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第4話「新入りくん」後
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コトン。
その日の夜、別館の小さな庭に置かれたガーデンテーブルでぼうっと空を見上げていれば、ロンくんがカップを二つ持ってきてくれる。
「よろしければ、どうぞ、先輩」
「ロンくん……、ありがとう」
本当にいい子だ。
にこりと笑う顔はこちらを心配しつつも、安心させようとしてくる。
顔も良ければ、仕事もできて、気遣いまでできて、ダメなところなんて見当たらない。
じっと見つめていれば、カップに注がれていた視線がこちらに向いて、またも笑みを返される。
何故こんな子がこのお屋敷に来たのだろうかと疑問に思う。
確か自己紹介の際に、別の領地から働くために来たと言っていた。
彼ならば、どこの領地でも働き口を見つけられそうだけれど、なぜわざわざこの領地に来たのだろうか。
ここ、マリオット領は鉱山があって、特殊金属や宝石なんかで成り立っている。
農業は土地が痩せているせいか実りが悪く、働き口は鉱山での採掘か、金属や宝石の加工になる。
採掘は重労働で年齢がたしか10代後半から30代あたりまでだったし、加工は身元がしっかりしていて、魔法が使えないといけないはず。
決して良い働き口がある領地とは言い難い。
ロンくんは魔法の腕がかなりのものだが、もしかして加工職人になりたくて来たのだろうか。
けれど、ここにいるということは、身元がたしかではないということで雇ってもらえなかったのかもしれないので、聞いていいものか。
とりあえず、昼間のことを謝っておく。
「ごめんね、お嬢様を止められなくて」
ロンくんが持ってきたあったかいカップを包み込んで手をあっためる。
夜は少し肌寒い季節になってきた。
中世ヨーロッパを思わせながらも、日本の四季に似通っていたりする。
慣れなくて生活しにくいような、懐かしくて過ごしやすいようなといった複雑な世界だ。
「いえ、お茶を飲んだり、お菓子を食べたり……。お話してただけですし、」
予想通り、ひどいことはなくおもてなしされただけらしい。
けれど、使用人だって皆理解ある人ばかりではない。
中には、ロンくんがお嬢様を誑かしているなんて、噂する人もいる。
噂に疎い私ですら知っているのだから、気配りもできる彼ならば、疾うに耳にしていることだろう。
真実ではないことを、さも本当のことかのように話され、邪推した見方をされるのは気分がいいはずがない。
「先輩こそ、大丈夫ですか?」
彼も色々思うことがあるだろうに、そんなことおくびにも出さず、こちらを気にしてくれる。
本当に、いい子だ。
「慣れてるから大丈夫、」
へらっと笑ってそういえば、心配そうにこちらを伺ってきていたロンくんの表情が硬くなる。
ロンくんがカップを置いて、私の手を包んできた。
その行動にびっくりして固まっていれば、真剣な顔で見つめられる。
「……辛い時は言ってください。僕なんかじゃ、頼りないでしょうけど、力になります!」
イケメンの真面目顔はすごい。
「本当に、大丈夫っ」
「でも、脅されるようなことを、」
本当によく見ている。
昼間の私とお嬢様のやりとりから何かしらを感じ取ったらしい。
じっと見てくるロンくんに、なんと返せば安心させられるだろうかと思うも、今世はもちろん前世ですら、まだ子どもだけれどこんなイケメンに見つめられたことはない。
じわじわと正体不明の恥ずかしさが込み上げてくる。
すいっと目をそらせば、ぎゅっといまだに包み込まれたままの手の力が強くなった。
その状態もさらに、謎の羞恥心を爆上げする。
「何を言われているんですか?」
「な、何も言われてない」
「だったら、目を合わせてください」
無理。
君の顔の威力が凄まじすぎる。
笑顔の威力もすごいけど、キリッと真剣な顔もすごい。
だから、無理。
ふるふると首を横にふれば、くいっと顎を上げさせられる。
ひょわっ。
知ってるぅ、前世でいうところの顎クイ!!
「教えてください、先輩」
「命令を聞かなかったら、地下室に閉じ込めるって……」
イケメンには勝てなかった。
その日の夜、別館の小さな庭に置かれたガーデンテーブルでぼうっと空を見上げていれば、ロンくんがカップを二つ持ってきてくれる。
「よろしければ、どうぞ、先輩」
「ロンくん……、ありがとう」
本当にいい子だ。
にこりと笑う顔はこちらを心配しつつも、安心させようとしてくる。
顔も良ければ、仕事もできて、気遣いまでできて、ダメなところなんて見当たらない。
じっと見つめていれば、カップに注がれていた視線がこちらに向いて、またも笑みを返される。
何故こんな子がこのお屋敷に来たのだろうかと疑問に思う。
確か自己紹介の際に、別の領地から働くために来たと言っていた。
彼ならば、どこの領地でも働き口を見つけられそうだけれど、なぜわざわざこの領地に来たのだろうか。
ここ、マリオット領は鉱山があって、特殊金属や宝石なんかで成り立っている。
農業は土地が痩せているせいか実りが悪く、働き口は鉱山での採掘か、金属や宝石の加工になる。
採掘は重労働で年齢がたしか10代後半から30代あたりまでだったし、加工は身元がしっかりしていて、魔法が使えないといけないはず。
決して良い働き口がある領地とは言い難い。
ロンくんは魔法の腕がかなりのものだが、もしかして加工職人になりたくて来たのだろうか。
けれど、ここにいるということは、身元がたしかではないということで雇ってもらえなかったのかもしれないので、聞いていいものか。
とりあえず、昼間のことを謝っておく。
「ごめんね、お嬢様を止められなくて」
ロンくんが持ってきたあったかいカップを包み込んで手をあっためる。
夜は少し肌寒い季節になってきた。
中世ヨーロッパを思わせながらも、日本の四季に似通っていたりする。
慣れなくて生活しにくいような、懐かしくて過ごしやすいようなといった複雑な世界だ。
「いえ、お茶を飲んだり、お菓子を食べたり……。お話してただけですし、」
予想通り、ひどいことはなくおもてなしされただけらしい。
けれど、使用人だって皆理解ある人ばかりではない。
中には、ロンくんがお嬢様を誑かしているなんて、噂する人もいる。
噂に疎い私ですら知っているのだから、気配りもできる彼ならば、疾うに耳にしていることだろう。
真実ではないことを、さも本当のことかのように話され、邪推した見方をされるのは気分がいいはずがない。
「先輩こそ、大丈夫ですか?」
彼も色々思うことがあるだろうに、そんなことおくびにも出さず、こちらを気にしてくれる。
本当に、いい子だ。
「慣れてるから大丈夫、」
へらっと笑ってそういえば、心配そうにこちらを伺ってきていたロンくんの表情が硬くなる。
ロンくんがカップを置いて、私の手を包んできた。
その行動にびっくりして固まっていれば、真剣な顔で見つめられる。
「……辛い時は言ってください。僕なんかじゃ、頼りないでしょうけど、力になります!」
イケメンの真面目顔はすごい。
「本当に、大丈夫っ」
「でも、脅されるようなことを、」
本当によく見ている。
昼間の私とお嬢様のやりとりから何かしらを感じ取ったらしい。
じっと見てくるロンくんに、なんと返せば安心させられるだろうかと思うも、今世はもちろん前世ですら、まだ子どもだけれどこんなイケメンに見つめられたことはない。
じわじわと正体不明の恥ずかしさが込み上げてくる。
すいっと目をそらせば、ぎゅっといまだに包み込まれたままの手の力が強くなった。
その状態もさらに、謎の羞恥心を爆上げする。
「何を言われているんですか?」
「な、何も言われてない」
「だったら、目を合わせてください」
無理。
君の顔の威力が凄まじすぎる。
笑顔の威力もすごいけど、キリッと真剣な顔もすごい。
だから、無理。
ふるふると首を横にふれば、くいっと顎を上げさせられる。
ひょわっ。
知ってるぅ、前世でいうところの顎クイ!!
「教えてください、先輩」
「命令を聞かなかったら、地下室に閉じ込めるって……」
イケメンには勝てなかった。
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