけると、勇士郎は暖房のスイッチを入れた。
「身体、冷えたやろ、コーヒー淹れよか?」
 キッチンに向かった瞬間、後ろから抱きすくめられて、ドキンッと心臓が跳ねる。
「は、はる…んんッ」
 素早く身体を返され、また熱い口づけに捕まってしまう。薄い舌を、うねる肉厚の舌に絡め取られて、勇士郎の腰がくだけそうになった。
「は、ぁっ……待っ…はる……」
「もう待てない、あなたが欲しい」
 切羽詰まった声で耳元に囁かれて、ぶるりと身体が大きく震える。
「……ベッド…、連れてって……」
 勇士郎がすがるように言うと、温人は軽々と勇士郎を抱きあげ、部屋へと運んだ。
 ポスン、とベッドの上に下ろされた瞬間、性急にのし掛かられるのが嬉しかった。それだけ激しく求められているのだと判ったから。
 再び激しく唇を貪られたあと、まだ十分に暖まっていない部屋で、全ての服を脱がされた。勇士郎が潤んだ目を向けると、温人は自らも上に来ている服を脱ぎ捨てて、勇士郎の上に覆い被さる。
 熱く重い身体から立ちのぼる雄の体臭に、くらくらと眩暈がするほどの興奮を覚えた。
 男の身でありながら、男にこんな風に組み敷かれて悦ぶ自分が恥ずかしくて涙が滲む。けれどきっと温人だけは、そんな自分を優しく受け留めてくれる。すべて、許してくれる。
 そう信じられるから、勇士郎もこの悦びを隠したりはしない。
 深いキスを重ねながら、大きな手で、太ももから尻までを何度もいやらしく撫で上げられて、早くも息が上がってしまう。
「綺麗な肌してる」
 温人が耳朶に口づけながら掠れた声で囁いた。そんな賞賛にも、心が甘く溶けてゆく。
「ユウさんに、他の誰かが触れたのかと思うと、俺、気が変になりそうです」
 思いがけないことを言われて、勇士郎は温人を見上げた。温人はそんな自分の発言を恥じるみたいに、すっと目を逸らしてしまう。
「ち、違うよ、…オレ、今まで、誘われてつきあったこともあったけど、そのうちの二人とは手でやり合っただけやし、もう一人とも、…痛くて、最後まででけへんかった」
「え…」
「せ、せやからオレ…、あん時、ほとんど、は…初めてやったんや……、」
 恥ずかしい事実を告白しながら、勇士郎は居たたまれなくなって、温人の腕にしがみついた。初めてだったのに、温人に抱かれていると思ったら、すごく昂ってしまって、たくさん乱れて、気持ちよくなってしまって。
 淫乱だと呆れられてもおかしくはない。
「……ご、ごめん」
「なんで謝るんですか、俺、今ものすごく嬉しいんですけど」
「え」
 思わず顔をあげると、温人は本当に言葉通りの満面の笑みを浮かべている。
「ユウさん、こんなに綺麗で可愛いから、どれだけたくさんの人とつきあったんだろうって、俺、本気で凄い嫉妬してました。だから、あの晩もちょっと、乱暴になってしまって……、すみません」
 あの夜のことを改めて詳細に思い出し、勇士郎は真っ赤になった。
「え…ええよ、オレ、おまえにやったら、どんなふうにされてもええもん」
 ほとんど消え入りそうな声で、本心を告げると、うなるような声が聞こえて、思い切り抱き締められた。
「知りませんよ、そんな可愛いこと言ったらどうなるか」
「うん、温人の好きにしてええ、温人やったらええ」
 ありったけの恋心を素直に告げる。もう二度とこんな風に抱き合うこともないと思っていた男と、今またこうして肌を触れ合せることが出来たのだ。その幸せを知ったから、もう何もごまかすことはしたくない。
「あなたみたいに可愛いひと、俺、見たことないです」
「……やっぱり、おまえって、たらしや」
 勇士郎が赤くなってはにかむと、温人は眩しそうな目をして、それから勇士郎の身体をそっと抱き起こした。
 しっとりと唇を重ね、舌の根元をくすぐられ、先を甘噛みされてから、表面をねっとりと擦り合わせる。上顎を尖らせた舌先でなぞられると腰の奥に甘い疼きが走った。
 じゅわりと溢れ出す唾液を飲みかわし、それでも飲み切れない透明な液は、二人の唇の端から零れ落ち、顎を伝い落ちて首筋までを濡らす。
 濃密過ぎるキスから開放されて、勇士郎は陶酔しきった眼差しで一回り以上大きい男の身体を見つめる。
 もっともっと熱く、深く、その身体を感じたかった。激しく奪われて、すべてを温人のものにして欲しい。
 温人のモノはジーンズ越しにもすでに昂っているのが判る。勇士郎はそっとそこに手を伸ばして触れようとするが、温人の手によって止められてしまう。
「どうして…」
 悲しげに見つめると、温人は苦笑しながら、勇士郎を再びベッドに押し倒した。
「まだダメです。あなたを十分に可愛がってから」
「あ…んッ」
 いきなり胸に吸い付かれて、勇士郎は高い声をあげた。そこに温人が触れるのは初めてだった。
「ここ、すごく可愛い」
「……う……ほんまに?」
 温人の想いを疑ったりはしないけれど、やはり実際に温人の元彼女である明日香を見てしまうと、彼女の女性らしい身体つきに引け目を感じてしまう。
「つ…つまらんこと、ない?」
 勇士郎が瞳を揺らすと、温人は真剣な目でまっすぐに勇士郎の目を見つめた。
「つまらないわけないでしょう。俺のすごく好きなひとの身体ですよ。ユウさんは可愛いし、綺麗だし、すごく素敵なひとです。俺はほんとにもう、あなた以外、目に入ってない」
 真摯な言葉に胸が熱く震えて、勇士郎はぽうっと頬を染めた。その表情に、温人はまたかわいい、と囁く。それと同時に、薄いピンク色の尖りを熱い唇に含まれて、鋭い快感が突き抜けた。
「あ、あ、やっ…それ、いやっ…やぁっ」
 恥ずかしいほどに潤んだ声が、堪えても堪えても零れ落ちてしまう。勇士郎は慣れない快感から逃れようと必死に腰を捩らせるが、温人に両方の二の腕を抑え込まれているため、逃れることが出来ない。
「あああっ、や、いやや、んっ…だ、だめっ」
 反対側の乳首も舐めしゃぶられ、甘噛みされて、ゾクゾクーッと激しい快感が駆け抜けた。濡れたまま放置されていた乳首も、今度は指でつままれ、爪で弾かれて、二つの違った愛撫にすすり泣く。
「も、もうっ、やーっ、や、やめ…やだ、は、はる…ッ」
 どこにも逃しようのない快感に、ついに勇士郎が泣き声をあげると、温人は愛撫をやめて、勇士郎の軽い身体を抱き起こすと、眦に頬に、何度も何度も優しい口づけを落としてくれる。
「ごめん、怖かった…?」
 勇士郎は首を横に振るが、散々弄られて腫れぼったくなった両の乳首は、温人の肌と擦れるだけでも、ジクジクと疼くような快感を生んでしまう。
「ユウさんが可愛すぎて、俺、おかしくなってるかもしれないです…」
 どこか苦しそうに告げる温人が愛おしくて、勇士郎はそのがっしりとした大きな手を取り、少しためらったあと、おずおずと自らの中心へと導いた。
 そこはもうすでにしっかりと立ち上がり、先端から溢れる汁で濡れそぼっている。
「触って……」
 勇士郎がちいさな声で言うと、温人の喉が鳴るのが判った。
「ユウさん――」
「あっ…あぁ…んっ」
 硬い指先が触れただけで、痺れるような快感がびりびりと拡がり、身体の中心から指の先までを甘く支配してゆく。
「温人……、はると……」
 愛しげに名前を呼ぶと、温人は狂おしいような眼差しで勇士郎を見つめ返し、熱く濡れた勇士郎のものをゆっくりと扱き始めた
「あっ…ぁ……っいい……きもちぃ……」
 勇士郎がうっとりと快感に身を任せると、温人は自らも器用に下の衣服を片手ですべて取り去って、勇士郎以上に昂り切った砲身を、勇士郎のそれに添わせるように擦りつけた。
「あっ、すごい…温人の、おっきぃ、」
 勇士郎の言葉に煽られたように、温人がいっそう身を寄せ、ゆっくりと腰を上下させながら次第に摩擦を激しくしてゆく。
「ひゃあっ…あ、あっん、あ、は、温人、きもち…きもち、い……、温人…温人は、きもちぃ…?」
「すごく、気持ちいいですよ……ユウさん、すごくかわいいカオ、してる…」
「温人…もっと、ぎゅって…して…」
 勇士郎が温人の太い胴に抱きつくと、温人もきつく抱き返してくれる。自分の方がずっと年上なのに、こうしていると、自分がとてもちいさな子供になって、大人の男に守られているみたいだ。
 その腕は揺るぎなく、絶対の安心感を与えてくれる。
「温人、温人、大好きや…」
 じわじわと全身に拡がってゆく快感に身を委ねながら、素直な愛を告げると、温人は勇士郎を抱く腕をいっそう強くして、熱い唇で耳朶を軽く噛みながら、俺も凄く好きです…と低く甘く囁き返してくれた。 
「あんっ、あ、あっ…もう、」
 言葉の愛撫に激しく感じてしまい、勇士郎は限界を迎えつつあった。すると温人は勇士郎の前をいじっていた手を離し、今度は後ろからの愛撫を仕掛ける。
 汗ばんでしっとりとした勇士郎の尻を何度もいやらしく撫でまわし、それからおもむろに尻のあわいへと指を侵入させた。
「あっ」
 熱く湿った割れ目を辿りながら、期待に蠢く蕾へと指先が触れると、勇士郎はちいさく尻を弾ませた。
「ここ、自分でいじったりするんですか」
 蕾の周りを硬い指先でなぞられているだけで、うずうずとした快感の芽が蠢き出す。
 恥ずかしい質問に真っ赤になりながらも、勇士郎はコクリと頷いた。前回、温人が勇士郎の男性経験を誤解したのは、ここが柔らかかったからだ。温人には疑われたくないから、恥ずかしいことでもちゃんと告白する。
「お、お風呂とかで、…独りで、」
「どんな風に?」
 重ねられた恥ずかしい質問に、勇士郎は涙目になりながらもちゃんと答える。
「シャワー、当てたり、……指、とか」
「どんなこと、想像するんですか」
 いつになく意地悪な温人に、勇士郎はどんどん顔が火照ってくるのを感じた。普段は優しい温人も、色事においては、こんな風に雄の欲望を隠さないのだと思うと、戸惑いよりもときめきを覚えてしまう。
 そんな乙女みたいな自分を恥じながらも、勇士郎の身体はいっそう昂って、触られていない乳首までもが、また淫らに尖り出す。
「ねえ、ユウさん、どんなこと?」
「……は、温人のこと」
 消え入りそうな声で言って腕にしがみつくと、温人は嬉しそうな声でまた、かわいい、と言った。
「も…、早く……、お願いやから…」
 疼きまくっている尻をたまらずに揺らしながら、勇士郎ははしたなく強請った。
 その卑猥な動きに喉を鳴らしながら、温人が、何か濡らすものはないかと訊く。
 勇士郎はベッド下の引出しからローションのボトルを取り出して、おずおずと差し出した。使い掛けのそれを温人が訝る前に、お風呂の時に使ってるのだと告げると、温人は笑って、勇士郎の頬にキスしてくれた。
 とろみのある液をたっぷりと手の平に受けて、温人はそれを人肌に温めてから、勇士郎の尻を割るようにして、ゆっくりと塗り広げた。
 滑りのよくなった尻たぶを、大きな両手で挟み込むように愛撫し、勇士郎の甘い吐息を引き出してゆく。
 そしてさらにローションを足した指の腹で、温人は蕩け始めた穴を花びらのように、ゆっくりと開花させていった。
「ふ…ぁあ…んっ…あっあぁ…いい…きもち……ふっ…ん……はっ、ああっ――ッ」
 ヌクリと一本目の指が突き込まれると、覚えのある快感がぞくぞくっと背筋を駆け上がり、思わず胴震いをしてしまう。
「ユウさん、大丈夫?」
「ん、だいじょ…ぶ」
 少しだけそのまま馴染ませたのち、温人は濡れた内側の浅い部分をこね始めた。それから小刻みに上下に動かし、ぐるりと指を回した瞬間、勇士郎の身体を激しい快感が突き抜けた。
「やあーっ、あ、っぁあっーッ」
 電流が走ったかのような鋭い刺激に、勇士郎は思わず腰を振ってその快感から逃れようとする。
「すごい…ユウさん、ココがいいんだ」
 温人は後ろから弄っていた指を一度抜くと、今度は前から、綻び始めた穴に再び中指を突き入れた。そして先ほど勇士郎を痺れさせた場所を、指の腹でぐうっと押すと、勇士郎は高い悲鳴をあげて身悶える。
「いやっ、いややっ、それ、あ、あ、あ…も、もう……っ!」
 反らされた胸には赤く尖ったままの乳首が、温人を挑発するようにピンと突き出されている。温人はすかさずその片方にむしゃぶりついた。
「ひッ、やあぁぁあーっっ」
 二か所同時の甘すぎる責め苦を受けて、勇士郎はとうとう反り返った細い果実から、白濁を飛ばした。
 はあッ、はあッ、と荒い息を吐いて、眩暈のような感覚のなか、温人の胸になだれ込む。
 ぴくん、ぴくん、と小刻みに震える身体を、温人は熱い腕で優しく抱き留めてくれた。
「ユウさん、お尻と胸だけでいっちゃったんですか」
「……ふ……ぅぅっ……」
 快楽の涙を流しながら、甘えるように温人の胸に頬を擦りつける。
「すごく可愛い、ユウさん、ほんとに可愛くて、俺もう…やばいです」
 勇士郎が涙に霞む目で温人の下腹部を見ると、濃い叢からそそり立つ凶悪なモノが、先端から大量の先走りを溢れさせていて、そのあまりの卑猥さに、また強欲な炎が勇士郎の中心に点り始めてしまう。
 勇士郎はその強直にそっと両手を添えて、先端にちゅぷ…と口づけると、大きく口を開いて頬張った。
「ゥッ…、ユウ、さ……ちょっ……」
 温人が低く呻き声をあげ、勇士郎の肩を掴んで放そうとするが、熱心に奉仕する勇士郎の姿に煽られたのか、今度は逆に勇士郎の喉奥を軽く刺激するように腰を前後させる。
「んむぅっ…ぅ…ふっ……んんーっ」
 大きく張り出した先の部分で喉から内頬、上顎までをまんべんなく擦られて、勇士郎の目も鮮やかに潤み出した。愛する男の大切なものを咥える行為が、こんなにも激しい官能を呼ぶとは知らなかった。
「ッ…ユウさん…」
 苦しげな声に呼ばれて顔をあげると、熱く長大な肉塊がズルリと口内から引き出されて、あっと思う間もなく、勇士郎の顔にピシャリと温かいものがかけられた。
「あ、ユウさん、すみません…!」
 温人が慌てた声を出したが、勇士郎はそれがなんなのか判った瞬間、かああッと全身が火照るような羞恥と、同時にはしたないほどの悦びを感じた。
 勇士郎の綺麗な顔が汚された姿は、見る者に凄まじい欲情をもたらすらしい。温人は動揺した素振りを見せながらも、勇士郎の目尻から頬、唇を辿って、首筋までどろりと伝い落ちたそれを指の腹で拭いながら、薄く開いたままの勇士郎の唇に性急に口づけた。
 青臭い雄の匂いがするそれを、互いの唾液に絡めながら、激しく貪り合う。
「はっ…る、…んんっ…は……も、も、欲し、…ほしいっ……!」
 勇士郎は疼いてたまらないそこを、漲ったままの温人の屹立に擦りつけるようにして強請った。まるで発情期の猫のような自分の行為が、恥ずかしくてたまらないのに、その激しい羞恥がまた、かつえるほどの情欲を呼ぶ。
 温人は自分のものにもローションをたっぷりと塗りつけると、勇士郎をベッドに押し倒し、大きく脚を開かせた。ローションと先走りの汁でぐっしょりと濡れたそこに温人の先端が当てられると、勇士郎は潤み切った目で温人を見上げながら、はあ、はあ、と肩で息をした。
「ユウさん、力…抜いて」
 その言葉を合図にグウッっと巨大な塊がめり込んでくる。
「くッ…っあぁーーッッ」
 焼けた楔を打ち込まれたような衝撃ののち、ゾワゾワッと腰の奥から全身にまで、凄まじい快感が波紋のように拡がってゆく。
「ああっっはるッ、すご…いっおっきい」
 挿入の衝撃に溢れ出した涙を、温人が目をすがめながら、唇で吸い取ってくれる。
 まるで串刺しにされたみたいな感覚に陥って、しばらく唇をわななかせていると、覆い被さってきた温人が、勇士郎をすっぽりと抱き込んで、ひどく愛おしげに口づけた。
 それから勇士郎の下腹を濡らしている小ぶりな昂りをゆっくりと扱きあげ、耳朶にキスを繰り返す。
「んっ…いい……きもち…ぃ」
 温人の優しい愛撫に身体の強張りが解けて、強直を包み込む繊細な穴も、少しずつほころび始める。
「ユウさん…、大丈夫、ですか、動いてもいい?」
「ぅ……ん、ええよ…、動いて、温人」
 温人は勇士郎の華奢な身体をしっかりと抱き締めながら、ゆっくりと腰を使い始めた。
 濡れた襞を擦られるたびに、鳥肌が立つほどの快感が全身を包んでゆく。
「ぁあ…あ、あ、んっ、は、あ、ぁあっ」
 温人の動きは次第に速度を上げ始めた。引き抜かれ、浅い場所にあるあの火種を張り出した先で擦られると、身悶えするほどの快感が勇士郎を襲い、ひっきりなしに甘い悲鳴をあげさせられてしまう。
「いいの…、ユウさん、気持ちいい……?」
「うん、うん、…っすごい…きもち、ええよ…っ」
 揺さぶられながら温人を見上げると、温人もちゃんと勇士郎を見てくれている。それが嬉しくて、幸せで、潤んだままの瞳で微笑むと、温人を咥える肉輪がまたぐっと広がった。
「アッ、ゃっ、温人、またおっきなった…よ」
「ユウさん、そのカオ、反則…です」 
 温人は苦しげな息を吐きながら、想いのたけをぶつけるようにズンと大きく中へ突き込んだ。それは腰骨が痺れるほどの快感を生み、勇士郎はたまらず脚を強く温人の腰に絡めてしまう。
「いい…いいっ…は、温人、もっと、もっと…奥、突いて……っっ」
「ユウさんッ」
 勇士郎の媚態に何かが振り切れたのか、温人は勇士郎の細い腰を両手でがっしりと掴んで、ガツガツと穿つような付きあげを繰り返した。
「あーーッ、あ、あ、ああーっ、や、いや、あ、も、すご…いい…いいッ…、はるとッ」
 激しく舌を絡ませるキスを繰り返しながら、二人は夢中になって抱き合う。
 繋がったまま身体を起こされて、今度は真下から突かれた。乳首を甘く齧られながら奥を突かれると、もう何がなんだか判らなくなって、勇士郎は髪を振り乱し、身悶えながら泣き叫んだ。
「ああーー、も、もイクっいく、イッちゃ…いっちゃ…ぁ、ああーーーッ!」
 ひときわ激しく突かれた瞬間、目の裏に閃光が走り、勇士郎は凄まじい快感に震えながら絶頂を迎えた。飛び散った白濁が勇士郎と温人の下腹をしとどに濡らす。
「俺も、ッユウさ…、いい…?」
「ん、ええよ…っ、中…なか、出して……っっ」
 温人が低くうめいた瞬間、埋め込まれた太竿の先端がドクリと脈打ち、勇士郎の奥で温人が弾けたのが判った。初めて身体の中を濡らされて、勇士郎は深い官能に白い肌を震わせる。
「……ぁふ……ぅ……ん」
「ユウさん…」
「ん…、温人…」
 まだ繋がったままの身体を引き寄せられて、勇士郎は愛おしい男の胸に、うっとりと頬を寄せる。
「……すごかった……」
 勇士郎が甘く掠れた声で呟くと、温人は乱れた勇士郎の髪をそっとかきあげて、しっとりと口づける。
「俺も…、すごく、良かったです」
「……うん」
 温人が優しく髪を撫でてくれるのが、うっとりするほど気持ち良くて、胸の中が幸せで溢れてしまいそうだ。
 温人に脇を支えられながら、ゆっくりと繋がりを解くと、中で出されたものがトロリと奥から零れ出てしまい、勇士郎の内ももを生温かく伝った。
「ん…っ」
 そんな小さな刺激にも敏感な身体は反応してしまい、切なげに眉を寄せて目を伏せた勇士郎の色香に、温人が息を呑むのが判った。
「ユウさん、俺…」
 長い睫を重たげにあげると、再び兆した温人の欲望が目に入り、勇士郎もまた目を潤ませる。
「……うん」
 どちらからともなく、吸い寄せられるように口づけを交わし、恋人となったばかりの二人は、飽くことのない欲望の海に溺れていった。

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