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第4話「新入りくん」中
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「私が庇ってあげるし~」
庇う、と言われて、少し固まる。
なんの冗談だと、お嬢様をまじまじと見てしまった。
今まで自分が気に入らなければ、どんな優秀な子でもあることないことを吹き込んで男爵にクビにしてもらっていたお嬢様が、庇う?
人のことを気にかけられるようになったのだろうか?
それとも、自分の一言で辞めさせられてしまうということに罪悪感でも覚えたのか?
いや、ありえない。
彼のことを気に入っているからだろうか?
彼が来てからお嬢様は、彼に付き纏っているらしいので気にいっているのだろうとは思っていたが、そこまでだったとは……。
言葉を失っていれば、お嬢様はベタベタとロンくんに絡んでいた。
けれど、あの男爵が、許してくれるだろうか。
貴族絶対主義の節があり、平民はこき使うものと思っていそうな人間が、自分の大切な娘に平民が近寄ってくることを許すだろうか。
ロンくんから近寄っているわけではないんだが、男爵ならば間違いなくロンくんからだと言い通す気がする。
ともかく、いくら可愛い娘の口添えがあっても、許さないのではないか。
そう思うも、彼女の言が通らないとも言い切れないので、口籠る。
押黙った私に、勝ったと言わんばかりのドヤ顔をして、お嬢様はさらに言い切った。
「それじゃあ、私はこれからロンくんとお茶するから」
ロンくんが困惑しているので、助けてあげたいけれど、あまり言いすぎるとお嬢様の機嫌を損ねることになる。
お茶ということは、ひどいことをされるわけではない。
むしろ、おもてなししてもらえるはずだ。
前回は、紅茶とお菓子をご馳走になったらしいので、危ないことはないはず。
そうやって言い聞かせて、罪悪感を和らげようとする自分に嘆息する。
これ以上引き止めるのは無理だろうと、ロンくんには申し訳ないが諦めるしかない。
ごめんねという思いを込めてロンくんを見れば、フルフルと首を横に振られた。
気にしないでいい、ということだろう。
彼は本当に、いい子だ。
「それから、授業の身代わりもよろしくね」
そういえば、そろそろ授業の時間だったか。
彼女は相変わらず授業を自分で受けたことがない。
「お嬢様、授業はご自身で受けられた方がいいです」
さすがに、そろそろやばいと思う。
彼女はずっと、勉強をせずに生きてきている。
お茶会を開いたり街に出かけたりしているので、ある程度の常識は持ち合わせているとは思うけれど、貴族としての常識や世界の常識で知っておくべきことを知っていない可能性があるのだ。
「嫌よ、勉強なんて攻略の役に立たないもん」
ぎゅうっとロンくんの腕に巻きつきながら、不機嫌にそう言い放たれる。
そのロンくんは、お嬢様の機嫌が悪くなってしまったせいか、顔を引きつらせている。
「ですが、」
「何?ナビのくせに、逆らうの??」
「……」
命令が聞けないのか、と言われれば、男爵の“地下室に閉じ込める”という言葉が過ぎる。
すぅっと冷えていく体に、思いの外、あの忠告を自分が怖がっていると実感してしまう。
使用人初日に建物の案内と称して、地下室まで連れて行かれた。
真っ暗で陽など入らない、じとっとした冷たい場所。
アランさんと一緒に行っても怖かった。
一人であそこに置いておかれるなんてきっと耐えられない。
だから、逆らうということはできない。
「ナビだって、勉強できて嬉しいでしょ?それじゃあ、私の代わりよろしく」
「……はい、」
手をひらひらとさせて、お嬢様はロンくんを連れて、ティールームへと向かう。
その背を見送りながら、ため息を吐く。
今のままでは不味いのだが、お嬢様に逆らえない。
けれど、このままいけば、この家の未来は真っ暗闇だ。
どうしたらいいだろうと憂いるも、支度をしてお嬢様の部屋に行かなければいけない。
いつの間にか、俯いていた顔を上げれば、すでに遠くにいるロンくんがそれでも心配そうにこちらを振り返っていた。
あんな気遣いのできる後輩一人守ってやれない先輩で情けない。
庇う、と言われて、少し固まる。
なんの冗談だと、お嬢様をまじまじと見てしまった。
今まで自分が気に入らなければ、どんな優秀な子でもあることないことを吹き込んで男爵にクビにしてもらっていたお嬢様が、庇う?
人のことを気にかけられるようになったのだろうか?
それとも、自分の一言で辞めさせられてしまうということに罪悪感でも覚えたのか?
いや、ありえない。
彼のことを気に入っているからだろうか?
彼が来てからお嬢様は、彼に付き纏っているらしいので気にいっているのだろうとは思っていたが、そこまでだったとは……。
言葉を失っていれば、お嬢様はベタベタとロンくんに絡んでいた。
けれど、あの男爵が、許してくれるだろうか。
貴族絶対主義の節があり、平民はこき使うものと思っていそうな人間が、自分の大切な娘に平民が近寄ってくることを許すだろうか。
ロンくんから近寄っているわけではないんだが、男爵ならば間違いなくロンくんからだと言い通す気がする。
ともかく、いくら可愛い娘の口添えがあっても、許さないのではないか。
そう思うも、彼女の言が通らないとも言い切れないので、口籠る。
押黙った私に、勝ったと言わんばかりのドヤ顔をして、お嬢様はさらに言い切った。
「それじゃあ、私はこれからロンくんとお茶するから」
ロンくんが困惑しているので、助けてあげたいけれど、あまり言いすぎるとお嬢様の機嫌を損ねることになる。
お茶ということは、ひどいことをされるわけではない。
むしろ、おもてなししてもらえるはずだ。
前回は、紅茶とお菓子をご馳走になったらしいので、危ないことはないはず。
そうやって言い聞かせて、罪悪感を和らげようとする自分に嘆息する。
これ以上引き止めるのは無理だろうと、ロンくんには申し訳ないが諦めるしかない。
ごめんねという思いを込めてロンくんを見れば、フルフルと首を横に振られた。
気にしないでいい、ということだろう。
彼は本当に、いい子だ。
「それから、授業の身代わりもよろしくね」
そういえば、そろそろ授業の時間だったか。
彼女は相変わらず授業を自分で受けたことがない。
「お嬢様、授業はご自身で受けられた方がいいです」
さすがに、そろそろやばいと思う。
彼女はずっと、勉強をせずに生きてきている。
お茶会を開いたり街に出かけたりしているので、ある程度の常識は持ち合わせているとは思うけれど、貴族としての常識や世界の常識で知っておくべきことを知っていない可能性があるのだ。
「嫌よ、勉強なんて攻略の役に立たないもん」
ぎゅうっとロンくんの腕に巻きつきながら、不機嫌にそう言い放たれる。
そのロンくんは、お嬢様の機嫌が悪くなってしまったせいか、顔を引きつらせている。
「ですが、」
「何?ナビのくせに、逆らうの??」
「……」
命令が聞けないのか、と言われれば、男爵の“地下室に閉じ込める”という言葉が過ぎる。
すぅっと冷えていく体に、思いの外、あの忠告を自分が怖がっていると実感してしまう。
使用人初日に建物の案内と称して、地下室まで連れて行かれた。
真っ暗で陽など入らない、じとっとした冷たい場所。
アランさんと一緒に行っても怖かった。
一人であそこに置いておかれるなんてきっと耐えられない。
だから、逆らうということはできない。
「ナビだって、勉強できて嬉しいでしょ?それじゃあ、私の代わりよろしく」
「……はい、」
手をひらひらとさせて、お嬢様はロンくんを連れて、ティールームへと向かう。
その背を見送りながら、ため息を吐く。
今のままでは不味いのだが、お嬢様に逆らえない。
けれど、このままいけば、この家の未来は真っ暗闇だ。
どうしたらいいだろうと憂いるも、支度をしてお嬢様の部屋に行かなければいけない。
いつの間にか、俯いていた顔を上げれば、すでに遠くにいるロンくんがそれでも心配そうにこちらを振り返っていた。
あんな気遣いのできる後輩一人守ってやれない先輩で情けない。
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