鳥籠の中の執行者

蒼森丘ひもたか

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第二話

張り巡らされた糸の中で(上)⑤

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〇鷹空家


その後、朱兄の運転する車は小夜啼邸で百合子を降ろし、次に鷹見家の区画内にある鷹空家に到着した。
礼を言って車を降りた俺に朱兄は、

「俺はこれから、月曜日からどうするべきか、要さんに相談してみるよ。
時間も無いからね。」

今の時間だったら、要のおっさんは鷹見邸の事務所で残務処理をしているだろうから捕まるとは思う。

「だったら、俺も行くよ。
今日の見回りの報告もしなくちゃいけないからな。」

「それは今日のうちじゃないとダメなのか?」

「いや、毎朝、要のおっさんとは顔を合わせるから、その時で良いってことになっているけど?」

「なら、今日はもう休め。
怜姫さんや蒼姫ちゃんも心配しているだろう。」

確かに今日はいつもより疲れたし、俺が帰らないと蒼姫の奴は寝ないのだ。
お袋の困った顔が目に浮かんだ。

「……分かったよ。
月曜日からどうするか、後で教えてくれよ。」

「もちろんだ。
今日は引き留めて意地の悪いことを聞いて悪かったな。
おやすみ。」

「朱兄も無理するなよ。……おやすみ。」

俺は鷹見邸に向かう朱兄の車が見えなくなるのを見送った後、犬用リュックの中で気持ちよさそうに寝ているエイチを、庭にある犬小屋に入れてから家に入った。

玄関に入ると、蒼姫がトトトトッ!と凄い速さで二階から降りてきて、俺に首に飛びついてきた。

「凱兄ちゃん、おかえり!」

「おう。ただいま。」

俺は蒼姫を抱きかかえたまま、靴を脱いで家に上がると、苦笑いをしたお袋が玄関に顔を出した。

「凱、おかえりなさい。」

「ただいま。」

2人の顔を見ると安心したのか、どっと疲れが押し寄せて来る。

「ねー今日はどんなモンスターが出たの?」

階段を上がる俺に蒼姫が聞いてきた。

「大した奴には遭わなかったな。それよりも舞千と朱兄に会ったよ。」

「えー!いいなぁ!舞千姉と朱兄に会ったんだ!
で、殴り合いしたの!?」

蒼姫は目をキラキラさせた。
妹には拳で語るのが異常なコミュニケーションだということを、教える必要がありそうだ。
舞千の奴と一緒に……

「こら、蒼姫。
兄ちゃんも疲れているんだから、聞くのは明日の朝にしなさい。」

色々と聞きたがる蒼姫をお袋が窘めた。

「はーい。」

蒼姫は素直に返事をすると俺の腕から降り、

「母ちゃん、凱兄ちゃん、おやすみなさい!」

おやすみの挨拶をすると、部屋に入っていった。
ホント、嵐のような奴だ。

「凱、お風呂沸いているから入りな。」

「ああ、サンキュ。」

自室に脱ぎ捨ててあったパジャマを抱え一階に降りると、
お袋は腕を組んだまま、家の柱に体を預け何か考え事をしている。
俺が神器捜索の任に就いてから、こういうお袋の姿を見ることが増えた気がする。

「辛かったら、辞めていいのよ。」

辞めていい、というのは神器捜索のことだろう。

「また、それかよ。
大丈夫だって。百合子もエイチも一緒だし楽しくやっているよ。」

さっき朱兄と似た話をしたことで、その言葉に少し煩わしさを覚えた俺は、苦笑いしながら答えた。

「まだ中学すら卒業していない子供にやらせることじゃない。
……おじいちゃんは異常よ。」

お袋は俺が神器捜索をしていることを容認している訳ではなかった。
要から聞いた話だが、お袋は俺が神器捜索に専属で駆り出されることになったのを知ると、すぐに蒼源のジジイに抗議しにいったらしい。
しかし、お袋が抗議したところで、蒼源のジジイが考えを変えることは無かった。

月曜日からひと月、鳳凰院自動車研究所に勤める研究員?のボディガードをやることになったら、お袋や蒼姫にどう切り出したらよいものか……
それを考えると気が重い。

「それに、俺が神器を全て取り戻したら、鷹空家を鷹見から自由にしてもらうというのはアリだと思うぜ。」

「それをおじいちゃん……鷹見蒼源が許すとは思えないわ。」

「いやいや、あのジジイがご褒美として当主候補まで持ち出してきたんだ。
現実味はあるだろ?」

「気持ちは嬉しいけどね、それは蒼次……父さんと母さんが為すべきことで、子供のあなたが考える事じゃない。」

「けどよ……」

「疲れているのにごめんなさい。
お風呂が終わったら、お湯はそのままにしておいてね。」

お袋は話を打ち切るように茶の間に入っていった。
息子が危険な任務の前線に立っているなど、認めることは出来ないのだろうけど、俺だって出来るようになってきたことは、認めて欲しいものだ。

「なんで、俺達は鷹見の人間に生まれちまったんだろうな」

そう一人でぼやきながら、俺は風呂場の脱衣室に入っていった。


〇6月11日 7時50分 鷹見家


翌日、金曜日の朝の登校前。
いつものように自宅の前で蒼彦達と合流すると、早速、要が月曜日からの方針を俺に伝えてきた。

「月曜日からのことだが、特区、鳳凰院自動車研究所での護衛の件、とりあえず奴らの思惑に乗る形で進めていくことになった。
朱明君には私の方から、お前と小夜啼さんに伝えると言ってある。」

要が昨日の朱兄との話し合いの結果を俺に伝えてきた。

「そうか……朱兄は?」

「彼は反対したよ。
マスティマと名乗る少年を、腕利きを配置して捕えるべき、と主張していた。」

「だったら……」

そこで、要はおれの耳に顔を近づけ、

「……『お前のお爺様』のご判断だ。
今回、神器奪還は二の次。
最優先すべきは、鳳凰院の研究所に入り込み、現在開発を進めている、ある試作品の調査だ。」

耳打ちするように言う。

「はぁ?なんだよ、それ?
そんなの俺達の仕事じゃねぇぞ。」

俺は思わず声を上げた。
ただでさえ俺達は、誰かを護衛することに関しては素人同然なのだ。
別の仕事を入れられても困る。
俺の『お爺様』は何を考えていやがる。

「分かっている。
お前と小夜啼さんは、護衛に専念してもらう。
調査はエイチに任せる。」

「どういうことだ?
そもそも、調査をエイチに任せるって、そんなの無理だろ。
研究所の女の子に纏わりつく姿が、目に浮かぶぜ。」

要は静かに息を吐くと、目を瞑り、眉を眉間に寄せている。
要自身、エイチを使うことに、不安を感じているのかもしれない。

「無論、エイチの奴を野放しにできないだろう。
明日12日の午前10時から、護衛任務に関するミーティングを、鶴星セキュリティサービスと共に行う。
その後、研究所の調査任務について、詳細を説明する。」

「……了解。
あとさ、ついでに、お袋にも伝えておいてくれない?
月曜日からのこと。」

「言われなくても、そうする。
……怜姫さんと、何かあったのか?」

「別に何も無いけど……
お袋は、俺が神器捜索やっている事に納得していないのは、知っているだろ?」

「……分かった。上手く話しておく。
あと蒼源様からの伝言だが『お前は月曜日に向けた準備を最優先で行え』とのご指示だ。
また、任務が終わるまで修行は行わない、とのことだ。」

「よっしゃ!」

俺は思わず声を上げてガッツポーズをした。
しばらく、あのクソ稽古から解放されるぜ!

「ねーねー、さっきから何を話しているの?」

留美瑠を抱きしめ、頬ずりをしていた蒼姫が話に入ってきた。

「ああ、蒼姫ちゃんと雀木さんに、話しておかなければならないことがあるんだ。」

要が皆の前で、月曜日からのことを説明する。
まぁ、案の定……

「えー!一か月も嫌だよー!凱兄ちゃんと一緒に学校行きたいよー!」

蒼姫は俺の背中に飛びつくと、ギャーギャー喚き始めた。

「悪い人に……あ、あんさつされる………かも…です。」

留美瑠はこの世の終わりが来たかのように、真っ青な顔で小刻みに震え、何かをぶつぶつと呟いている。
それを見兼ねた要は、

「ご安心下さい。
蒼彦様、雀木さん、蒼姫ちゃんの付き添いは、暫くの間、私と鷹見家の腕の立つ魔術師で行いますから……」

要はニッコリと笑みを浮かべた。
すかさず、蒼彦が無言でパチパチ拍手をし始めた。
いかにもやらされているといったような、ぼーっとした表情でだ。

「……蒼彦様、ありがとうございます。」

その一言で、蒼彦は速やかに拍手を止めた。
ご主人様に何させてんだよ。

うちの姫様達を見てみると、蒼姫は「えー…」という表情で、いかにもつまらないといった表情をしており、留美瑠は特にリアクションが無いが、蒼彦の方を見て頬を赤らめている。
……要が不憫になってきた。

「はぁー、気を取り直して……皆、楽しく学校に行くぞ。」

俺の声に合わせて、蒼姫達も「おー!」答える。
幾分かテンションの高さを取り戻したようだ。

さて、やらなければならないことが色々あるな。
中学の方は、中山にひと月休むことを伝えて、後でノートを見せてもらうよう頼んでおくか……
あとは俺が居ない間、不良共が悪さしないように脅しをかけておかなくては……

そんなことを考えつつ、目の前に並ぶ、3つの黄色い帽子の動きに注意を払いながら、俺は学校に向かうのだった。
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